第七話 ショッピングとジーベックの改装
ネオンが着る服は、耐久性と速乾性に優れている服が良いという本人の希望で、傭兵向けの服を売っている被服店へとやってきた。
思わぬ臨時収入を得たので、アレンも自分用の服とズボンを買い求めた。
「(2千万レボルは大金だけど、使い方によってはすぐ無くなる、適切な使い方を考えないと。最初にやるべきはやっぱりジーベックの内装の充実化と、シルヴァーナの整備用品を買い揃えるところか?)」
アレンは、服とズボンを適当に選びながら、臨時収入の使い道を考える。
「(他にやりたいことと言えばジーベックのシールドジェネレーターの交換か?、今のままだと航宙艦の砲撃に耐えられない、理想は装甲も変えたいが、それは二の次だな)」
アレンの頭の中で、ジーベックの改修計画が組み上がる。
「(武装も欲しいな、対艦レーザー砲と迎撃用のミサイル発射機構の取り付けは必須か。ジーベック単艦で自衛できるようになるのが理想だな。問題はその武装を扱える人間がいないことか)」
アレンは技術者だ、訓練を受けた人間ではない以上射撃補助システムやAIの助けがあったとしても、武装のフルスペックを発揮させることは、難しい。
加えて言うならば、艦の操舵にしてもそうだ、将来的には専門家を雇う必要がある。
(あとは戦力の拡充か、シルヴァーナの僚機として設計したARMSは…)
「アレン」
「ん?、ネオンか」
「どう?」
「どうって?」
ホログラムで作られた白い傭兵服を試着したネオンが、手を平げて着ている服を強調してきたのだが、アレンはその行動の意味を分からず、首を傾げる。
「女が新しい服を着たら、男は褒めるらしい。娯楽小説で読んだ」
「出典からして怪しいな」
アレンはそうは言ったものの、全くのデタラメにも聞こえなかったので、ネオンの着るホログラムの傭兵服を観察する。
「素材は?」
「違う」
「え?」
「性能の話じゃない、見た目を褒める」
「見た目」
「ん」
「えぇ?」
全く経験がないアレンは、盛大に顔を顰めるが、一度了承した手前、わざわざ強情になってまで断るほどではないと思い、言われた通りに、服を観察する。
「白色はネオンの髪色とよく合っているし、白鞘の剣とも統一感があって、綺麗だと思う」
「他には?」
「他?、白が好きなのか?」
「ん、清潔感があって好き。って違う、褒めて」
「分かったよ。ネオンによく似合ってる、君には本当に白が映える、これでいいか?」
「色しか褒めてないけど、まぁ、いい」
「満足したなら、早く服を買ってくれ。ネオンに相談したいことがある」
「ん、分かった」
◆◆◆◆
ジーベックに戻ってきた二人は、荷物を置いて、艦長室、ではなくシルヴァーナが佇む格納庫に集まる。
「似合ってるな」
「うん、そうでしょ」
購入した白色が基調の傭兵服は、やはりネオンによく似合っていた。
ネオンは白に近い銀色の髪をしているので、よく合うのだ。
「それで相談って言うのは、2千万レボルの使い道だ」
「うん、何に使うのが最適?」
「最優先にしたいのはジーベックの生命維持システムのアップデートと、内装を改装することだな」
「前者は分かるけど、後者も必要?」
「所々劣化してるところもあるから、改装は必要だと思う、やりたいのは外壁の張り替えだな」
ジーベックの内装は、劣化が目立つ、ろくに整備されてこなかったのが主な要因で、このまま放置するのは、技術者として許せないし、艦にも良くない。
「色々と言いたいことはあるのは分かってる、ただ艦に関しては俺に任せてくれ、絶対にネオンが帰れる場所を作ってみせる」
アレンの宣言に、ネオンは切れ長の瞳を細める。
「…アレン、私は娯楽小説でいろんなことを学んだ」
いきなり何を言い出すのかと思ったアレンだったが、とりあえず黙ってネオンの語りを聞く。
「その中で得た知見から、アレンは機械オタクのバカだって、思った」
「おい」
「おまけにただの機械オタクじゃなくて、共和国の歴史を変えるほどの発明をする大天才」
アレンがシルヴァーナの為に設計したエルトロンエンジンと、量子脳波により動く機動鋼翼は、間違いなく宇宙の歴史に残る発明だ。
ARMS単騎で、光速航行ができる機体など、この広大な宇宙でも、シルヴァーナだけだろう。
アレン個人が名誉に興味がないことと、兵器開発技術局の上層部が腐っていたこと、そしてそれらの設計図をアレンが破棄したこと、色々重なって、広大な宇宙に、その発明は知れ渡っていない。
「こんな時に聞くのも変だけど、どうしてアレンは私と一緒に来てくれたの?」
「俺はネオンとシルヴァーナに俺の全てを捧げると決めてるんだよ」
アレンは即答する。
「俺は別に共和国がどうなろうと、艦隊がどうなろうとどうでもよかったけど、ネオンは幸せになるべきだし、シルヴァーナは、ただの兵器で終わるべきじゃないと思ってるからな」
アレンは、シルヴァーナを見上げながら言う。
「アレン」
「ん?」
「アレンは、今私がどんな気持ちか分かる?」
「喜んでるのは辛うじて分かるけど」
ネオンは基本的に無表情なのだが、目が笑っていることにアレンは気づいていた、それと何故か頬が赤らんでいる。
「惜しい、けど今はそれで許してあげる」
「あ、ありがとう?」
「お金はアレンの好きに使っていいよ、次に使う時も一言貰えるだけでいいから」
「え?、なんだって急に」
「アレンに全幅の信頼を寄せてるってこと」
「それは嬉しいけど」
なんだが釈然としないアレンに、ネオンは薄く笑った。
◆◆◆◆
とりあえず2千万レボルの内1千万レボルを、ジーベックの改修に使うことを決まった。
アレンは、輸送艦ジーベックの内装を改修する為に、必要な外壁板の数を計算し、適切な値段と性能を持つ外壁板を販売する船舶会社を、探した。
いろんな会社を見た結果、傭兵向けに船舶を販売するオレット社に目をつけた。
オレット社が販売する外壁板は、アレンが満足する性能のものだった。
早速オレット社の支社に向かい、担当者のセールストークを交わして、外壁板の発注を掛けた。
次に行うのが、生命維持システムのアップデートと外壁張り替え工事の見積もりで、結論から言うと、少し予算からオーバーしてしまったが、アレン的には生命維持システムに妥協はできなかったので、多少高くなっても、構わないと考えた。
工期を決めて、諸々の仕事を終えたアレンは、新調した艦長室のベッド上で寝っ転がっていた。
「疲れた」
「お疲れ様」
ネオンは、隣に座ってアレンの頭を撫でる。
「ネオンもありがとうな、ベッドの新調とか、艦内の掃除とか、貨物室の整理とか、色々やってくれて」
「アレンが頑張ってるのに、私が何もしないわけにはいかない」
「シルヴィも手伝ってくれたし、アレンが改造した清掃ドローンも役に立ったよ」
「シルヴィはともかく、清掃ドローンはガラクタを弄り回した甲斐があったな」
「ジーベックの改装が終わったら、傭兵として本格的に働こう」
「ん、目指すは最上級ランク」
「だな、とりあえず今日はしばらくこのままでいいか?」
「いいよ」
疲れ果てたアレンを、ネオンは優しく介抱するのだった。
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