気がついたら東京湾
【本日3話投稿 07:05 12:05 17:05】
【アヴァロン島/気がついたら東京湾】
01:00 アヴァロン島・北側農地
地鳴りのように地面が揺れた。
逃げ込んだグリーンドラゴンを、アリシアが光の槍で串刺しにし、周囲のカブラ畑が派手にえぐれる。
「……やりすぎだ!! ここ農地だぞアリシア!!」
「必要最小限火力です」
「どこがだ!」
ウィルは頭を抱えた。
農地は島民一万人の生命線だ。特にいま、食料倉庫が全焼したばかりなのだ。
「どうすりゃ良いんだ」
何気なく、ウィルは顔を上げた。
いつの間にか、島を覆っていた白い霧は消えていた。
そして、彼の目に飛び込んできたのは……。
満天の星空、ではなかった。
「……なんだ、あれは」
そこには、満天の星空よりも眩しい、地上の銀河が広がっていた。
整然と並ぶオレンジ色の街灯。
海を跨ぐ巨大な吊り橋(レインボーブリッジ)の優美な曲線。
そして、彼方天高くに聳え立つ、光の塔。
「……工事中だったスカイツリーは、リーマンショックにも負けずに、完成してたのか」
ウィルの膝から力が抜けた。
間違いない。
見間違うはずがなかった
ウィルの前世、安藤守護が過労死した国、日本。
「今は平成何年なんだ?」
(いや、どうでもいい、それよりここは……)
「東京……湾か……ははは……」
乾いた笑いが出る。
郷愁?
そんな甘っちょろいものではなかった。
ウィルの脳裏に、
前世の記憶……
不動産チラシを作っていた広告デザイン会社の知識。
現世の記憶……
都市経営者としての責任。
二つの記憶が、悪魔合体して襲いかかってきた。
「ま、待て。落ち着けウィリアム。現状を整理しろ」
彼は震える手で頭を抱えた。
ここは日本。
法治国家。
東京湾内。
いや、首都東京の喉元。
直線距離で、霞ヶ関も国会議事堂も近い。
それどころか、皇居だって近い。
そこに、勝手にダンジョン島が出現した?
何が起きるのか? 簡単な答えだ。
「税務署が来るっ!」
ウィルは思わず叫んでしまった。
前世の常識が通じるなら、憲法9条が足枷になって、いきなりの自衛隊突入や武力鎮圧は選ばれないはずだ……ないよな?。
だが、ヤツはダメだ。
こんな一等地に島が現れたのだ。税務署は、必ず来る。
「税金はどうなる? 確か前世では……」
ウィルの思考が、勝手に走り出す。
「島に日本円は無いんだから、所得税や消費税は考えなくても良い。
だが、固定資産税はダメだ。
島の評価額はどうなる!?
港区と浦安の日本円地価相場が適用されたら!?」
ウィルの頭は真っ白になった。
「島の面積は、地球換算で大体20平方キロメートル……浦安市ぐらいの面積か?
しかも地球に無い魔力資産付き物件で!?」
不動産評価額で数兆円。
固定資産税1.4%
都市計画税0.3%
結果、毎年数百億『円』の納税義務が発生する。
「無理だ」
吐き捨てるように呟いた。
「この島の経済力は、中世に毛が生えた程度なんだぞ。
日本『円』で評価された固定資産税を、
島に存在しない『円』で納税できるわけがない」
請求が決まった瞬間に即死。
倒産 dead end。
島は即座に差し押さえ。
法的に存在しない島民は……
不法滞在者扱い、
良くて隔離施設送り。
人族と違う特徴のエルフやドワーフ、ましてや獣人なんか、外圧に負けた政府が諸外国に売り飛ばして、実験動物扱いだろう。
裏路地を走り回るガキども、
口うるさい婆さん連中、
荒くれ者の探索者、
小銭に汚い商人
……
ウィルの脳裏に、島民の顔が浮かぶ。
良い奴も嫌な奴も引っくるめて、一万人の人生を、彼は背負っていた。
前世の記憶、安藤守護が激しく主張する。
「……守らねば!」
ウィルは、光り輝く東京の夜景を、親の仇のような目つきで睨みつけた。
美しかったはずの故郷が、今は、牙を研いで島を食い潰さんとする、巨大な徴税魔獣に見える。
低音の声に、静かな決意が滲む。
「島の自治権は渡さん。二度目の倒産など、絶対に認めんぞ、断じて!」
ウィルは拳を握りしめた。
「日本政府が相手でも、絶対に引かん」
−−−−
異世界からの帰還者は、感動の涙を流す代わりに、税金との戦争を始める覚悟をした。
アヴァロン島で日本語を話せるのは、ただ一人。
全ての重積がその双肩にかかっていた。
次の更新予定
東京湾 ダンジョン島転移〜【日本政府vs異世界市長】〜 アリス&テレス @aliceandtelos
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