第5話 カミングアウト

 前年の年11月に文学賞受賞した作品が、翌年4月に書籍化されることが公表された。

 また、会社の管理からは、出版されて印税が入ってくることは問題ない、との認識をもらっている。

 ならば、いっそ文学賞受賞、出版決定を大っぴらに公開しよう、というふうに考えた。


 というのも、僕は以前から、小説を書いていて文学賞に応募している、ということを公表していたからだ。

(タイトルとペンネームは伏せていたけど。)


 僕が務めている会社では、朝礼で「1分間スピーチ」なるものを持ち回りですることになっている。

 一つの部署ごとに、そこに所属している人の前で、何かしらのネタを発表するわけで、まあ、人前で話すことに慣れる、という意味もあるのだと思う。


 それだけ聞くとよくある話なのだが、実は僕が所属している部署、朝礼時に200人ぐらいが聞いているという、かなりの大所帯なのだ。


 これまでも、


「文学賞に応募して、最終選考に残ったけど、あと一歩のところで受賞を逃した」


 というスピーチをしていて、それを聞いたU係長などはすれ違うたびに


「先生!」


 と、からかい半分で声をかけてくれていた。


「文学賞で最終選考に残った」


 という言葉だけ聞くと、わりと凄そうに聞こえたのだと思う。

 しかし、今回のスピーチではそれ以上の内容、


「ようやく受賞することができました! この7月に出版されます!」


 と宣言することができたのだ。

 すると、U係長は


「えっ、じゃあ本当に先生になるの?」


 という感じで驚いてくれたし、他にも、僕の上司に


「あの人が朝礼で言っていた内容の、小説のタイトルを教えてほしい!」


 というような問い合わせもあった。

(ちなみに、このときもタイトルは伏せていた。)


 やっぱり、「最終選考で落選」と、「受賞して出版される」では、インパクトが数段上のようだった。

 また、そのスピーチの中で、


「僕が数年前に小説を書いている、と言ったとき、『まあ文学賞でも受賞して出版でもされれば買って読んであげます』と言っていた同じ係の同僚には、是非約束を果たしてもらおうと思っています!」


 と冗談っぽく触れたところ、彼 (同僚Y)にはなぜか


「ちゃんと買うって言ってるじゃないですか!」


 と逆ギレされてしまった。

 ちなみに彼は後に購入してくれたものの、


「部屋が狭くなる」


 という理由で電子書籍版の入手であり、しかも


「ほかにもまだ未読の本があって、順番に読んでいっている」


 という理由で、未だに僕の小説は読んでもらえていない。


 しかしまだこの時点でも、「出版確定」の状態。

 実際に本が店頭に並ぶ7月まで、ヤキモキしながら、しかしワクワクしながら過ごすことになったのだった。

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