宇宙人襲来
- ゴロゴロ、ゴロゴロ…
天城は、少し戸惑いを覚えていた。
いきなり現れた猫獣人が亡き長男猫、ラシオンの生まれ変わりだということを確かめ、嗚咽しながらしがみ付くように抱きついた。そっと抱き返してくれたラシオンの大きな懐の中で彼の洋服の胸の辺りが涙でずぶ濡れになるのも気づかず泣き続けた。
しばらく泣いた挙句、涙を止めて落ち着きを取り戻せたかと思えばーー
- ペロ
「ゲッ」
涙でぐしゃぐしゃになった天城の顔を、ラシオンは舌で舐めては(猫舌のせいで、これが結構チクチクする)、今度は天城の顔に額をすりすりしながらさらにゴロゴロと喉を鳴らしているのだ。
これもまた、生前のラシオンが気持ちいい時や、嬉しい時やっていた仕草に違いない。
猫なら飼い主や心を許した相手に対して普通にやる行動かもしれないけど、それを天城という個人に自然にやれるというのはやはりラシオンでなければできないだろう、と天城は考えていたが…… これは絵面的に少しまずいのでは、と、嬉し涙を流していた気持ちが落ち込んできたら今度はどうしようもない混乱な気持ちになっていた。
それに、この額すりすりは、生前のラシオンが結構体の大きいデブ猫だった分、思わず押し出されるほどの圧力だったが、自分より体の大きい今の獣人の姿でこれをされると迫力がすごいというか、なんか、あれだ……
- スリ
「なあ、気持ちはわかるけど、流石にその姿でそれは…うわ、口はやめてくれ」
普通の猫は、自分の愛着を持つものに口元…というか、唇を擦りつけて自分の匂いを馴染ませようとする。
でも今のラシオンは、獣人、つまり人間と同然の姿をしているのだ。
と言うことは…
「キスだよ、それは!」
天城は辛うじてラシオンの口元を押し出しながら、必死に止めようとした。
「ダメですか?」
「ダメに決まってあろう!お前の倫理ではどうなっているか分からないけどね…成人男性同士で口と口を擦り付けるのは…色々まずいんだよ、普通は」
- ニタ
「だと思いました」
「はぁ?」
「わかっています、そんなことぐらい」
「お前…!」
イラッとしようとした瞬間、天城はあることに気づいた。
今、笑った?えっ?
そういえば生前のラシオンの顔そのままだとすぐわかってはいたけど、よく見ると頭の骨格が人間のそれに近いフォルムをしている気がしなくもない。
いや、体が人間のそれに近いから、頭の骨格がそれに沿えて少し変わるのもあり得ないことではない。だからといって人間の頭に猫の扮装をしたような奇怪な形ではなく(某有名ミュージカルをスクリーンに移したハリウッド映画がその件でひどく叩かれていたけど)、普通の猫の頭から、脳が肥大化したために額から頭頂部、そして後頭部にかけてが全体的に膨らんだように見える。あるいは、顎や咀嚼筋あたりがわずかに変化した、といった感じだろうか?
………と思ってみたが、生物学者でもない天城にそれを正確に把握する術はない。
とにかく、今はそんなことはどうでもいい。どうしてこんな姿になって戻ってきたのか、今までどこにいたのかをまず聞かなければ。
「…色々と聞きたいことはあるけど、とりあえず床に座ったままというのも、まあ、あれだな。ソファに座っていてくれ。飲み物でも用意しよう。
何にする?コーヒー?お茶?いや、カフェイン系はダメだろうな。ジュースもあるけど………オレンジ系も匂いがダメかな」
「いや、そんなものより…」
どこか気まずそうな顔でチラッとラシオンが視線を向けた先に、あるものがあった。
「ちゅ〜○?」
- ゴクリ
そこには、さっき天城が落としたエコバックからこぼれでた、商標権関係で軽く名前を言ってはいけない、あの有名な、ネコ科動物の大好きなおやつが床に散らばっていた。
***
「はぁぁ…これだよこれ…生まれてこの方、どれだけこの味を懐かしんでいたか」
いつの間にかリビングに出てきて、当たり前のようにそれぞれ天城とラシオンのそばでくつろぐ猫達。その彼らと一緒に、ラシオンはあの「ぺろぺろ舐める」おやつを堪能しながら、感慨深げな顔になっていた。
長身で引き締まった体の、いかにも「男性美溢れる」と言えるその姿で、小さなおやつのスティックをペロペロと舐めている姿には結構滑稽なところがあった。
「たかがおやつ1つで大袈裟じゃないか?」
思わず口に出したその言葉に、ラシオンの眉間に皺がよった。
「たかがおやつ?いくら父上でもそれだけは聞き捨てなりませんな」
「……え?」
「我ら
「フェリ…何?」
それでなくても理解が追い付いていない謎状況の中、また何がなんだかわからない言葉が出てきた。
「ああ、ここでいう猫の生まれ変わりの種族のことですよ」
「生まれ変わった…… え?お前、化け猫になったんじゃなかったのか?」
生前からラシオンを始めとする愛猫たちに猫又になってほしいと言っていた甘城だから、こんな姿になって現れたラシオンのことをでっきり猫又か化け猫なんだろうかな、と思っていたわけで……まあ、日本人の常識では「獣人」と思うよりその方が当たり前かもしれない。
「だから先、フェリノイに生まれ変わったと言ったじゃないですか。化け猫だのなんだのって、ヒトをお化け扱いしないでくださいよ」
「いや、生まれ変わり…は?だとしてもおかしいじゃないか。今日はお前の1周忌だぞ?たった1年でこうも立派な大人になった?」
「あれ?1年しか経っていませんでした?」
「な……」
何かおかしいと感じてはいたけど、これだったのか。
「念の為聞くけど、お前今、何歳だ?」
恐る恐る聞いてみる天城。
どうやら、とんでもない答えを聞くことになる気がしてならない。
「私ですか?今年で……70歳ですよ?」
- ぶほっ
天城は、盛大に吹いた。
「きったないなぁ〜いきなりどうしたんです父上?」
ケロッと言ってくるラシオンに、天城は思わずイラッとした。
「だからお前が私のそばからいなくなってから、1年しか経っていないというんだ!なのになんだ70歳って!私より年上の老人なのか!」
微妙に感じていた違和感はこれだったのか、と天城は感じた。
まさかの年上だなんて。
「私より年上となると……敬語でも使うべきかな」
思わずぶつりと口に出した天城に、ラシオンが呆れたような顔で答えた。
「老人だの年上だの、やめてくださいよ。これでもまだまだ若い青年ですから」
「あ、やっぱり妖怪か」
「違います」
ラシオンはキッパリ答えながら、あのおやつのスティックをもう一つ破いた。
気づけばもう6、7個の空になったスティックがラシオンの前のテーブルの上にきれいにまとめられてあり、そんな彼の周りで、『一人で全部食う気か!オレたちにもよこせ!』とでも言わんばかりに、ノルガーたちがニャーニャーと騒いでいた。
「こらこら、過食は良くないんだから」
そう言って弟たちを宥めるラシオンを眺めながら、天城は何かに魅入られたような気持ちが拭えずにいた。しかし、目の前の獣人の姿をしているラシオンは、猫だった生前のラシオンに『この子はこんな性格でいてほしい』と願っていた性格そのままなのが、微笑ましいというか、嬉しいというか、なんともいえない気持ちだったが、それより重要な問題があった。
「じゃ、お前、その70年間とこで住んでいたんだ?そんなに長い年月があったら、もう少し早く会いにきてくれても……」
と言い淀んで、自分は一体何を言っているのかわからなくなってしまう天城。
この1年間70歳も歳をとったなんて、過去に戻ったとでもというのか?
そんな考えを巡らせている天城に何気にラシオンが答えた。
「ああ、そうか、そういえばまだあれを言っていませんでしたね」
「あれ?」
「実はですね、私、この世界の者ではありません」
「やっぱり妖怪界!」
「違います!誰が化け猫だ!
ただ少し遠い星に生まれ変わっただけですよ!」
突然の宣言に、思考が追いつかない天城の目が点になった。
「……今なんと?」
「聞いてませんでした?少し遠い星に生まれ変わったって」
「はーい!宇宙人キターー!」
さらっと凄いことを言われた側で、天城はまた正気を手放したくなる気持ちをやっとのことで堪ていた。
亡き猫が獣人に生まれ変わったと言うだけでも荒唐無稽だというのに、それが宇宙人?
『設定盛りすぎやねん!このドアマチュア作家め!』
…と、行き場のない怒りをぶつけまくる天城の前で、ラシオンがもう1つ、おやつのスティックをゆっくりと、優雅な仕草で破いていた。
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次回、第4話「風と共に去りぬ」
1/4(日) 0時更新 お楽しみに。
次の更新予定
暇だから言ってみた「光あれ」 アインソフ @Einsoph
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