恋を自覚した日
末次 緋夏(なつしゅ)
第1話 恋を自覚した日
――心臓が、うるさい。
ドクン、ドクン、と。自分の鼓動が耳の奥まで響いてくる。
布団の中、私はひとり。夜の静けさが、余計にその音を大きくしていた。身体は熱を帯びている。
そして熱を持ったスマホの画面には、あの人とのトーク履歴が光っている。
顔も、ちゃんとした名前も知らない。
ただ、最初は――私が困っていたとき、偶然声をかけてくれただけ。
それなのに、あの日からメッセージを重ねて、気がつけば一日の終わりは必ずこの人のことを考えている。
違う、日中もずっと考えて心ここにあらずの状態だ。職場の同僚からは心配されている。
「顔、赤いけど大丈夫?具合悪い?」って。
具合が悪い訳じゃない。言えない、そんなこと。
今日もまた寝る間に布団の中であの人を浮かべている。
「……こころさん……」
そう呼ぶのも、スマホ越し。
なのに、名前をつぶやくだけで胸の奥がじわりと熱を帯びる。
あの人の言葉。笑い声。短い文章ひとつで、世界の色が変わっていくみたいだ。
恋なんて「もう二度とできない」と思っていた
現実の男の人は威圧感があって、声が大きくて怖くて。
近づくだけで息が詰まる。過去の記憶が喉を締めつける。
だから、恋は私にとって“無縁のもの”だったはずなのに。
――なのに、どうして。
こころさんと話すと、怖さが少しずつ溶けていった。文字と声だけなのに、心が温まっていく。
笑い声が、私の日常を染めていく。
「好き……好き、なのかな……」
どれだけ考えても、答えは出ない。
どうして?吊り橋効果?単なる執着心?
それとも……
わからない。けれど、胸の高鳴りは確かにここにある。
あの人を想うだけで身も心も蕩けてしまいそう
――そんな高揚感に支配されている。
頭の中がまるでフワフワとしている。
それだけじゃない、こころさんが悲しいと、
私も悲しくなってしまう。
叶うならスマホを越えて貴方の傍にいられたらと、そう願ってしまう。
もう、以前の私には戻れない。知ってしまったから。
これはたぶん本当に
「……恋、なんだ」
涙がひとつ、頬をつたって枕を濡らす。
この気持ちが報われることは多分――ない
恋を自覚した日 末次 緋夏(なつしゅ) @hykyu2120
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