第2話 100万円払えば助かると言われたので、人生ごと差し出した
結局、僕は逃げなかった。
正確に言うと、逃げられなかった。
目の前で、自分の頭に拳銃を突きつけている人がいる。
この状況で背中を向けられるほど、
僕は器用でも冷酷でもなかった。
「……分かりました」
声が、自分でも驚くくらい軽かった。
「100万円、用意します」
その瞬間、
拳銃を持ったその人の肩が、ほんの少しだけ下がった。
それを見て、
僕は間違いなくこう思ってしまった。
あ、今、助けてる。
コウサツくんが横で小さく舌打ちする。
「なあ、本気か?」
「本気だよ」
「その100万円、どうする?」
「……消費者金融」
言葉にした瞬間、
胸の奥で何かが鈍く鳴った。
でも、それ以上考えるのはやめた。
考えたら、引き返してしまいそうだったから。
―――
手続きは、驚くほど簡単だった。
本人確認。
限度額。
金利の説明。
画面の向こうで、
誰かの人生が数字に変換されていく。
「ご利用ありがとうございます」
その一言で、
僕は100万円を手に入れた。
それを、そのまま渡した。
「……はい」
震えていたのは、僕の手だったのか、
それとも、この人の手だったのか。
拳銃は、
ゆっくりと下ろされ、
地面に落ちた。
乾いた音。
その音を聞いた瞬間、
僕の膝から力が抜けた。
「助かりました!」
その人は、
まるで何事もなかったかのように笑った。
「本当に、ありがとうございます!」
その笑顔を見て、
僕は心の底から思った。
やってよかった。
「……よかったです」
そう言った僕に、
ふと、この人が聞いてきた。
「ところで、なんで自分の頭に拳銃を向けてたか、気になります?」
嫌な予感がした。
でも、聞いてしまった。
「……はい」
その人は、楽しそうに言った。
「こうやって自殺するフリするとね」
一拍。
「バカが、金をくれるんですよ」
世界が、止まった。
「……え?」
「世の中、意外と冷たいでしょ?
誰も助けてくれない」
そう言いながら、
その人は拳銃を拾い上げた。
「でもね、たまーにいるんですよ。
あなたみたいな、お人よしのバカが」
笑っていた。
本当に、楽しそうに。
「その顔、その顔!
だから、この詐欺やめられないんですよ!」
耳鳴りがした。
視界が、白くなった。
「……うそ、ですよね」
「本当ですよ?」
その人は、軽く肩をすくめた。
「命が助かった?
違いますよ」
「金が手に入っただけです」
気づいた時には、
その人はもう去っていた。
拳銃を持ったまま。
その場に残ったのは、
僕と、
スマホに届いた通知だけだった。
『ご返済予定日のお知らせ』
『返済額:◯◯円』
何通も、何通も。
助けたはずなのに。
正しいことをしたはずなのに。
胸の奥が、
じわじわと冷えていく。
コウサツくんの声が、
頭の中で響いた。
――後悔しないって、
――助けた後の人生も含めて言ってるか?
その夜、
僕は眠れなかった。
目を閉じると、
あの笑顔が浮かぶ。
「助かりました!」
あれは、誰が助かった顔だったんだろう。
少なくとも、
僕ではなかった。
助けるパート END
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究極の2択とか言いながら、どっちを選んでも救われないやつ イミハ @imia3341
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