第3話 下僕

 村が燃えているのを眺めていたら、何やら騒がしくなってきた。


「おい! なんだ? 何が燃えてんだ?」


 冒険者らしき格好の五人組が姿を表した。女性がいるところを見ると、この女の子を渡しても大丈夫に思えた。


「おい、女。俺は消えるからあとは、アイツらに助けを求めろ」


 俺は女にそういうと後ろを振り返った。森の中へと姿を消そうと一歩前に踏み出そうと前傾姿勢になったところで首を絞められた。


「えっ?」


「何カッコつけてんの? あんたがアレやったんだから、責任持ちなさいよ」


「いやいやいや。俺、ホブゴブリンだよ?」


「わかってるわよ?」


 責任てどういうこと?

 俺がやりましたって言って逮捕されろってことか?

 それは勘弁だな。


「一緒に事情を説明してよ。それと、あんたは私の従魔ということにするわ」


 ん?

 理解が追いつかない。

 従魔って何?

 あの、ラノベ系でよくあるやつ?


「従魔ってなに?」


「私の、し・も・べっ!」


「ことわ──」


 首を絞められて続きが言えなくなってしまった。くそっ。この女以外に力が強い!


 指を捻ってそのまま腕を捻りあげる。

 つい癖でやってしまった。


「いたいっ!」


 女が悲鳴を上げたため、咄嗟に離す。


「……なんかさ、あんた本当に言葉が話せるだけのホブゴブリン?」


「それ以外、何に見えるんだ?」


「今の抜け方とか、只者じゃない気がするのよねぇ」


 おっ?

 なんだ?

 惚れたか?


「ふっ。そうか? 俺は、ぜん──」


「──前科者?」


「犯罪犯してねぇわ! ホブゴブリンに犯罪もなにもあるかぁ!」


「プッ!」


 口元に手を当てて笑っている女。笑った姿はちょっと可愛かった。ちょっとだけな。


「面白いから、私の傍に置いてあげる」


「嫌だね」


「あの冒険者たちに、生き残りですって言って殺してもらう?」


 恐いなこの女。

 あの五人にも遅れは取らないと思うが、ここは素直に従うか。


「わぁった。じゃあ、事情を説明しよう」


 冒険者の元へと生き、事情を話すと目を見開いて驚いていた。


 話せるゴブリンなんて聞いたことがないという。


 女は希少種よね?

 と言って自慢げだった。


 森の外へと案内してくれることになり、一緒に後ろを着いていく。


「私、アンナ。あんたは?」


「俺か? ……カルマ」


 過去の業を背負って生きていく。そういう意味で名乗ってみた。


 カッコイイっていうのもある。


「ホブゴブリンに名前なんかあるんだ?」


「お前が聞いたんだろ!」


「いや、ノリで聞いてみたら、答えたから……」


 この女、人を小馬鹿にしやがって!

 なんなんだよ。


「一応あんだよ。名前」


「そっ、ならカルマって呼ぶわね? ホブゴブリンって言いにくいし」


「じゃあ、俺もアンナで──」


「──様」


「はっ?」


「様つけて」


 どういう性格してんだ?

 自分を様で呼ばせたいって、女王様かなにかか?


「何様だお前?」


「アンナ様」


「いやいやいや」


「ア・ン・ナ・さ・ま!」


 顔が付くんじゃないかと言うくらい至近距離でそう言われると、俺は負けてしまいそうだ。


「あ、アンナ様……」


「それでよろしい!」


 負けた。

 俺の中で何かが崩れ落ちていく。

 なんで、様って呼ばないといけないの?


「はははっ。仲がいいんだな?」


 前の五人組が俺たちのやりとりを聞いて笑っている。笑い事じゃねぇよ。こっちは死活問題だわ。


「良くわねぇだろ」

「そうでしょう?」


 俺の言葉をかき消すように答えるアンナ。この女、さっきまで泣きそうだった女とは思えない。


 こっちにウインクをしてくる。

 黙れということだろう。


 黙々とあとを着いて行くと、森をぬけた。そして、草原の先には街が広がっている。


 ほう。ヨーロッパっぽいか?

 石造りの家が多そうだ。

 固いから爆破しづらいんだよなぁ。


「まず、街で従魔登録よ?」


「はぁ。なにすんだ?」


「首輪を貰うのよ」


 おいおい。SMプレイじゃねぇんだから、勘弁してくれたよ。


「手じゃダメなのか?」


「ダメよ。魔力流すと首が締まる仕組みなんだから」


 だから、恐いって。

 

「それは言うこと聞かない魔物に使うものじゃねぇの?」


「聞かないじゃない」


 俺は……聞いてないか。


「パワハラ反対!」


「パワ? なに? 良いから行くわよ!」


 街に入ると石造りの街並みが広がり、香ばしい香りが腹を刺激する。そういやぁ何も食べてなかったなぁ。


 しかも、腰待き一枚の状態だから恥ずかしい。


 剣と盾の看板のある建物に入っていくアンナ。続けてはいる。一目散に窓口へ行くとなにやら話している。手招きをされて近付いていくと。


「ホブゴブリンを従魔に?」


「別にいいでしょ?」


「いいですが、他の女を襲わないようにしつけて下さいよ?」


 溜息をつきながら、そう答える受付嬢の言わんとするところはわかる。それに、恐らく変な性癖の持ち主だと思われていると思う。


「失礼しちゃう!」


 ギルドを出ると地団駄を踏みながら悔しそうにしているアンナ。俺なんか連れて歩くからそうなるんだ。


 あれ?

 なんか悲しくなってきた。


「で? どうすんだ? これから?」


「まずは、宿屋に行って服を着るわ」


 今露出狂みたいになってるからね。


「で、カルマの装備を整える。整えたら、依頼を受けに行くわよ!」


「えっ? 俺も?」


「当たり前でしょう! 下僕なんだから!」


 まぁ、こうなっては仕方ない。

 守ってやるか。


「あっ、ちなみに私、魔法使えないからね?」


「使えなっ!」


「不細工よりいいわ」


「良くねぇ!」


 先が思いやられるわ。







 ────────

 あとがき


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最強傭兵のゴブリン転生 ゆる弥 @yuruya

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