第2話
ターポリン内では、レインコートを着た三十四人の魔女が話し合っている。
まとまって話しているわけではなく、世間話のような会話――暗い雨ほど、暗くなく、明るい晴れより、明るくない程度のふつうの会話。
「もう二時間ぐらい? 雨降ってるし、中止中止」「てか、今日の作戦ってアレでしょ。なんで私たちがしなきゃいけないって話」
彼女たちは、42連隊と称されるサーヴァイアンの軍人であり、42連隊に属する第04小隊。サーヴァイアン共和国の兵士であり、サーヴァイアン生まれの魔女。
42連隊とは、魔女だけで構成された連隊である。
そんな魔女の連隊の第04小隊はサーヴァイアン共和国より遠い、フラック共和国のヴォース山脈、ヴォースの森にいる。
顔に当たっていた雨の水も僅かながらに乾いたフリーダは、黒い鉄の無線通信機器からの音を手持ちスピーカーで聞いている魔女の肩を軽く叩いた。
「疲れてないか?」
「いえ、大丈夫です。フリーダ軍曹こそ、あまり気を張らないでください」
フリーダの労わりに、片耳にスピーカーを当てながら彼女は答えた。そうか、とフリーダが言うと、別の魔女がフリーダに話し掛けてきた。
「やっぱり、行くんですかね? 雨だっていうのに」
天気を気にしながらも、やる気のなさそうなアデルハイトは外の雨を見た。さっきまでと変わらず、雨は降っている。
アデルハイトの問いに「たしかにな」と言いながら、フリーダは続けた。
「だが、行くだろうな――間違いない。どんな状況だとしても、私たち魔女は魔女と戦う。それがサーヴァイアンで生まれた魔女の役目……いや、責務と言える」
「忠誠的ですね、フリーダさんは。南部の田舎生まれだったり? サーヴァイアンの南部はそういう人が多いイメージありますしね」
「生まれは東部だ。この中のほとんどの魔女は西部生まれ、私は浮いているのかもな」
フリーダの生まれを聞いたアデルハイトは不真面目な態度を少しばかり改めて、言葉を返した。
「そんなことないですよフリーダさん、浮いてなんていませんから安心してくださいよ。それに、サーヴァイアンで生まれた時点で私たちはみんな同じ穴の狢。責務ってやつを、背負わされてるわけですしね。どうにもね」
アデルハイトの態度が気になったのか、アデルハイトとフリーダとのふたりの会話にまた別の魔女が話し掛けてきた。
「アデルハイト、あまり馴れ馴れしい態度はよしなさい。失礼しましたフリーダ軍曹。彼女は昔から、礼儀というのを持ち合わせておりませんので」
アデルハイトとは対極に位置するようなレーアが、アデルハイトとフリーダの間に入った。フリーダは、このふたりは仲がいいのだろうと捉えることができた。
レーアの話の内容、アデルハイトの彼女を見る目――長い付き合いだとすぐに感じ取れた。
(部隊にいるのは三十四人……。このうち四人はいなくならなくてはならない)
ザー、ザー、ザー……空から落ちる冷たい雨とは対照的に、ターポリン内は少々暖かい空間が広がり始めたときだった。
ザー、ザー、ザー……雨の音でない。スピーカーからの音。雑音混じりな音を聞いた無線通信機器の通信を担当する魔女は紙にメモを取った。
ザー、ザー、ザー……雨とスピーカーの雑音が入り混じるなか、ターポリン内の三十四人の魔女は会話を止めた。
(部隊にいるのは三十四人……。このうち四人はいなくならなくてはならない)
メモを取る魔女をフリーダは冷静に見つめ、「決まったようだな」と漏らした。通信を担当する魔女は言った。
「中尉からの伝令は、『雨は降りやむことなし。作戦を実行せよ』とのことです」
頷いたフリーダは他の魔女たちから距離を取り、声を上げた。この激しい雨の中でも聞こえるように、力強く、はっきりと。
「いまから私たち、04小隊は救出作戦に取り掛かる。知ってのとおり、サーヴァイアンの人間兵士が『ジャーマの魔女』に捕まっている。私たちはそれの救出に向かう」
誰が言ったか、ヤジを飛ばすようにひとりの魔女が「人間は自分のケツも拭けないのかあ!」と言い出し、周りの魔女もクスクスと笑い出した。
フリーダは「そうだ」と口調を変えずに言い放ち、周りの笑っていた魔女もフリーダに注目した。
「だから、私たち魔女。サーヴァイアン生まれの魔女がその尻拭いをしなくてはならない。なぜ私たちが、この戦地に立ち、誰のためにここにいるのか――言わずともわかるはずだ」
三十四人いる、一人ひとりの魔女がフリーダの言葉に首を縦に振り始める。納得したような顔をした魔女もいれば、どこか嘲笑的な魔女もいる。各々、抱えるものは違うのはフリーダの目からも見えた。
「どんな理由であれ、私たちに必要な言葉はひとつ、『
(部隊にいるのは三十四人……。このうち四人はいなくならなくてはならない。その四人をいま決める)
フリーダは続けた「マリー、アデルハイト、レーア、三人は私と来い。救出に向かうのは私も含めこの四人で行く。残りは救出後の撤退の準備にかかれ。雨の中だ、撤退でのアクシデントは死を招く。トラックのエンジンは暖めておけ」
三十四人の魔女のうち、四人を抜いた三十人の魔女はターポリン内にある物資や機材をトラックに積み込み始めた。フリーダのところには、マリー、アデルハイト、レーアが寄ってきて姿勢を正し、三十四人のうち、四人の魔女が集まった。
「装備の準備を。指揮は私が執る」
「イエス、マム」
三人は同時に答えた。
そしてフリーダを含め、装備を整えた四人の魔女はターポリンから外に出た。雨は四人の魔女たちのレインコートに直接降り注ぎ始めた――。
ザー、ザー、ザー……。
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魔女たちは魔女のために魔女を殺す 鴻山みね @koukou-22
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