魔女たちは魔女のために魔女を殺す

鴻山みね

第1話

「クソッたれな雨だ」



 ターポリン(防水布)に降り注ぐ雨は、周りの音を硬い布に雨粒が弾けるだけの音に変えてしまう。


 自然に溶け込むカーキー色のトラックはエンジンを落とし、周りで屋根を張ったターポリンの下には〝三十四人の魔女〟がいる。レインコートを着た三十四人のうちの一人であるフリーダは、夜の強く降る雨を見ていた。


(部隊にいるのは三十四人……。このうち四人はいなくならなくてはならない)


 斜めに入ってきた雨がフリーダの顔に当たってはいるが、長い銀髪をまとめた髪をレインコートのフードで隠しているのもあり、濡れてるのは泥に汚れた肌だけ。

 顔を伝う雨は泥汚れを少しずつ分解していた。



「なんだ?」



 フリーダは聞き返した。彼女の耳には何かが聞こえたが、その何かがうまく聞き取れなかった。

 雨を防ぐ天井のターポリンで弾け飛ぶ雨音は、フリーダの言う『クソッたれな雨』として彼女を邪魔していた。



「いつまでここにいるんですか? こんな雨じゃ、寒くて死んじゃいますって」



 三十四人のうちの魔女であるマリーはゴム製のレインコートの内側に両手を入れて、身体を左右に震わせながらフリーダにそう尋ねた。

 フリーダは視線を雨からマリーに移した。



「私たち42連隊の目的を忘れたのか、マリー。だが、中尉の連絡が遅いのはたしかだ」

「忘れてませんってば。ですけど、こんな雨の中にわたしたちの小隊、三十四人で行動なんて無謀ですよ。だって相手は〝魔女〟。銃火器なんてこんな雨じゃ――」


 降りしきる雨を確かめるようにマリーはターポリンから顔を出して、「――うわ、ちょう雨じゃないですか」と暗い空からの雨を覗いた際についた雨を、左右に顔を振ることで落としていた。



 顔を左右に振った際にマリーの頭からフードがずれ落ち、サッパリとした短めの髪と、どこか気楽な表情が見て取れた。

 フリーダはそんなマリーを見たあと、またターポリンの外に降る雨を見ながら呟いた。



「私たちも同じ〝魔女〟だ。そこに違いはない。あるとすれば……」

 視線を感じたフリーダが横を見ると、マリーが彼女を見ていた。

「聞こえていたか」とフリーダ。

「ええ、聞こえてました」とマリー。



 無邪気ながらも意地悪そうに笑いを見せるマリーに、硬い表情をしていたフリーダもほぐれるように柔らかくなった。

 フリーダもレインコートのフードを取り、長い銀髪がターポリン内を照らす暖色のオイルランプに照らされた。



「そうだな。違いがあるとすれば――生まれた場所だろうな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る