第6章:境界線上のセンス・オブ・ワンダー
「ニワカ」というスタンスは、単なる知識不足の言い訳ではない。それは、現代における一つの戦略であり、生存のための兵法だ。
情報のアーカイブが無限に膨張し、全知全能のオタクであることが物理的に不可能になった世界において、有効になるのは「先制攻撃と即座の離脱」である。
私たちは専門家ではない。だからこそ、ジャズのエッセンスを抜き取り、それをパンクな感情と混ぜ合わせ、ABBAのようなポップスの衣を着せて、自分の好きな場所へと連れ去ることができる。この「不純物の混入」こそが、文化に新しい代謝を促す。
どれほど深い習熟を得られなくとも、事物の境界線上――既得権者と革命者、伝統と現代、辞書と火花。その「あわい」にこそ、世界が鮮やかに更新される瞬間、すなわち「センス・オブ・ワンダー」は宿る。
マイルスが雲の上で眉をひそめようが、先輩がLINEグループで不勉強を指摘しようが、私はこの不安定な境界線の上に立ち続けたい。
習熟という名の重圧に押しつぶされ、新しい音に耳を塞いでしまうことほど、悲しいことはない。私は「ニワカ」という軽やかな翼を広げ、かつての権威たちが築き上げた城壁を、鼻歌交じりに跳び越えていく。
100の知識を得る者に、1の衝撃を。
100の正解を守る者に、1の誤読を。
私はこれからも、最強のニワカとして、この世界の表層を軽やかにつまみ食いしながら生きていこうと思う。その食べ散らかした跡にこそ、次の時代の、誰も見たことのない新しい地図が描かれることを、私は誰よりも確信しているのからだ。
TLDPのアビゲイル・モリスがドレスの裾を揺らしながら放つFワードは、今この瞬間も、どこかの誰かの「正解」を撃ち抜いている。その火花を、私は境界線の上で、いつまでも眺めていたい。
※彼女たちのバンド名The Last Dinner Partyは、キリストの『最後の晩餐(The Last Supper)』への不遜なオマージュを意図しているだろう。
彼女たちは聖書という人類最大の『通時的物語』すらも、自分たちの『汎時的なパーティー』の小道具としてつまみ食いしているのだ。
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