第3章:帝王の老害とオタクの城
かつて、この通時的な「正解」を守ろうとした巨大な城主がいた。ジャズの帝王マイルス・デイヴィスである。
1980年代、マイルスはスティングがジャズを引用した際、「白人の剽窃だ」と激怒した。かつて自身も伝統を破壊した革命児だったはずのマイルスは、いつの間にか「ジャズ」という聖域の守護者、すなわち通時的な既得権者になっていた。
マイルスを突き動かしていたのは、天才特有の傲慢さと、そして「オタクの業」である。歴史を、文脈を、血を吐くような思いで積み上げた者ほど、その城を汚す「ニワカ」を許せない。自分がルールを壊すのは「革命」だが、他人がルールをいじるのは「冒涜」だという二重基準。この、一種の「老害」とも呼べる執着は、実は現代のあらゆる界隈に蔓延している。
マイルスは若きウィントン・マルサリスが、ジャズを「アメリカのクラシック」として保存しようとする姿勢に対しても、「よう、ポリス(警察)のお出ましだな」と痛烈に皮肉った。マイルスにとってジャズとは常に、既存の枠組みを食らい尽くし、形を変え続ける怪物であったはずだ。しかし、彼自身が頂点に立ち、自らの「変化」を絶対的なルールとして打ち出した時、彼は誰よりも強固な城を築く守護者へと変貌してしまった。
オタクとは、知識という名の鎧を着込み、一つの場所に根を張る「城主」だ。彼らは真摯だ。真剣だ。だが、その真剣さがゆえに、城壁の外からやってくる軽やかな「つまみ食い」に、本能的な恐怖を覚えてしまう。
城を守る者は、常に孤独なのだ。その孤独が深まれば深まるほど、城壁は高く、厚くなり、汎時的な外の世界を「薄い」と切り捨てていく。
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