『夫と妻が見るもの』

香森康人

夫と妻が見るもの

 夫が、うつ病になった。

 それは本当に突然だった。ある日、夫が家に帰ってくると、「ごめん、由美、俺もう会社行けないよ。家から離れられない」と言った。

 結婚して三年目、夫婦二人三脚のうつ病との戦いが始まった。

 

 私(由美)と夫(礼二)は、二人とも都内の大学に通っていて、同じギタークラブで知り合った。それからいつのまにか付き合ってて、結婚して、礼ちゃんは会社に勤め、私は専業主婦になった。子供はいないが、二人の生活は順調だった。

 ところがある日、礼ちゃんは突然、会社に行かないと言い出した。

 そんな几帳面な性格ではないし、うつ病になるなんてとても信じられなかったけれど、人生なんて分からないもの。

 困ったことに、礼ちゃんには病識がなく、私が病院に行こうと誘ってもいつも拒否する。むしろ、「俺のことをそんな風に言ってる由美がおかしいよ。由美が病院いけ」とか言う始末だった。


 貯金を切り崩して、二人で慎ましいニート生活をしていたある日、ずっと部屋の中にいたがる礼ちゃんが、外に散歩に行こうと切り出してきた。

「そうだね、行こう! どこ行く?」

「あんまり一気には難しいから、近くの公園なんかどうだ?」

「いいね。じゃあお弁当持っていこうか! あとまだ昼間だけど、ビールも飲んじゃう?」

 私は、礼ちゃんが昼ビールと聞いてはしゃいでる姿を見て、幸せな気持ちになった。

 そう、この感覚。礼ちゃんとは、ちょっと話したり、散歩に行くだけでも、いつも楽しくて、ほっと安心できた。年とってもずっとこうしていたいな。

 公園は、平日の昼間だというのに結構な数の人がいた。子連れから、一人で歩いている若い男性まで色々である。

「人多いね。みんな仕事とか大丈夫のかな」

「・・・・・・そうだな」

「あっごめん、仕事の話とかどうでもいいよね。ごめんね、そんなこと忘れて、ゆっくりビール飲もう!」

「うん、飲むか・・・・・・」

 ビールを飲みながら、礼ちゃんがおもむろに話し始めた。

「由美さ、そのたくさんいる人達は、こんな昼間に一体何してるのかな?」

「えっ、何って子供と遊んだり、散歩したりじゃない? みんなゆっくり、生きてるのよ。人生長いんだし」

「そっか、みんな楽しそうだな」

「そりゃあ、人気のないところよりにぎやかなところの方が、楽しいんじゃない? でしょ?」

「そうだね、由美の言うとおりだな」

「でしょ! 礼ちゃんは、何にも考えずに、ゆっくり生活してくれればいいんだよ。あたしはそれだけで幸せなんだから」

 礼ちゃんは少し泣きそうになっていた。

「ありがとう」

 公園のゴミ箱には、人の割にはゴミが全然入ってなかったので、私たちもゴミは持ち帰ることにした。

「今度さ、駅まで散歩に行きたいな」

 礼ちゃんが言った。

「えっでも、そんな急に駅とか行って大丈夫かな? また辛くならない?」

「平気だよ。駅まで行きたい」

 礼ちゃんは、確実に少しずつ元気を取り戻していっているように見えた。


 次の日、礼ちゃんと私は二人で駅のホームが見える土手のところまで歩いてきた。

「礼ちゃん、見て! 今日もすごい人だね! ほら、電車もあんなに満員なのにまだ人が乗ろうとしてるよ! すごいね、日本のサラリーマンは」

「そうだな」

「ホームにもあんなにたくさん人がいるね!」

「うん」

 礼ちゃんが少しうつむいている。やっぱり、駅はまだ早かったんじゃないかな。会社のこと思い出しちゃうだろうし。

「大丈夫? 無理しなくていいんだよ」

「大丈夫だよ、本当に凄い人の数だな。本当に」

 礼ちゃんは泣きだしてしまった。

「礼ちゃん、今日はもう帰ろう。そんな急がなくていいよ。仕事しなくても、無駄使いしないで、ゆっくり生活すれば何とかなるよ」

 すっかり泣き虫になってしまった礼ちゃんは、まだ泣きやまない。

「由美・・・・・・、また明日来たい」

「辞めたほうがいいよ。明日は休もう」

「いや、また明日来たい。明日来よう」  

 私は仕方なく頷く。

「わかったよ。じゃあ、今日はもう帰ろうね」

「うん」

 礼ちゃんは家に帰ってから、一日中布団にくるまっていた。

 翌日、約束通りまた駅に来た。今日も変わらず圧倒されるくらい凄い混みようだった。

「今日も、本当に人が多いね。昨日よりも多いかも・・・・・・」

 礼ちゃんはまた目に涙を浮かべている。

「そんなに多いかな?」

「そんなにうつむいてたら、何も見えないよ。今日も凄い人だよ」

「・・・・・・どうしてなんだろう、訳が分からないよ。やっぱり俺のせいかな」

「なに言ってるの。そんなわけないでしょ」

 私は、駅のホームを眺めながら、焦りを感じていた。こんな所に来ても礼ちゃんの病状が良くなっているとはとても思えなかった。むしろ悪くさせている気がする。

「ねえ、一つ聞いていい?」

 私は、礼ちゃんを傷つけないように出来るだけ穏やかなゆっくりした口調で話した。

「どうして、駅なんて来たがるの? 病気を治すためとは、あんまり思えないんだけど」

 礼ちゃんは黙っている。急行電車がすごい勢いで目の前を通り過ぎた。

 私は不吉な想像をして、身震いした。

「どうしたの? 何を考えてるの?」

「あのさ、由美。実は大事な話がある。昨日もずっと言おうと思ってたんだけど、言えなかった」

 礼ちゃんの思い詰めた表情をみて、私の心臓の鼓動は一層早くなる。

「話ってなに?」

「由美、ちょっとあれを見てほしいんだ」

 礼ちゃんが指さしたのは、先程到着した満員電車だった。

「あれって、何のこと?」

「あれがどう見える?」

「どう見えるって、ただの満員電車じゃない」

「違うよ、何かおかしくないか?」

 おかしいって何が? いつもの光景だよ。

 ・・・・・・ん?

 私は、礼ちゃんが指をさしているものの意味がやっと分かった。

 あれっ、何これ? たしかにおかしい。ずっと気付かなかったけど、どういうことだろう?

 礼ちゃんが指をさしていたのは、ぎゅうぎゅうの満員電車にどんどん乗客が乗りこもうとしている扉の隣で、ただ立っているだけの駅員だった。

 そう、駅員は、立っているだけで、何もしていない。 

 朝のラッシュ時には、普通駅員は走り回ったり、乗客を後ろから押したりしてサポートするはずだ。それが駅員の仕事のはず。

 それなのに、そんな当たり前の光景がないのだ。駅員は涼しい顔をして、隣に突っ立っている。

「あの駅員、たしかに変だね。なんで知らんぷりしてるんだろう。あれっ、これってあの駅員だけ?」

「違うよ、由美」

 えっ、嘘・・・・・・。

 私は唖然として、言葉が出なかった。駅員たちは皆一様に、のんびりして電車が発車するのを待っている。

「この駅の駅員って、どうなってるの? なんでこんなにサボってるのさ」

 何故か声が荒くなる。

「昨日も今日も駅員が、乗客が乗りこむのを手伝ってることなんて、一回もなかったよ。一回も」

「そんな・・・・・・」

 私は戸惑いを隠せない。

「もっと言うとな、由美。昨日も今日も一度だって満員電車なんて来なかったんだよ。それに、駅で待ってる乗客だって、本当にまばらで、人が溢れるなんてことは一回たりともなかったんだよ」

 礼ちゃんはいつものように泣き出した。

 私は意味が分からない。

「えっ待って。だっていまだって満員電車来たし、いまだってホームは人で溢れてるじゃない?」

「違うんだよ、由美。分かってくれ。気が付いてくれ」

 礼ちゃんの涙がとまらない。

「由美お前はな、病気なんだよ。統合失調症で幻覚を見てるんだ」

 礼ちゃんの言葉の意味を理解するのに、随分時間がかかった。色盲の人が、世界のもう一色に気がつけないように、私も自分が病気だなんて信じられなかった。

 でも、礼ちゃんは私の幻覚に気付いていた。はじめに気づいたのは、些細なことだったらしい。

「今日ね、商店街、すごい人だったよ! なんかお祭りでもあるのかな?」

 忘れることが出来ない、買い物から帰った私が言った言葉だったそうだ。

「えっそうか? 会社の帰りにはお祭りなんてなかったけどな。そんなに人いた?」

「うん、すごい人だったよ!」

 礼ちゃんは、なんとなく私の言ってることが気になって次の日確認したけれど、やはりお祭りなんかなかったそうだ。

 極めつけの出来事は、二人で山に旅行に行ったときに起こった。

 二人でハイキングして、帰り道に山のトンネルを通っていたときだった。

「このトンネル、なんか人がたくさんいるね」

「はっ? 人なんて一人もいないだろ。って言うか、こんな夕方にこんなトンネルを俺たちだけで歩いてるのに、気味悪いからやめろよ。どこに人がいるって?」

「えっ、どこって、そこにもあそこにもたくさんいるじゃん」

「・・・・・・どこ?」

「どこって、そこだよ。見えないの?」

 礼ちゃんはこの時、初めて私の異常さに気づいたみたいだった。

「ちなみに、何人いるの?」

「うーん、十三人くらいかな」



 私の見える人の数は、どうやら少しずつ増えていってるようだった。礼ちゃんは、病院に行けと言っても聞かない私の病気を独学で勉強していたのだ。


 駅のホーム、私はまだ頭の整理がつかない。

「由美、聞いてくれ。お前の病気はな、統合失調症という精神の病気なんだよ。幻覚が見えたり、変な声が聞こえて誰かに命令されてるように感じたりするんだ」

 礼ちゃんは私を強く抱きしめてくれた。

「俺が会社に行きたくなかったんじゃない。由美の病気が心配で、由美のそばを離れられなかったんだ」

 礼ちゃんの真剣な声は、私を現実に向き合わせる力があった。だって、私が自分よりも信じてる人だもん。

「俺と由美はずっと一緒だからな! 一緒に病気と戦っていこう! 俺は、ずっとそばにいるから」

「・・・・・・うん」

 私は静かに泣いた。


 その日からの生活は、あまりそれまでとは変わりなかった。立場は逆だが、二人で病気と戦っていくのは何も変わりないからだ。私はいつものようにご飯を作って、掃除をして、礼ちゃんと散歩に行って、それで幸せだった。

 ただ、病気の進行は確実に進んでいく。

「由美、この公園の広場に人は何人いる?」

「うーん、まあ、ざっと数えて、二百人くらいかな」

「そっか。昨日よりも二十人くらい多いけど、やっぱり昨日より多く見える?」

「うん。だね」

 礼ちゃんは何度か軽く頷いた。

「でもまあ、家の中では見えないし、大丈夫だよ。心配なんかするなよ」

「うん、分かってるよ、ありがとう」

 この先、私がどうなってしまうのか。私よりも礼ちゃんが思い悩んでくれていることが痛いほど分かった。


 ある日、礼ちゃんが明るい声で言った。

「由美、今度久しぶりに由美のお姉さん夫婦に会ってこいよ。気分転換にさ。俺は家で待ってるから」  

 いつになく優しい微笑みを浮かべている。

「あっうん、そうだね、たしかに。最近長いこと会ってないし。そうしようかな」

 私は、疎遠になっている姉のことを思い出してみた。優しくて芯の強い姉だ。礼ちゃんの話だと、どうやら姉には、私の病気のことを先に相談してくれたらしい。

「お姉ちゃんに電話したの? 礼ちゃんが?」

「そうだよ、この前久しぶりに話をしたんだ」

 少し違和感を覚える。そんなことは初めてだったから。

 でも、気にしすぎか。

「じゃあ明日会ってこようかな。でもなんでこんな急になの?」

「いや、由美も、最近俺としか話してないからさ。そういうのって良くないだろ。やっぱり」

「別に悪くないよ」

「そうか?」

 なんかおかしかった。礼ちゃんの取り繕うような態度。明日、姉に会ったら相談してみようと決めた。

 

 翌朝、手ぶらも悪いと思ってケーキを買っていった。

「久しぶり由美! 最近、全然連絡ないから心配してたけど、大丈夫?」

「うん、大丈夫。家の近くの美味しいケーキ買ってきたから食べて」

「あら、ありがとう、さ、あがって。お昼作ったから」

 お姉ちゃんは、旦那さんと二人暮らし。旦那さんの仕事は外科医で、近くの病院に勤めている。ホントに忙しいみたいで、ほとんど家には帰って来れないらしい。お姉ちゃんは、調理師の免許を持っていて、近くのスクールで教えているぐらいだから、料理の腕は抜群だ。二人とも仕事に誇りを持っていて、仲のいい、素敵な夫婦だ。

「相変わらず美味しいね。私もこんな風に作れるようになりたいな」

 姉は嬉しそうに微笑んだ。

「最近体調崩してない? 由美、ずっと家に引きこもってるから」

「大丈夫だよ。全然。お姉ちゃんは?」

「私は平気よ。医者もついてるしね。まあ、ほとんど帰って来ないけどね」

「そうなんだ、旦那さん忙しいんだね。でもこのポトフ、本当に美味しいね。塩味もちょうどいいし」

「そうね、塩加減って難しいよね。しょっぱいのが好きな人もいるし、薄味が好きな人もいるし。由美は薄味が好きよね」

「そう、さすがお姉ちゃん、よく覚えてるね。礼ちゃんも薄味が好きだから、この味つけ覚えたいな」

「えっ何?」

「何って、塩味のつけかた覚えたいなって」

「そうじゃなくて、今、礼ちゃんって言った? 礼ちゃんってあの礼二くん?」

「そう、礼ちゃんだよ。そういえば、お姉ちゃんには私の病気のことを相談したって言ってたよ」

 姉の顔が、さっと青ざめる。

「何言ってるの、あなた」

「何って? 変なこと言った?」

 姉の目はしばらくあちこちを泳いで、それから声を落としていった。

「いや、なんでもないわ。それより由美、今日は帰った方がいいよ、早く帰りな」

「どうしたの? さっきから急に。何かあったの?」

「いいから、帰りなさい! 由美」

 私は、追い出されるようにお姉ちゃんの家を出た。何をあんなに焦っていたのだろう? 帰りながら、理由を考えてみたがさっぱり分からなかった。


 家に着いた。なんだかどっと疲れていた。

「礼ちゃん。 帰ったよ」

 返事がない。礼ちゃん?

「いないの?」

 返事がない。どこか行っちゃったのかな?

 部屋は、静まりかえっていた。気持ち悪いくらいに。

 言い様のない不安にかられて、外に飛びだした。

「礼ちゃん! 礼ちゃん!」

 もしいるとしたら、あの公園か。慌てて公園に駆けていく。

 公園には誰もいなかった。

「どうしてどこにもいないの?」

 ・・・・・・あれ? おかしいよ。

 私の目から涙が溢れてくる。

 だって、公園にはいつも、たくさん人がいて、昨日なんか二百人もいたのに、今日は一人もいないなんて・・・・・・、そんなのおかしいじゃん。

 まさか。

 息が止まりそうになって、駅に向かって死に物狂いで走った。

 改札口の駅員さんに強引に詰め寄る。

「誰か、人がホームに落ちたりしてないですか?」

 駅員は涼しい顔で返した。

「人身事故のことですか? いえ誰も」



 私は呆然として家に帰ってきた。

 家は相変わらず、死んだように静かだった。

 携帯電話がなった。お姉ちゃんだ。

「お姉ちゃん・・・・・・。私、どうしよう・・・・・・」

 私は泣きじゃくりながら、姉にすがった。

「由美、落ち着いて。どうしたの?」

「礼ちゃんがね、どこにもいないの。それに今までたくさん見えていた人達も全く見えなくなったの。どういうことなんだろう、これ・・・・・・。訳がわからなくて」

 お姉ちゃんは少し間をおいて、ゆっくり話し始めた。

「由美あのね、落ち着いて聞いて。由美がさっきから言ってる礼二くんってね、落ち着いて聞いてね、由美が大学生の頃に亡くなっているのよ。交通事故で」

 聞き間違いかと思った。からかいにしてはあまりにもひどい冗談だ

「ねえ、何言ってるのさ。お姉ちゃんだからって、変なこと言うと怒るよ? そんなことあるわけないじゃん。だって、何年もずっと私は礼ちゃんと生きてきたんだよ。結婚もしたし、毎日楽しく生活してきたんだよ。そんな訳ないじゃん」

 お姉ちゃんは、ゆっくりと、しかしはっきりと話しを続ける。

「礼二くんが亡くなった後からね、由美は少しずつ、ちょっと変なことを言うようになったのよ。人がいないのに人がいるとか、礼二くんと一緒に暮らしているかのように話をしたりとか。私も、何度もこのことを言おうと思って悩んでたんだけど、由美があまりに幸せそうだったから言えなかったの。ごめんね・・・・・・」

 いままで静かに話していたお姉ちゃんも、私と同じくらい大きな声で泣きはじめた。

「ごめんね、由美。本当にごめんね」

 そんな・・・・・・。無理だよ、そんなの。

「私ね、考えたの、どうして今日、礼二くんが由美に、私の家に来るように言ったのか。どうして、礼二くんが今日突然いなくなってしまったのか」

 私には、お姉ちゃんの声がよく聞きとれなくなっていた。

「私はね、やっぱり、それは礼二くんの優しさだったと思うの。礼二くんは、由美が自分に会いたくて病気を発症してまで自分のことを作り出してしまったこと、そして、その病気がどんどん進行していることにすごく悩んでいた。でも、自分がいなくなった時の由美の悲しむ顔を想像するとそれも辛くて、どうしても由美のそばを離れることができなくなってしまった。それに何より、礼二くん自身が、由美と一緒にいるのが楽しかったんだと思うの」

「うん」

「でもね、でもやっぱり礼二くんは、由美の病気が進行して、由美が生きていけなくなることが一番辛かったんだと思う。だから考えたのよ。自分が原因で発症してしまった病気なら自分がいなくなったら、もしかしたら良くなるんじゃないかって」

 礼ちゃんと包みこんでくれるような優しさを、体の周りに感じた。

「だから、礼二くんはいなくなったの。由美の前から。それで、由美の病気は良くなった。多分、今日私に会いに行かせたのは、私からこのことを由美に伝えてくれっていう、メッセージなんだと思う。そういうことだと思うのよ」

 私は泣き崩れた。結局、私には礼ちゃんとの人生しか考えられなかったんだ。死んでからも優しい礼ちゃんに甘えて、迷惑かけて、悲しい思いさせて・・・・・・。

 最後に見た、普段通りを装った、涙を見せなかった、あの礼ちゃんの顔が目に浮かぶ。

 どうして私ってこんなに弱虫なんだろう。

「礼ちゃんのお墓はどこ?」


 翌日は、よく晴れた気持ちのいい日だった。

 命を落とした後も、一人の女性を愛しつづけた大学生のお墓の前で、愛された女性は、感謝して祈っていた。

「強く生きていくからね。もう泣かせたりしないから、心配しないで」


                              終わり


 


 


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『夫と妻が見るもの』 香森康人 @komugishi

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