第4話 和平への実現に向けて

 結局僕は魔王の提案を呑んで、魔王に誘拐されることにした。魔王は皇女様の攻撃も追いつかない速さで湖の上を飛び、魔王城のとんがり屋根に降り立つ。


「ちょっとここで待ってろ」


 僕を窓辺に置いた魔王が空中で一回転すると、人型だけどドラゴンであることを匂わせる姿に様変わりした。赤い角に翼、鱗が生えた長い尻尾。魔王だからもっと威厳や貫禄があるのかと思っていたけど、僕とそれほど変わらない年頃の男子に見える。


「勇者サマ……そういえば名前聞いてなかったな。オレはエイラートだ。お前は?」

阿久比あぐい悠介ゆうすけ

「アグイユースケ? 発音しづれーな。名前はどれだ?」

「悠介が名前だよ」

「じゃ、ユースケだな。ユースケもオレのこと、名前で呼んでもいいぜ」

「レイラート?」

「惜しい、エイラートだ」


 聞き馴染みがないのはお互い様だろう。僕が異なる世界から来たのだから仕方ない。

 人型になった魔王――エイラートが窓を開けて中に入る。


「ここがオレの部屋だ。ユースケの匂いで我を失う奴はうろつかんから安心しろ」


 外観が物々しいから中に入るのを躊躇ったけど、とんがり屋根の窓辺にいるよりましだろう。エイラートに続いて中に入ると、ベッドとテーブルと椅子がある普通の部屋だった。


「ユースケ、オレは和平交渉をしたいんだ」

「え、誰と?」

「帝国のトップとするのが一番だが、皇帝は親父との戦いで左足を失った。あれから十年経ったし、そろそろ次の皇帝を決めるときじゃねぇか? だから次期皇帝が話し相手だ」


 次の皇帝の座を争っているのは第二皇子と第二皇女であるフェリシアと聞いたことがある。年齢的にも実績的にも有利なのは第二皇子、だからこそ皇女様は勇者ぼくを召喚してまで魔王レイラートを討伐しようとした。


「僕の所感だけど、皇女様……いや、第二皇女は魔王を討伐するまで引かないと思う」

「オレと同意見だな。だが、第二皇子の方も兄を奪った先代魔王おやじを憎んでいるらしい。どっちも和平について話し合うより攻め滅ぼした方が早いと考えてそうだ」

「交渉できる相手いないじゃん……」


 八方塞がりに思える状況に、エイラートは「一つだけ手がある」と自信ありげに言った。


「皇帝が再起不能なのが問題なんだ。アイツさえ元気になれば任期を伸ばせる。そうすれば和平合意の席についてくれるはずだ」

「でも、皇帝が始めた戦いじゃないの? 十年前の魔王討伐も皇帝が先陣を切ったと聞くし」


 こんな大陸の端まで追い込んでおいて、今更和平などするのだろうか。再び軍勢を引き連れてエイラートの首を取る気がする。


「いや、戦いはオレが生まれる前から続いてる。親父が全盛期だった頃は帝国軍も手も足も出なかったらしい。オレが生まれても百年くらいは強者であり続けたな」

「……えっと、エイラートは何歳なの?」


 生まれてから百年経っても、という意味に聞こえたので念のため年齢を確認する。僕の聞き間違いであってほしい。


「オレか? 百七十五だぜ」

「ひゃくななじゅう……」


 どうやら聞き間違いではなかったようだ。見た目は年が近そうなのに、百六十歳くらい違ったなんて。人間ではありえないけど、ドラゴンにしては若いような気がしてきた。


「それで、何故今の皇帝なら話を聞いてくれるかもしれないかと言うと……」


 半分は僕のせいだけど、脱線していた話が戻った。僕はエイラートの次の言葉を待つ。


「アイツは親父と酒飲み友達だったんだぜ」

「はい?」

「皇太子時代から親父と仲良しで。でも魔王討伐を求める声が大きかったから、皇帝として、友として決着をつけたんだ。決着がついたら和平交渉をする予定だったが、皇帝は重傷で息子の皇太子は戦死。帝国が交渉の席につくことはなかった」


 彼はうーん、と悩ましい顔で唸った。


「相手の命を奪ったら争いは終わらないって親父も知ってるはずなんだけどな。何故皇太子にまで手を出したんだ?」

「エイラートはその場にいなかったの?」

「親父に何かあれば次の魔王を決める必要があるからな。人と違って魔王の息子だからって魔王の地位を継げるわけじゃねぇ。求められるのは強さだ」

「脳筋の発想……」

「ノーキン?」


 僕が呟いたのをエイラートは聞き取れたみたいだけど、意味まではわからなかったようで首を傾げる。それに「何でもないよ」と返し、疑問に思ったことを口にする。


「どうして帝国軍は皇帝も皇太子も攻め入ったんだろう。どちらかが残れば、後継者争いに発展することもなかっただろうに」

「過去のことを考えても意味ねぇよ。和平交渉は今後もできず、オレ達魔族は滅亡する。それを避けるにはどうすればいい?」

「僕を人質にする……とか?」


 答えを捻り出したけど、「いや、お構いなしに魔術を放ってきたんだ。人質としての価値は低いだろう」と真顔で返されてしまった。


「むしろ、勇者を取り戻すという大義名分を与えてしまったかもしれんな。戦争が激化するぞ」

「……僕を誘拐して良かったの?」


 僕のせいで魔物が帝国を襲うのは嫌だけど、魔王城が攻め込まれるのも嫌だ。本当に、どうして「エンカ上げ」という役に立たないスキルを手に入れてしまったんだろう。


「助けを求めたのはお前だろ?」

「そうだっけ?」

「誰でもいいから助けてくれ、そんな声が聞こえた気がした。だから出向いてやったんだ」


 そういえば、皇女様から逃れられないと悟ったときに心の中で助けを求めた記憶がある。エイラートはそれに応えてくれたのだろうか。


「お前が勇者とわかった上でオレはお前を誘拐した。助けると決めたのはオレだから、ユースケが後悔する必要はない」

「でも……」

「それにここは難攻不落の魔王城だぜ? オレの結界は完璧だ。何人たりとも通さねぇ」


 そうドヤ顔で言うエイラートを見て、申し訳ないと思う気持ちが小さくなった。

 ここでは勇者の役目を求められることはないだろう。でも、自分の身は自分で守れるようになりたい。


「僕も強くなりたい」

「お、いいな。具体的に何をするんだ?」

「まずは僕のスキルの解明かな。物語ではハズレスキルには一発逆転のチャンスがあることが多いし」

「スキルのことはよくわかんねぇが、どの魔族なら匂いで我を失わないか検証ならできるぜ。我を失った奴は動きが単調だから守るのも簡単だし」


 本当は僕が守る側になりたいけど、いきなり強くなる方法はない。地道に努力するしかないだろう。


「そうと決まれば演習場に行こうぜ。オレのダチとして紹介してやる」

「僕のこと、友達と言ってくれるの?」

「あぁ、当然だろ?」

「エイラートは異世界でできた友達第一号だ。これからもよろしく」

「あぁ、よろしくな!」


 僕は召喚した帝国を捨て、魔王と共に平和な世の中を実現するために行動する。これはそんな物語だ。



「勇者様が魔王に誘拐されました。護衛に失敗したことは深く反省しますが、取り戻す機会をください。魔王軍と全面戦争の許可をお願いします」

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ハズレスキル「エンカ上げ」 楠木遥華 @Haru1ka

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