第3話 勇者、魔王に誘拐される
僕が魔王討伐に協力すると言ってからの皇女様の行動は早かった。父親である皇帝との面会予約を入れ、騎士をどれだけ連れて行くか騎士団長と相談して、移動ルートや泊まる宿の選定も側近に指示する。魔王を絶対に討伐するんだという意思をひしひしと感じた。
皇帝が魔王城に攻め込むことを承認したので、今は馬車に揺られて魔王城のある北を目指している。一緒に乗っているのは無言を貫く騎士三人で、皇女様は前を行く馬車の中だ。薄暗くなったら街の宿屋で一泊し、翌朝馬車での移動を再開する。騎士のほとんどが徒歩か馬での移動だ。
僕は常時騎士に周りを囲まれていて、四方八方から襲ってくる魔物の攻撃に晒されることはないけど、逃げることもできない。北に行けば行くほど魔物の数が増えるらしいけど、それでも魔物との遭遇する確率がいつもより高いようだ。
「勇者様のおかげで魔物を一掃するのが楽ですね。勇者様に向かって真っ直ぐ向かってきますから、攻撃を予知するのも簡単ですし、討ち漏らしもありません」
皇女様にそう感謝されたけど、褒められた気になれない。誰かに守られる勇者より自ら道を切り開く勇者の方が格好いいだろう。
「危険を省みず魔物を引きつけ、仲間を信じて身を盾にする……これぞ勇気ある者、勇者であると民も称えることでしょう」
だからそんな称号、望んでないから!
そう悲鳴を上げたいけど、ここで守ってくれる人がいなくなれば秒で死ぬのは目に見えているので何も言えなかった。
帝都を出て三日ほどで魔王城に辿り着いた。魔族を殲滅するために帝都も魔王城に近い位置に移転させたらしい。どれだけ好戦的なんだ、この国は。
湖の向こうに見える魔王城から何かが飛び立つのが見えた。一つや二つではない。いつの間にか無数の魔物の群れが僕達を取り囲んでいた。そして、僕めがけて一斉に襲いかかってくる。
「皆さん、ここはわたくしがやります」
皇女様が長杖を構える。目の色によく似た水色の魔石が光り輝く。
「――氷漬けになりなさい」
皇女様が冷たい声でそう言うと、周囲を取り囲んでいた魔物達が一匹残らず氷漬けになった。周囲の温度が一気に下がった気がして、思わず身震いする。
「やはりフェリシア殿下の魔法は別格だな」
「さすが帝国一の氷の魔術師だ」
皇女様の魔法に騎士達が盛り上がっていると、不意に誰かが僕の服の後ろ襟を鷲掴みにした。
「え?」
バサッと羽ばたく音が頭上からする。足が地面から離れ、空を切った。どんどん地上から離れていくなか、皇女様が驚愕の表情で僕に杖を向けているのが見えた。
「勇者様!」
「えっ、飛んでる!? なんで?」
顔を上げると、赤いドラゴンがいた。前足で僕を掴み、コウモリに似た翼で羽ばたいている。不意にドラゴンがこちらを向いて鼻をひくつかせた。
「なんかお前、旨そうだな」
「へっ?」
魔物じゃなくてドラゴンに食い殺されるの? 美味しそうな匂いがしたから魔物やドラゴンが寄ってきて、襲われる羽目になったの? もしかして僕の匂いが魔物を誘き寄せるメカニズムだった?
色々な疑問が一瞬の内に駆け巡ったけど、今更考えても無駄だ。大きな口を開けたドラゴンに食べられてしまうのだから。
「安心しろって、オレは人間を食ったりしない」
口が向けられたのは光り輝く杖を握った皇女様の方だった。
「氷華」
「おっと、危ねえ!」
杖から氷が放たれると、ドラゴンは右に避けた。僕を抱き抱えて後ろを振り返る。
「こいつ、勇者サマなんだろ? 当たったらどうするんだよ、氷麗の魔女サマ」
ドラゴンが僕を前に出しても皇女様が杖を下ろすことはなかった。
「魔王である貴方を討つ絶好の機会です。勇者様には恨まれるかもしれませんが、魔王が死ねば問題ありません」
どう聞いても問題しかないけど、皇女様はそう言い切った。戦力面で役に立たないからって殺さないでほしい。
……ってか、今「魔王」って言った?
僕を掴むドラゴンを見上げると、ドラゴンも僕を見下ろした。
「お前、何をやったんだよ? それとも氷麗の魔女がいかれてるだけか?」
「氷麗の魔女? 魔王?」
「あー、なんも知らないって顔だな。あいつは帝国の第二皇女、フェリシア。またの名を『氷麗の魔女』。見た目は麗しいが冷徹で躊躇いなく氷を放つ魔女さ。野心溢れるお人で、オレを討伐するのも皇帝になるためだろうな。年齢的にも性別的にも実績がないと皇位継承は難しいんだろう」
それで、とドラゴンは親指で自分を指差した。
「オレはニ代目魔王、エイラートだ」
「え……」
ニ代目魔王? つまりこのドラゴンは十年前に討伐された魔王の息子で? ラスボスってこと!?
「ええっ!?」
「そんなにも驚くことか? オレを討伐しに来たんだろ?」
ドラゴンこと魔王エイラートは驚いた僕に驚いているように見える。
「だって、魔王は城に立て籠もってるんじゃ……」
「指揮を無視して城を飛び出す輩が増えたから、理由を確かめに来ただけだ。魔物達が言うことを聞かないのはお前のせいか?」
「多分」
「異世界から召喚される勇者サマってもんは、皆んな旨そうな匂いがするのかよ?」
「しないはずだよ! ってか旨そうな匂いって何!?」
僕はやっぱり魔物を釣る餌でしかないのかと落胆していると、不意に魔王が左に動いた。さっきまで僕達がいたところに氷の華が咲く。
「勇者様を放しなさい」
「大事な勇者ごと氷漬けにする気かよ!?」
「魔王を誘き寄せることに成功したのです。勇者の役割は十分に果たしたと言えるでしょう。後は我々帝国軍がとどめを刺すだけです」
僕に被弾しても構わないという皇女様の姿勢に、勇者だなんだとはしゃいでいた気持ちが冷めていくのを感じる。
「勇者サマよ、こんな帝国の言いなりでいいのか?」
「……」
「オレが攫ってやってもいいぜ。火の粉は全て払うし、どんな生き方をしてもいい。勿論、オレを討伐したければいつでも相手してやる」
――だから、魔王城に来い。
魔王はそんな提案をしてきた。
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