第5話

 吐き気が止まらない。


 トイレに駆け込み便座の蓋を開けた。

 安堵の息を吐いたところで足元の黒いビニール袋に目が止まる。


 そうだ今日は可燃ゴミの日だった。ゴミ捨てを忘れていたこと自体、今の今まですっかり忘れていた。

 まぁ、そもそも、慌てて出勤したおふくろもこいつを大袋に入れ忘れていたんだろうが。


 女は毎月卵を産む。たぶんダチョウの卵くらいの大きさはある。孵らない不要なその巨大卵は生ゴミとして捨てられる。うちはおやじがいない。だから毎月こうして巨大生ゴミが発生する。


 さすがにゴミ回収は終わってる時間だ。だけどこんなにデカい生ゴミを置きっぱなしもあり得ない。

 仕方ない。大袋にまとめるだけまとめてやるか。


 掴み上げようとしたところで袋の形がおかしいと気がついた。



 割れて……いる……?

 


 瞬間、背筋が凍った。


 

 動いている。


  

 袋が。

 微かに動いている。


 

 こらえられなかった。

 喉から便器に滝のように流れ出た。

 昨日の夕食を全て吐き出して、トイレから転げ出た。そのまま家を飛び出した。


 おふくろの帰りが遅かったのは、つまり、【そういうこと】だったんだ。


 

 もう吐き出すものなんてないはずなのに、吐き気が止まらない。

 動き続ける黒い袋が目の奥に焼き付いている。

 

 汚い。

 気持ち悪い。

 

 でも。

 汚らしく吐き続けるオレは、殻を汚し、だらしなく垂れさがる卵の中身と何がちがうんだろう。


 



 

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