第3話 創始者
スロット「マクラー」の創始者、ユウトは、
自らの社長室にある本革の椅子に深く腰掛け、物思いにふけっていた。
――退屈だ。
彼は、伝説の名機「マクラー」を生み出し、
巨万の富を手に入れた。
だが、満たされることはなかった。
誰もが羨む金持ち。
だが、楽しかったのは束の間だ。
車も、ブランド物のバッグも、
少し手を伸ばせば、いくらでも手に入る。
金を使っても、使っても、なくならない。
欲しいものは、すぐに手に入る。
だが――
養殖ではない、天然の刺激だけは、
金では手に入らなかった。
ユウトが人生最大の刺激と快楽を得たのは、
巨万の富を手に入れる前のことだった。
元々、彼は金融屋に勤めていた。
激務と引き換えに、
「一般人より少し良い」程度の給料。
車が欲しければローンを組み、
ブランド物が欲しければ金を貯める。
ごく普通の感覚だった。
そんな金融屋に、
ギャンブル依存で金を失い、
借金を申し込みに来る客がいた。
「あと一万円あれば勝てるんです!
お願いします! 貸してください!」
汗だくで縋りつく、汚らしい中年男。
ユウトは内心で軽蔑しながら、
顔いっぱいに作り笑顔を貼り付け、金を貸した。
――こいつら、本当にバカだな。
客が帰ると、
貼り付けた笑顔を剥がし、無表情に戻る。
その時だった。
彼の頭に、
人生を変えるアイデアが浮かんだ。
――そうだ。
――こいつらバカから、
――金を巻き上げるシステムを作ろう。
思い立ったが吉日。
ユウトは金融屋に退職願を出し、動き始めた。
彼はスロット機を作ろうとした。
当然、自分で機械を作る技術はない。
だが、
・当たり確率
・キャラクター
・メダル配分
・内部プログラムの思想
それらは、紙とペンがあれば設計できた。
無職の一か月。
ユウトは取り憑かれたように設計図を書き続けた。
完成後、SNSで大学時代の知人を辿り、
機械を作れる人物を探し出す。
金融屋時代の貯金を使い、
試作機を完成させた。
初代スロット機――
「マクラー」。
ポップなピエロの絵柄は、
後に“親しみやすさ”として定着し、
大ヒットの要因となる。
だが問題があった。
どうやって、
この機械をパチ屋に置くか。
ユウトは思い出す。
金融屋時代、
パチ屋を経営している知人がいると聞いていた。
彼は交渉を持ちかけた。
条件はこうだ。
・一か月限定設置
・レンタル料は無料
パチ屋側にデメリットはほぼない。
交渉は即成立した。
同時に、
そのパチ屋の近くに街金を作らせた。
損失が出た場合は、
ユウトが全額補填する条件で。
すべてが、
計算通りに進んだ。
ユウトは自作のポップを貼らせ、
同時にブログを立ち上げた。
『新台スロット
マクラー創始者が語る攻略法』
ブログには、
“本物の攻略法”を載せた。
確かに勝率は上がる。
だが、
一週間、一か月、一年というスパンで見れば、
必ず負けるように設計されている。
それに気づかせないための、
完璧なカモフラージュだった。
一か月後、
マクラーは大ヒットする。
負けた客は、
すぐ近くの街金に金を借りに来る。
そこにも、仕掛けがあった。
・審査は極端に緩い
・多重債務者にも少額融資
・金利は法定ギリギリ
闇金ではない。
だからこそ、
「返さなくていい」という言い訳を潰せる。
さらに――
『ギャンブルによる借金は、
自己破産が通りにくい』
国が作ったルールが、
最後の逃げ道を塞ぐ。
考える頭のない者には、
完璧な檻だった。
返さない者も、当然出る。
だが、脅しはしない。
優しく諭し、
別の金融屋を紹介する。
その先で何が起きようと、
ユウトの知ったことではない。
マクラーは全国展開され、
ユウトは、
スロット×金融の仕組みで、
巨万の富を手に入れた。
だが――
満たされない。
金ではなく、
「仕組みが人を壊す快感」に、
彼は中毒になっていた。
そんな時だった。
ユウトのスマホに、
一通のメールが届く。
大手ゴシップ誌
『週刊ウェンズデー』。
取材依頼だった。
記者名――
マツモト・ユリ
その名前を見た瞬間、
ユウトは、舌で唇を舐めた。
「……遂に来たか」
「天然の刺激が」
ユウトは、
不気味な笑みを浮かべていた。
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可能性という悪魔 イミハ @imia3341
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