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 その年の6月の頃だった。仕事帰りに康太は体の不調を訴えていた。ここ最近、体がだるい。熱がありそうだが、仕事を休む事ができない。仕事を頑張らなければならない。休んだら、給料を減らされる。そして、家計に響いてくる。家族のためにも何とかしないと。


「はぁ・・・」


 康太は下を向いていた。体調が悪いなんて、言えないよ。だけど、家族に迷惑をかけたくない。もし、新型コロナウイルスだったら、みんなに迷惑をかけてしまう。会社が止まってしまう。何としても頑張らなければ。


「どうしたの?」


 康太は会社の同僚に声をかけられた。同僚は心配そうだ。もし、新型コロナウイルスだったら、どうしよう。


「つらい・・・」


 これは大変だ。病院に行かせないと。新型コロナウイルスだったら、どうしよう。会社に迷惑をかけたくない。だけど、行かせなければ。


「病院行こうか?」

「うん」


 康太は抵抗できなかった。言われたからには行かなければ。そして、康太は病院に直行した。家族に会いたいのに、会えなくなるかもしれない。そう思うと、涙が出そうだ。




 病院で診察を受け、結果を医者に聞く時が来た。康太は緊張していた。新型コロナウイルスだったら、どうしよう。家族にも、会社にも迷惑をかけてしまう。康太は下を向いて、新型コロナウイルスではない事を願っていた。


「新型コロナウイルスにかかっています」


 それを聞いて、康太は呆然となった。まさか、自分が新型コロナウイルスにかかってしまうとは。康太は泣きそうになった。助かるのか不安だ。でも、医者を信じよう。医者がきっと治してくれる。


「そんな・・・。コロナ・・・」

「はい。隔離となります」


 隔離になると聞いて、康太はさらにショックを受けた。こんな事になるなんて。どうしてこんな時代になったんだろう。本当に助かるんだろうか? 康太はもっと不安になった。


「わかりました・・・」


 結局、康太はその日から隔離生活になった。家族に会えない、会社仲間にも会えない、寂しい日々だ。新型コロナウイルスとの孤独な戦いだ。絶対に新型コロナウイルスに勝ちたい。そして、元に戻りたい。来年に延期になった東京オリンピックが見たい。2025年に開催される予定の大阪・関西万博が見たい。




 その夜、康太は家族に電話をかけた。電話でしか、家族と連絡が取れない。そう思うと、とても寂しくなる。いつになったら家に帰れるんだろうか? そう思うと、とても不安になる。


「どうだった?」

「新型コロナだった」


 それを聞いて、妻は呆然となった。まさか、康太が新型コロナウイルスに感染するとは。あんなに注意していたのに。外出する時は必ずマスクをするようにしていたのに。新型コロナウイルスって、恐ろしいんだなと改めて感じた。


「そんな・・・」

「頑張って、元気になってね」


 妻は声だけだが、励まさなければならない。本当は目の前にいて、励ましたい。でも、隔離されていて、励ます事ができない。あまりにもひどいよ。


「わかった・・・」


 電話が切れた。だが、それが康太の最後の電話になった。翌日から容体が急変し、亡くなったのだ。




 葬儀の日、誰もが泣いていた。若くして新型コロナウイルスで亡くなってしまった。あまりにもひどすぎるよ。どうしてこんなに若くして亡くならなければならなかったんだろう。どんなに問いかけても、答えが見つからない。


「そんな・・・」

「死んでしまうなんて・・・」


 誰もが泣いていた。そして、新型コロナウイルスに負けて無念だと思っていた。どうしてこんな世界になったんだろうと思った。


「どうしてこんな事になったんだろう」


 妻は持ってきたバッグに付いていたミライトワのキーホルダーを見た。東京オリンピックはもうすぐ開催されるはずだった。だが、来年に延期になった。康太は開会式に行こうと思っていた。なのに、行けなかった。それに、来年の東京オリンピックの開会式には来れるんだろうか? まだ収まっていなくて、無観客になるのではと思った。


「東京オリンピック見たかったよな・・・。大阪・関西万博行きたかったよな・・・」


 もう1つ、妻は考えていたことがあった。5年後に大阪で開催される大阪・関西万博の事だ。20年ぶりに日本で開催される万博だ。家族みんなで行こうと思っていたのに、その願いはかなわなかった。私と子供だけで行かなければならないんだろうか? そう思うと、涙が出てきた。




 康太は今年の大阪・関西万博を思い浮かべた。誰にも見えないけれど、そこにも行った。とても興奮したな。そして、妻と子供も行っていた。だけど、どこか寂しげだった。きっと、康太がいないからだろうな。だけど、妻も子供も楽しんでいた。それに、みんなが楽しんでいた。新型コロナウイルスの驚異を乗り越えて、やっとたどり着いた素晴らしい未来だ。みんなの目がキラキラ輝いているように見えた。だけど、自分は新型コロナウイルスに負けて、生きてそこに行く事ができなかった。無念でしょうがなかった。妻と子供と一緒に行けたら、もっと楽しかったはずなのに。


「そういえば今年は、大阪・関西万博だったんだよな」

「ああ」


 老人もそれを気にしていた。老人は大阪・関西万博に行きたかった。だけど、開幕前にがんで亡くなってしまった。20年前の愛・地球博を思い出しながら、行きたいと思っていたのに、かなわなかった。


「多くの人が夢洲で夢を見たんだよな」


 確かにそうだ。大阪・関西万博の会場である夢洲で、多くの人々は夢を見た。だけど、自分たちは生きて見る事ができなかった。


「そうだね。康太さん、見たかったんだよね」

「生きているうちに見たかったよ・・・」


 だが、康太は無念でいっぱいだ。こうして夜景を見ていると、新型コロナウイルス前の夜景を、そして今年の大阪・関西万博を思い出す。


「なんでこんな事になったんだろう・・・」


 康太は改めて思っている。どうして新型コロナウイルスが生まれなければならなかったんだろうか? どうしてそれで世界中が停滞ムードにならなければならなかったんだろうか? どうして神は試練を与えるんだろうか? どんなに問いかけても、答えが見つからない。

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夜景 口羽龍 @ryo_kuchiba

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