第12話:幸せ
朝、目が覚めた。
窓から光が差し込んでいた。
いつもと違う朝だった。
何が違うのか——
軽い。
体が、心が、全部。
重荷を降ろした。
そう気づいた。
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起き上がって、鏡を見た。
いつもと同じ顔。
でも、目が違った。
もう、怖がってない。
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スマホを手に取った。
柊との会話を開いた。
次の日曜日まで、あと3日。
でも——
待てない。
今すぐ、会いたい。
今すぐ、伝えたい。
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メッセージを打った。
> 「今日、会えますか?」
送信した。
---
5分後、返信が来た。
> 「大丈夫ですよ。いつものカフェで」
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カフェに着いた。
平日の昼過ぎ。客は少ない。
柊がいた。
いつもの席に座って、本を読んでいた。
---
「朔さん?」
柊が驚いた顔をした。
「今日、日曜じゃ——」
「会いたかったんです」
私は言った。
「今日じゃなきゃダメなんです」
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柊が笑った。
「そうですか」
隣に座った。
コーヒーを注文した。
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「何か、ありました?」
柊が訊いた。
「……はい」
頷いた。
「昨日、本を読んだんです」
「本?」
「あの人の本」
その一言に柊が理解し、黙って聞いてる。
「読み終えました」
「そうですか」
---
柊が頷いた。
「良かったですね」
「はい」
---
コーヒーが来た。
一口飲んだ。
深く息を吸った。
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「柊さん」
「はい」
「私——」
心臓が跳ねた。
でも、止まらなかった。
「柊さんのこと、好きです」
---
柊が目を見開いた。
カップを持ったまま、固まった。
私は続けた。
「怖いです。また壊れるかもしれない」
「また、誰かに依存するかもしれない」
「でも——」
柊の目を見た。
「あなたと一緒にいたい」
「それが、私の答えです」
---
沈黙。
柊が、カップを置いた。
ゆっくりと。
そして——
笑った。
「僕も、好きです」
声が震えてた。
「朔さんのこと、ずっと——」
言葉が詰まった。
「ずっと、好きでした」
---
私はその言葉を聞いて、泣いた。
カフェの中で。
マスターが少し笑ってるのが見えた。
でも、気にならなかった。
---
「手、繋いでもいいですか」
柊が訊いた。
私は頷いた。
柊の手が、私の手を取った。
温かかった。
怜の手は冷たかった。
柊の手は、温かい。
生きてる。
二人とも、生きてる。
---
「ありがとうございます」
私が言った。
「待っててくれて」
柊が首を傾げた。
「待ったわけじゃないですよ」
「え?」
「ただ——」
柊が笑った。
「そこにいただけです」
---
そうだ。
この人は、ただそこにいてくれた。
急かさず。追いかけず。壊そうともせず。
ただ、そこにいてくれた。
それだけで、十分だった。
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エピローグ
1年後。
朔と柊が、また海にいた。
同じ海。冬の海。
でも今度は、手を繋いで。
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「寒いですね」
「そうですね」
「でも、来て良かった」
「はい」
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波の音。
カモメの声。
二人の影が、砂に落ちてる。
重なって、一つに見える。
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「朔さん」
「はい」
「幸せですか」
柊が訊いた。
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幸せ。
考えたことがなかった。
幸せって、何?
でも——
「はい」
答えた。
「幸せです」
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柊が笑った。
「良かった」
「柊さんは?」
「僕も」
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手を繋いだまま、歩いた。
波が寄せては返す。
足跡が残る。
二人の足跡。
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これでいい。
完璧じゃない。
まだ痛みもある。
怖さもある。
でも——
これでいい。
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朔は今、生きている。
柊と一緒に。
それだけで、十分だった。
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**終わり**
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## あとがき
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
この物語は、「男を三回変える」というテーマから始まりましたが、書き進めるうちに気づきました。
変わったのは、男ではなく——
朔自身だったのだと。
一人目の男で、空虚を知りました。
二人目の男で、依存を知りました。
三人目の男で、愛を知りました。
でも本当は、朔が三回、自分自身を更新したのです。
---
痛みと向き合うこと。
依存と愛の違いを知ること。
自分を許すこと。
そして、誰かを信じること。
この物語が、そんなことを考えるきっかけになれば幸いです。
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ではまた別の物語で、お会いしましょう。
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【完】
【文芸・純文学×現代ドラマ】男は三回変えた方がいい——空っぽだった私が、愛を知るまでの物語 マスターボヌール @bonuruoboro
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