第八話 新生エクリプス発進!

 二日酔いの朝。

 頭痛を酷くする大声の持ち主が、赤髪を靡かせ共同ガレージを訪ねて来た。


「よぉ、相変わらず磁石コンビをやってるか?」

「あ? 顔も真っ赤にした負け犬が何言ってやがる?」

「お前らこそ、最近、キーパーに最高得点4点を叩き込まれたことがなかったか?」


 先日の模擬戦でのことをからかわれてしまい、苦い顔をしたソルティが黙ってしまったので代わりに返事をしておく。


「アカト、何の用があってここへ来た?」


 草木は青々と生い茂り、日も長くなってトーナメントへの機運が高まる頃。それぞれのチームが最終調整に忙しいはずで、他のチームにちょっかいを出している暇はない。


「あぁ、あるぜ。俺が手配したチケットの効果は得られたのか確認しておきたいからな」


 そうしてアカトが、珈琲を飲んでいるソルティの方へと視線を向けた。豆の香りを眠気覚ましに堪能する様子のソルティが、ニヤリと笑う。

 それを見ただけでアカトは何も聞かずに踵を返した。


「あー、ならいいんだよ。邪魔したな!」


 アカトの背へ向け「サンキューな!」と発したソルティの声が、ガレージの吹き抜けへ吸い込まれていった。

 そこで普段の顔ぶれがまだ無い事に気付く。


「そういやチーザたちはどうした? 他のチームは既にガレージに……」

「ん? あいつらは演習フィールドに行って2vs2を始めてるぜ?」


 と、言うことはウェハーはまだ寝ているのか。


「で、ソルティはいかないのか?」

「俺はナックの調整が終わるのを待ってるぜ」


 いつでも引っ付いているのは多少鬱陶しくもある。相手をしていても疲れるだけなので、ゴーグルを被り「好きにしろ」と言葉を投げて整備を再開した。

 車輪付寝板クリーパーで仰向けになって汗ばみつつ作業に没頭していると、スパナで肩を叩きながらこちらを見下ろしていたソルティが憎まれ口を叩く。


「相変わらず凝りすぎだろーが、ったく。で、終わったな? なら、フィールドにいこうぜ!」


 何で調整が終わったことがすぐに分かったのか理解に苦しむが、ソルティはいつもこうだ。口の中だけでぼやき、テストがすぐにできて得をした、と割り切ることにした。



─────────────────────



 トーナメントでの優勝を掲げて動き出した歯車は、より大きなエネルギーとなってチームを前に押し出していた。個別訓練や他チームとの合同演習、他にもありとあらゆる機会へ積極的に参加し、貪欲に成長を求めた後輩たち。

 どんな若葉よりも早く、着実に芽吹いて花を咲かせているのは気持ちがいい。次はどんな花に育つのか。どんな色を見せてくれるのか。夏が近づくにつれ、教える方も熱が高まっていく。

 良く晴れた今日は、チーム内模擬戦を行うべくソルティから全員招集がかけられていた。


「さぁ、お前ら! 今日も太陽が燦然と輝いているが、俺らがその輝きを奪って成果を示す日だ!」


 演習フィールドにソルティの声が轟く。元気が良いチーザが続き、キャメルも力強く頷いた。

 クロワは、何やらソルティと秘密の特訓を続けたらしい。


「フッ。私の成長ぶりを見れば、ナックさんもきっと驚くことでしょう」


 その眼鏡の奥には揺るぎない自信が見え、頼もしくすら感じる。ソルティも「完全に目覚めた」と太鼓判を押したので、実際に観るのが楽しみだ。

 他にも声をかけて回る。


「ハーベスト、格闘はマスターできたのか?」

「はい。アカトさんにも協力して貰いましたし、免許皆伝まで頂きました。でも、試合ではプロミネンスの炎を全部食ってやるって宣言してきましたよ」


 はにかむ笑顔でそう答えるハーベスト。体のラインからは、多少の筋肉をつけたこともうかがえる。

 宣言を聞き、ソルティが拳を天高く掲げた。


「おーし、良くわかってるじゃねーかハーベスト! そうだ。俺たちは全ての輝きを奪う。そのためにいるし、奪った光をナックの未来に届けろ! 生まれ変わったエクリプスをナックに魅せつけてやろうぜ!」

「了解!!」


 観戦を通してチーム《エクリプス》が、どのように変わったのかを観れるのは贅沢なことにも思う。


「では、3vs3のリーグ戦形式で始める。今日の結果次第でトーナメントのプランを決める。そのつもりでやれ。そうだな……勝ったチームにはソルティが奢ってくれるそうだから気合いを入れるように」


 モービルギアへ乗り込んでいたソルティから、通信越しに苦情が届く。どうせどっちが勝っても同じことだ。ソルティの照れ隠しのポーズは聞き流しておく。

 そうした間にも各モービルギアが開始位置につき始め、透明なフィールドバリア越しとは言え、至近距離で見上げるモービルギアが恐ろしくすら感じる。

 ブースターから響く重低音はズシリとのしかかり、こちらの足を大地に縫い付けて、スラスターが発する小刻みな低い音は大都市の渋滞クラクションのように絶え間なく続く。

 全員の準備が整ったのは空気で分かった。


「俺の未来を見せてくれ。Break 試合the sky開始


 三又の二本の槍が交差し、複雑に捻じれ合う。時に鞭となり、時に鎌となり、敵を飲み込まんとする鈍色の巨兵たち。奏でる躍動が衝撃波となってフィールドを駆け抜け、強い風が頬を撫でる。

 ポジション毎のレギュレーションがあるため、先輩であるソルティたちがコンバートしての戦い。不慣れなポジションでも遜色ない動きを見せているのは流石、ベテランのなせる技だろう。


「それぞれ順当なマッチアップだな」


 3vs3ではタイマン勝負が主軸となり、その上でチームに貢献する動きが求められる。今回はポジションを揃えたこともあり、同ポジションでのマッチアップとなっていた。チーム人数が減った分、戦術理論も変化すると全員が理解した動きを見せている。


「しかし、チーザは威勢と思い切りが良いな」


 二機のチェイサーが織りなすスピードレース。

 二匹の鎌鼬による輪舞曲ロンドの競演は、音さえ切り裂きそうな急速旋回で観客の眼球を置き去りにした。目が回りそうで、錆びた手すりを強く握る。

 チーザの動きはまだ若く無鉄砲なところもあるが、ベテランのウェハーと互角以上の攻防を魅せる姿に確かな成長を感じた。


「クロワ、キャメルのバックス対決か」


 息を忘れるほどのバックス同士の射撃戦。

 瞬きを許さぬビームの撃ち合い、無数のミサイルポッドから飛び出すハウンドの群れは、狂乱のサーカス。大盤振る舞いのグレネードも花火大会と化している。

 しかし、互いの喉元に銃口を突きつけながらも、要所で周囲のサポートを欠かさない。

 相対するキャメルにも目を向ける。


「急遽のコンバートであってもキャメルは遜色無いな。動きを研究していたのか? しかし……」


 本職のクロワと比べてもキャメルは見劣りしないが、それ以上にキャリアの差を覆すクロワの技術は圧巻。ジェット機のように追い付き、追い越していくその才能には惚れ惚れするどころか、怖さすら感じる。


「数年後のクロワと戦場で出会ったなら、俺なら逃げ出すか降伏するな」


 どんな体勢や局面からでも正確に撃ち抜く技術は、これからのチームをきっと支えてくれる。それを確信させる動きだ。


「ソルティと渡り合えるとは……凄いじゃないか、ハーベスト」


 互いのキーパーによる猛々しい空中格闘戦。

 輝くブースターが閃光の螺旋を紡ぎ、空中で火花を散らし合う。交錯する拳を掠めるスラスターの蒸気たち。それは格闘家が応酬する汗飛沫の如く、攻防の際に頻繁に飛び交っていた。

 いくらソルティが急造キーパーとは言え、戦争を生き抜いた歴戦の猛者。この短期間で互角、いや、寧ろ上回る強さを振るうハーベストには、否応なく期待をしてしまう。


「いやはや。模擬戦とはいえ、これを観れたのは後に誇れるだろう」


 次世代のスーパースターの誕生秘話を今、目の当たりにしていることに興奮を禁じ得ない。

 小突かれて気絶する虚弱なハーベストはもう居らず、乱打戦でも食らいついている。それが見れただけでも収穫だ。


「雛が育つのは本当に早い」


 ビームが空を焼き、グレネードが爆ぜる音と炎を上回るほどの熱量。

 軍属時代を生き抜いたソルティたちを、若い力たちが飲み込まんとしている。新時代の幕開け、その一ページ目を見ている気分だ。思わず感嘆の息が漏れる。


「しかし、これは……まるで……」


 見上げていると足元に滴が落ちる。いつの間にか頬を涙が伝っていた。

 チーザの雄姿に、クロワの献身に、ハーベストの不屈に、戦場に散った亡き友たちの影を見たからだ。力強く飛ぶモービルギアに、当時の思い出が重なる。

 体が熱い。

 記憶の中の彼らと共に戦えるという喜びを、心が叫びたがっている。忘れかけていた衝動を抑えつつ、小さく呟いた。


「……チームとしての動きになったな。死に物狂いで飛んだ、あの頃を思い出す」


 ようやく、水が交わるという感覚。チームとして混ざり合い、それが一つに溶けていく。今の気持ちをどう表現すれば良いのか分からないが、血が滾り、沸騰する気分だ。後悔と言う名の足枷を断ち切って、もう一度飛べと背中を押す。


「……随分と熱いじゃないか」


 立ちはだかる古き堤防と、それを乗り越えようと押し寄せる新しい波。ぶつかり合い、削り合う。そして次第に均衡は若い荒波へと傾き始めた。

 ソルティの機体が姿勢制御を失い、圧巻の落下矯正の連携攻撃キャリブレーションが眼前で決まる。気付けば喉が張り裂けんばかりのゴールコールをしていた。

 そうして大声を出し切って見上げた空は、やけに青く感じる。


「俺の中にも、まだこんな熱が残っていたんだな……」


 余韻に浸っていたら、ソルティからノイズ混じりの通信が届く。


『どうだナック! これが新生エクリプスだ!』

「……4点を叩き込まれたソルティが言っても、締まらんぞ?」


 インカム越しに聞こえてくる仲間たちの笑い声。思い描けばすぐそこにあるようだ。

 熱くなる目頭を押さえ、再び未来を信じてみたいと心から願った。

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競技セブンスカイズ《死神と太陽》 〜7機vs7機! 撃墜を狙い合う人型装甲機兵《モービルギア》たちが翔け抜ける未来への切符〜 元毛玉 @motokedama

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