第23話

話さなくなった。

理由をはっきり言葉にしたわけじゃない。ただ、気づいたら会話が途切れていた。


それでも、完全に断たれたわけじゃなかった。

授業中、ふと顔を上げた瞬間に、目が合う。

廊下ですれ違うとき、ほんの一瞬だけ視線がぶつかる。


そのたびに、胸の奥がざわついた。


話しかけない。

話しかけられない。

でも、見てしまう。


怖かったんだと思う。

自分がどう思っているのか、相手がどう思っているのか、

それを確かめてしまったら、何かが壊れる気がして。


沈黙は安全だった。

少なくとも、その間は「失う」ことがなかったから。


だけど、沈黙の中で俺は気づいていった。

目が合うたび、意識が持っていかれる。

授業の内容より、ノートより、彼女の存在のほうが大きくなっていく。


もう、目を逸らすほうが苦しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る