第20話

テスト前の教室は、独特の緊張がある。

集中したい人間と、そうじゃない人間が、同じ空間に押し込まれる。


その日、由美と、その彼氏がいた。

ずっと喋っていた。

笑っていた。

空気を読まずに。


俺は、苛立っていた。

それまで積み重なっていたものが、

どうでもいい雑音に触れて、限界を超えただけだったのかもしれない。


二人が一時的に教室を出た隙に、

俺は黒板に書いた。


集中したいのに、静かにできないのは、ただの――


言葉は覚えていない。

覚えていないくらい、衝動だった。


帰り際、由美の彼氏が、

黒板に「ごめんなさい」と書いて、笑って帰った。


それが、なぜか無性に腹が立った。


次の日の朝、

俺は、黒板に彼の顔を描いた。


誇張はしていない。

からかうつもりもなかった。

ただ、そこにいた顔を、なぞっただけだった。


でも、由美は泣いた。


なぜ泣いたのか、俺には分からなかった。

俺の中では、被害を受けていたのはこっちだったから。


そして、そのとき。


瑠璃が、みゆの側に立った。


「なんで、あんなことしたの?」


その一言で、

俺の中の何かが、音を立てて崩れた。


味方だと思っていた。

少なくとも、分かってくれると思っていた。


あの瞬間、

怒りより先に来たのは、裏切られた、という感覚だった。

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