第19話

人の話を聞く役回りは、いつの間にか俺の定位置になっていた。

さらも、例外じゃなかった。


「ねえ、聞いてほしいんだけどさ」


そうやって始まる相談は、だいたいいつも同じ匂いをしていた。

友達の話。グループの話。逃げたいけど、逃げ方が分からない話。


瑠璃には、居山という友達がいた。

そして、由美という、もう一人の名前。


居山は、言葉を選ばない人だった。

自分の方が体格があるくせに、瑠璃の弁当を見て

「大きくない?」と、冗談の顔で言う。

否定から入る癖。空気を壊す癖。


瑠璃は笑って受け流していたけど、

俺には分かった。あれは、耐えている笑いだった。


決定的だったのは、

居山が、由美にこう言ってしまったことだ。


「瑠璃って、ほんとは由美のこと嫌いだよ」


事実かどうかは、問題じゃない。

言わなくていいことを、言った。

それだけで、人の関係は壊れる。


案の定、由美と瑠璃の間には、見えない溝ができた。

瑠璃は困っていた。

誰が悪いのか分からないまま、

自分だけが居場所を失っていく感覚に。


だから俺は言った。


「そんなにしんどいなら、無理に同じグループにいなくてもいいんじゃない?」


逃げろ、じゃない。

選べ、という意味だった。


俺は、彼女が自分を守る選択をすることを、肯定したかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る