第13話
大学の探検っていう行事があった。
正直、内容はどうでもよかった。
どこの大学がどうとか、
パンフレットもほとんど見ていない。
バスに乗ると、
瑠璃が「隣いい?」って聞いてきた。
断る理由はなかったから、
「いいよ」って答えた。
席に座ると、
思ったより距離が近かった。
俺の肩幅と、瑠璃の肩幅が、
当たるか当たらないか。
ずっとその境目にあった。
避けようとすれば避けられる。
でも、避けなかった。
「Netflixみよ」
そう言われて、
スマホを出す。
何を見たのか、
ほとんど覚えていない。
画面より、
バスの揺れのほうが気になっていた。
揺れるたび、
肩が触れる。
触れたと思った瞬間、
また離れる。
ちょうどいい距離だった。
近すぎず、
遠すぎず。
肩が触れるたび、
瑠璃が近づくたび、
正直、かわいすぎた。
何度、
抱きつこうと思ったかわからない。
バスの揺れに紛れて、
腕を回してしまおうかと考えた。
誰にも見られない角度を、
一瞬だけ探してしまった。
隠れて、
キスできる距離だった。
でも、しなかった。
怖かった。
嫌われるのが、じゃない。
この距離が壊れるのが。
だから、
肩は動かさなかった。
視線も、
画面から離さなかった。
何も起きなかった。
それでよかったと、
そのときは思っていた。
瑠璃はよく笑っていた。
小さい声で、
でもはっきりと。
俺は、
誰かと並んで座るのが得意じゃない。
怖さを理解しているから、
自分から距離を縮めない。
だからこの時間も、
たまたまだと思うことにした。
言葉にしなければ、
何も始まらない。
始まらなければ、
壊れない。
そう信じていた。
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