第6話
あの日のことは、
今でもはっきり覚えている。
文化祭の打ち上げ。
みんな制服で集まっていた中に、
その人だけが遅れてきた。
私服で。
しかも、場所を間違えたらしい。
正直、最初は思った。
——空気、読めてないな。
でも次の瞬間、
その人は床に膝をついた。
土下座だった。
「すみませんでした」
そう言って、
どうして遅れたのか、
どうして場所を間違えたのか、
真剣な顔で説明し始めた。
内容は、
どうでもいいくらい、くだらなかった。
なのに、
おかしかった。
必死で、
真面目で、
ズレていて。
誰かが笑って、
気づいたら、
みんな笑っていた。
そのとき、
私は見た。
その人が、
笑っていた。
口角が上がって、
少し照れたみたいな顔で。
——あ、と思った。
怖い人じゃない。
そう気づいた瞬間だった。
それまで、
私はずっと思っていた。
あの人は、
一人でいるのが平気な人なんだって。
でも違った。
あの笑い方は、
たぶん、
許された人の顔だった。
それが、
なぜか胸に残った。
それから、
不思議と、その人が気になった。
教室で一人でゲームをしている姿も、
前より怖く見えなかった。
むしろ、
少し距離を置いているみたいで。
ある日、
話す機会があった。
理由は、覚えていない。
でも、
話してみたら、
拍子抜けするくらい、普通だった。
面白くて、
変で、
気を張らなくてよかった。
気づいたら、
私はその人と話すようになっていた。
友達、
という言葉を使うのが、
少し怖いくらいには。
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