第4話

入学式の日、

クラスの中で、ひとりだけ浮いている人がいた。


いじめられているわけじゃない。

誰かに無視されているわけでもない。

ただ単純に、怖かった。


体が大きくて、

肩幅が広くて、

座っているだけなのに、存在感があった。


休み時間になると、

その人は一人でスマホのゲームをしていた。

誰かと話そうとする気配もないし、

誰かを待っている様子もない。


レスリング部で、

次の大会は関東大会に出るらしい、

そんな噂だけが先に耳に入ってきた。


正直、思った。

——あんな人と、関わりたくない。


怖いから。

理由はそれだけだった。


でも、

その人は友達を必要としていないようにも見えた。


誰かに混ざろうともしないし、

孤独を嘆いているふうでもない。


それを見ているうちに、

なぜか、自分のほうが

ばかばかしく思えてきた。


私は、必死だった。

居場所を作るために、

笑ったり、合わせたり、

嫌なことを飲み込んだり。


なのに、

あの人は何もしていないように見えたから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る