第18話 我道ルキウス、知られたくなかった過去

 錬金術師の爆発実験をスルーして、私たちは王都の中心にある大噴水へと向かった。


 中央の巨大な水柱を、五本の噴水が時間差で囲むように踊っている。その光景は、都市そのものが呼吸しているかのようだった。


「この噴水は、真ん中が王都。周りの五本が五大都市を表してるらしいぞ」


 パパの説明を聞きながら、私とアミーカは不規則な水の動きに見とれていた。

 その時だ。


「ワフッ!」


 リードが手からすり抜けた。

 リオが噴水に向かって全力疾走し、あろうことかそのまま水の中へダイブしたのだ。


「ちょっ、リオ!?」


 バシャバシャと駆け回るリオは、さらに風の魔力を纏って加速していく。

 私が呼ぶと「呼ばれた!」と勘違いしたのか、風を纏ったままのタックルが飛んできた。


「ぐえっ」


 まともに受けて転倒する――かと思いきや、背中にふわりと風のクッションが生じた。

 痛みはない。リオなりに気を使ったらしいが、結果として私はびしょ濡れだ。


「あら?セレナも水浴び?」


「笑い事じゃないよアミーカ……冷たっ」


ふふっと笑うアミーカに、しかめっ面で返すと、服の冷たさに思わず身を震わした。

 するとパパがしゃがみ込み、お腹のあたりに手をかざすと、ほのかな熱気が伝わってくる。


「じっとしてろ。乾かしてやる」


「すごーい! パパ、火魔法も使えるの?」


「生活魔法レベルだけどな」


 見る見るうちに服が乾いていく。

 便利な魔法に目を輝かせた私たちに、パパは「十五歳未満への指導は禁止だからな」と釘を刺しつつ、ニヤリと笑った。


「二人が爆発していいなら教えてやるぞ?」


「「変態!」」


「人聞きが悪い!」


 そんな軽口を叩きながら、私たちは錬金術師ギルド本部へと足を向けた。

 パパがかつて所属していた古巣だ。


「向かいにあるのが冒険者ギルドだ。俺はあっちで働いてることが多かったな」


 パパが指さした先から、ちょうどガタイのいい冒険者が出てきた。

 革鎧に大剣を背負った強面の大男。

 男はパパを見るなり、目を丸くした。


「お前……ルキウスか!? なんでここに!」


「げっ、グレッダ」


 男――グレッダさんは駆け寄ると、パパの肩をバシバシと叩いた。


「生きてたのか! 全然連絡寄越さねぇから死んだと思ってたぞ」


「勝手に殺すな。今は田舎で静かに暮らしてるんだよ」


 パパが痛そうに顔を歪める。

 私たちは恐る恐る自己紹介をした。


「はじめまして、娘のセレナです」


「友達のアミーカです……」


 するとグレッダさんは、信じられないものを見る目でパパを凝視した。


「はぁー……あの『我道がどう』ルキウスに、こんな可愛い娘さんがねぇ」


「……は?」


 今、変な単語が聞こえた。

 パパも「はぁ?」と不思議そうな声を上げる。


「お嬢ちゃんたち、知らねぇのか? こいつの異名を」


「異名?」


「長老にも先輩にも媚びず、派閥は全部スルー、邪魔するやつは黙らせる。我が道を貫く男、その名も『我道ルキウス』!」


「俺は初耳だぞ、どこの三文芝居だ!!」


 パパが本気で叫んだ。耳まで真っ赤だ。

 私とアミーカは顔を見合わせた。


(……ダサい)


 パパは私たちの肩を掴み、真剣な眼差しで訴えてきた。


「二人とも、今すぐ忘れろ。ママにも言うな。絶対だぞ」


 私たちは激しく頷いた。もちろん、後でママに報告する気満々だけど。


◇◆◇


「ルキウスとの再会祝いだ! 俺の奢りだ、好きなだけ食え!」


 グレッダさんに連れられて入ったのは、王都でも一、二を争う高級酒場『金の太陽』だった。


 出てくる料理はどれも絶品。特に「ロックボアの丸焼き」は、魔物の肉とは思えないほど柔らかく、スパイスの香りが食欲をそそる。


「うまっ! なにこれ美味しい!」


 目を輝かせるアミーカを見て、グレッダさんは豪快に笑い、ジョッキを空ける。

 その飲みっぷりは見ていて気持ちいいほどだ。


 でも、ふと疑問が浮かぶ。

 冒険者って、そんなに儲かるの? ここ、結構お高いお店だけど。


 私が首を傾げていると、パパが小声で教えてくれた。


「こいつはこう見えても貴族なんだ。伯爵家の跡継ぎで……いや、もう継いだのか?」


「ああ、一昨年な」


「じゃあ伯爵様だ」


「……へ?」


 私とアミーカの声が重なった。

 この、昼からお酒飲んでるクマさんが、伯爵様!?


「ええっ、こんな人が伯爵!?」


 思わず叫んでしまい、パパに頭をパーンと叩かれた。

 しかしグレッダさんは「ワッハッハ! よく言われる!」と笑い飛ばすだけだ。器が大きい。


「俺達はな、きちんと国のため、国民のために働いてるのさ。だから国や国民に認めてもらう努力を忘れたら貴族でいちゃいけない」


「幸い俺はまだ認めてもらえてるようだ。貴族なんて言っても同じ国民、多少失礼な口を聞かれたとて気にはせんさ」


 酔っているはずなのに、その言葉には芯が通っていた。

 一瞬だけ、酒場の空気がピリッと引き締まった気がした。

 さっきまでヘラヘラ笑っていた顔じゃない。王都を守る強者の、鋭い眼光。


 ゾクリとした。

 これが、本物の貴族……。


 私が息を呑むと、グレッダさんはまたニカっと笑ってジョッキを空けた。


「ま、固い話はなしだ! 今日は飲むぞ!」


 パパの「我道」なんて可愛いと思えるほど、この人のスケールは桁違いだった。

 けれど、そんな楽しい宴も、一人の女性の乱入によって終わりを告げることになる。


 バンッ!


 酒場の扉が勢いよく開いた。

 白衣をまとい、血相を変えて飛び込んできた栗色の髪の女性。

 彼女の視線が、一直線にパパを捉えた。


「ルキウス!? やっぱりここにいた!」


 パパの顔が、さっきの「我道バレ」の時以上に引きつった。


「げっ……パステル」


 パステル……?

 私は修羅場か?とワクワク期待しながら次のパステルさんの言葉を待った。





―――――――――――――――――

パパの二つ名「我道」に爆笑! グレッダ伯爵も豪快で素敵なキャラですね。


次回、第19話「逃げていた天才と、背中を押した人」

元カノ襲来で修羅場!? と思いきや、ママの愛がパパの背中を押す感動回!


セレナにとって初めて旅行となる王都。

皆さんは初めての旅行ってどこに行ったか覚えてますか?

私は......親の帰省を除くと、福島のスパリゾートハワイアンズ

(昔は常磐ハワイアンセンターでしたが)だったかもしれません。

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2026年1月2日 10:10
2026年1月2日 10:15
2026年1月2日 10:20

笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界を繋いでいる 八坂 葵 @aoi_yasaka_1021

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