第17話 はじめての王都と、届いた指名依頼

「セレナ、ちょっといい?」


 冬休みを目前に控えたある日。

 家に帰ると、ママが工房から顔を出して手招きした。


 普段通りの、何気ない呼びかけ。今日の夕飯の相談かな、なんて思いながら近づいた私に、ママはとんでもない爆弾を落とした。


「王都からお仕事の依頼が来たのよ」


「……えっ、王都!?」


 声が裏返る。

 まさか、辺境のヴェルダにある町工房に、国の中心である王都から?


 聞けば、ママの昔の師匠ベーネさんからの指名依頼らしい。街灯の交換作業で人手が足りず、猫の手も借りたい状況だとか。


条件は破格で、断る理由はないらしい。

……でも、年末年始にママがいないのは、正直寂しい。

 眉を下げた私を見て、ママは悪戯っぽく笑った。


「だから、セレナも一緒に行きましょう。パパもリオも連れて、みんなで」


「え、みんなで?」


「下宿も用意してくれてるの。しかもペット可よ」


 家族全員で王都旅行! 寂しさが一瞬で期待に変わる!!


 でも、一つだけ心残りがあった。

 親友のアミーカだ。

 冬休みに彼女と遊べなくなるのは辛い。

 ダメ元で一緒に行けないか相談しようとした、その時だった。


「アミーカちゃんも連れて行きたいんでしょ?」


「……はい?」


 ママが先回りして答えた。

 心でも読めるの、うちのママは!?


「フローラたちにはもう話を通してあるわ。『ぜひ連れて行ってもらえる?』って快諾もらってるわよ」


 根回しが早すぎる。私が学校に行っている間に、外堀は完全に埋まっていたらしい。

 こうして、私の冬休みは予想もしなかった「王都への大冒険」へと変わることになった。


 ◇◆◇


 ヴェルダ出発から五日。

 温泉街の花畑や、一面の雪景色、すれ違う馬車への挨拶など、初めての体験を重ね、ようやく到着という頃。


 馬車の窓から見えたのは、空へ突き刺さるような巨大な外壁だった。


「お、そろそろ到着だな」


 パパが低く呟く。ついに、王都セントーレだ。厳重な検問を抜け、巨大な門をくぐった瞬間――ドォォォッ、と音と熱気が押し寄せてきた。


「ふわあ……すごい!」


「見てセレナ、建物が全部でっかい! 石造り!」


 私とアミーカは、完全に「お上りさん」状態で口をあんぐりと開けていた。

 視界を埋め尽くす重厚な石造りの建物たち。

 行き交う人々の活気。


「これがパパとママが若い頃に住んでた街だ」


パパは少し誇らしげに胸を張っている。


「はい、感傷に浸るのはそこまで! まずは師匠のところへ挨拶いくわよ!」


 ママがパンと手を叩き、慣れた足どりで人混みをかき分けていく。

 大通りから一本入った路地。『ベーネ工房』の裏口へ回ると、ママはいきなり扉をガチャッと開けた。


「久しぶりー! 師匠いるー?」


(ちょ、ママ!? ノックは!?)


 いつも「礼儀作法」にうるさいママが、まるで友達の家に遊びに来たようなノリだ。

 いや、私ならアミーカの部屋でもノックくらいするけど。


 中から同年代の女性や、年配の師匠さんらしき女性が顔を出す。怒られる、と私が身構えた瞬間。


「マリーは娘ができても相変わらず子どもみたいね」


 師匠さんは呆れたように、でも嬉しそうに笑った。その言葉に、ママは満面の笑みで飛びつく。


「師匠、本当に久しぶりです!」


(待って、これ誰。私の知ってる「完璧なお母さん」どこ行った?)


 アミーカと私は固まるしかない。

 部屋に通されてお茶を出された時。

 リオがお菓子の匂いにつられて立ち上がり、風魔法で食器を浮かせそうになった。

 食器が落ちかけた寸前、


 シュッ。


 ママの足が電光石火の速さで伸び、空中に落ちそうな器を足の甲でピタリと止めた。

 フフッと得意げなママを、パパは手で目を覆い、


「……マリー、見えてるぞ」


と声をかける。

見えて……あ、下着!

思わず目を逸らした。


 パパの指摘に、ママは「あっ!」と足を戻し、テヘッと舌を出した。


「相変わらず足癖が悪いね。ここにいた頃もドアを何枚も蹴破っていたし」

「えへへ……」


 ガラガラガラ。王都に来て十分足らずで、私の知る「良妻賢母」なママ像が崩壊していく。


 「マリエッタさん、なんか楽しそうだね」


そう耳打ちするアミーカに、私はふと気付かされた。

 ここはママの“元の場所”。昔の「破天荒なマリー」に戻っているママは、いつもの完璧な姿よりも、なんだか少しだけ近くに感じられた。


◇◆◇


 ママが早速仕事モードに入ったため、私たちはパパの案内で王都散策に出かけることになった。

 条例に従い、リオには不満げながらも首輪とリードがついている。


「まずは王城だな! 王城見なくて何を見る!」


 一番はしゃいでいるのはパパだった。

 意気揚々と歩き始めて、わずか五分後のことだ。


 ――ドォォォォン!!


 腹に響くような爆発音が、大通りに轟いた。


「な、なに!?」


「きゃっ!」


 私とアミーカは反射的に身を寄せ合う。敵襲か、事故か。

 しかし――周囲の通行人は誰も悲鳴を上げていなかった。


「あらあら、今日は派手ねぇ」


「昼から元気なこと」


 買い物かごを下げたおばさんたちが、世間話のついでに煙を見上げているだけ。

 え、王都の人たち、メンタル強すぎない?


「悪い悪い、言い忘れてた」


 パパが苦笑しながら説明する。この先には「変な研究ばかりしている錬金術師」が住んでいて、二日に一回は爆発騒ぎを起こすのだと。

 しかも防爆処理が完璧で、被害は一切出ないらしい。


「王都って……変な人しかいないの?」


 アミーカの震えるような問いに、パパはニカっと笑った。


「そうだな。まともな奴はこんな騒がしい街には住まないさ」


 その言葉がブーメランとなってパパ自身に刺さることを、私たちどころか、パパですらまだ知らなかった。


 そう、この後向かった場所で、私たちは知ることになるのだ。


 パパがかつて、この王都でとんでもなく痛い二つ名で呼ばれていたことを。





―――――――――――――――――

ママのヤンチャな過去が発覚(笑)。 パパの「痛い二つ名」も気になります!


次回、第18話「我道ルキウス、知られたくなかった過去」

明かされるパパの恥ずかしい二つ名! さらに謎の女性乱入で修羅場突入!?

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