「卵」ゆで卵 100 個

ゼリオニック

第1話 「卵」ゆで卵 100 個

皆さんは「ボーン・バーン・サーン・カオ」(บนบานศาลกล่าว)というものを知っているだろうか。

ボーン・バーン・サーン・カオ

それはタイの人々が好んで行う習慣で、リスクの高い仕事に取り組む前に心の支えを求めるものだ。

つまり、超自然的な存在に助けを請うこと。

タイの人々が信じるその超自然的な存在には、善いものも悪いものもある。

しかし、これは神社でお願いをするのとは違う。

なぜなら、ボーン・バーン・サーン・カオには「約束」が必要だからだ。

願いが叶ったら、何かを「お返し」すると誓う。

そして願いが叶えば、その約束は絶対に守らなければならない。

その約束を守ることを「ケー・ボン」という。

もし約束を破れば、願いをかけた本人に災いが降りかかる。

それは「レーン・シン・ボン」(แรงสินบน)——誓約を破ったことへの報復と呼ばれるものだ。

僕も思うんだが、日本にも似たようなものがあるよね。

さて、タイで最もポピュラーなボーン・バーン・サーン・カオといえば——

ゆで卵を捧げる約束だ。

今日の話は、僕と友人の体験談だ。

遡ること、僕が二十歳を少し過ぎた頃。

そのとき、友人が地元の守護神(場所の名前は伏せさせていただく)の社でボーン・バーン・サーン・カオをした。

内容は「土地売買のビジネスが成功したら、ゆで卵を百個捧げます」というもの。

結果——見事に成功した。

仲介手数料だけで、立派な家が一軒建つほどの金額だ。

僕と友人はすぐにゆで卵の準備に取りかかった。

卵は自分で買い、自分で茹で、自分で殻をむき、自分で数えた。

すべてを整えてから、地元の守護神の社へ向かった。

線香、ろうそく、酒、お供え物のトレイ(กระทงเครื่องเซ่น)、ヤン(噛みタバコ)とビンロウの葉も用意して、ちゃんと拝むつもりだった。

ところが——ゆで卵が一つ、地面に転がり落ちてしまった。

友人はそれを拾い上げて、元あった場所に戻した。

すると、儀式を執り行う人が言った。

「地面に落ちたものは、ケー・ボンには使わない方がいい」

だが、まだ若かった僕たちはその忠告を聞かなかった。

そのまま儀式を続けてしまった。

それから間もなく、また土地の売買が始まった。

不動産仲介をしている友人は、再び僕を誘って同じ社でボーン・バーン・サーン・カオをした。

しかし、今度は様子が違った。

買い手が支払いを先延ばしにし続け、友人は次第に落胆していった。

「前回はすぐに叶ったのに、今回はどうして守護神様が助けてくれないんだ……」

そんな愚痴を僕にこぼした。

その後、間もなく友人は事故に遭った。

バイクで転倒し、足を折ってしまったのだ。

入院生活が始まった。

ところが、入院して二晩目——友人が急ぎの電話をかけてきた。

僕はちょうどその病院で働いていたので、すぐに駆けつけることができた。

友人は震える声で語り始めた。

「怖い夢を見たんだ……」

夢の中で、三人の男が現れた。

古い様式のジョン・クラベンを着け、上半身は裸。

全身にびっしりと刺青が入っている。

それぞれがマイ・ナー・サームを持っていて、友人を囲んで殴りかかってきた。

特に足を重点的に殴られ、夢の中で折れた足は——

現実でバイク事故で折れたのと同じ側の足だった。

しかも、その夢は事故よりも前から見ていたという。

僕はすぐに悟った。

これは間違いなくレーン・シン・ボンだ。

原因はきっと、あの地面に落ちたゆで卵だろう。

僕は再び供え物を用意した。

ゆで卵を百一個。

百個と一個に分けて。

友人を連れて社へ行き、ケー・ボンを行った。

一個は前回の分の埋め合わせ。

百個は謝罪とお願い。

その後、友人は同じ夢を見なくなった。

そして三ヶ月後——

土地の売買交渉が再び始まり、見事に成功した。

僕と友人は、数ヶ月前にしたボーン・バーン・サーン・カオを果たすため、再び供え物を用意した。

今度は決して油断しなかった。

ボーン・バーン・サーン・カオとは、つまり「契約」なのだ。

願いをかける者と、願いを叶える者——双方に「誠実さ」と「敬意」が求められる。

地面に落ちたゆで卵を拾って捧げることは、守護神に対する侮辱だと僕は思う。

簡単に考えてみてほしい。

もし友人が地面に落ちた食べ物を拾って「これ食えよ」と差し出してきたら、君はどう感じる?


あるいは、君が「ロト1等当選したらゆで卵百個捧げます」とぼーン・バーン・サーン・カオをしたら——

守護神様が電話をかけてきて、こう言うかもしれない。

「数百万の金を叶えてやる代わりに、ゆで卵百個だけかよ? いらねえよ!!!」

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