06 輝

「おい、風間。起きなさい」

 そんな声で目が覚めた。

 はっとして飛び起きると、思いっきり数学の授業中だった。横でサムが楽しそうに笑ってる。後ろからは寝言なのか、聞きたくもないターミネーターの歌が聞こえてくる。

「この問題の答えは?」

 全く分からない問題を訊かれて、正直に分からないって答えた。そのまま教科書に目を戻すと、オレは目をこする。

 まさか夢を見るくらい寝ちまうとは思わなかった。

 ちらっと後ろを見た。

 太陽が幸せそうな顔で寝息を立ててる。

 とんでもない夢だった。

 このオレが太陽になるとか、どうかしてんぞ、マジで。絶対このアホが変な歌をうたってるせいだ。そのせいで、あんなクソ恥ずかしい夢を見る事になったに違いない。

 本当に夢だよなと、俺は自分の両手を眺めた。あんな細くもなければ白くもない。ちゃんと筋肉のある腕で、ついでに腹筋もちゃんとある事を確認した。教室でするのは恥ずかしいから、後でトイレに行ってちゃんとあるか確認してこよう。

 いつも通りの巻き毛を引っ張りながら、あのさらさらだった太陽の髪の毛がちょっとだけ恋しくなった。あれだけ真っ直ぐだったら、本当にいいなと思ったよ、マジで。

 でも太陽が邪魔だとか言う理由が分かった気がする。ちょっと動くだけで垂れてきて、視界を覆いやがる。あんなに邪魔なもんだとは思わなかったな。

 それにこいつ、あんな力の出ない細くて小さい体で、オレと互角に戦ってんだよな? なんならあの体でオレくらいの体重がありそうな拳を振るってくる。マジでどうなってんだ?

 女の体が不便だっていうのは、少しだけ分かった。こいつがなんでそこまで男になりたいのかまでは分かんねぇ。でももうちょっとだけ、こいつに優しくしてやろうって思った。

 先生はそんな事を考えてるオレの後ろにチョークを放り投げて言った。

「桜野! うたってる暇があったら次の問題の答えは?」

「だだん…だんだだん♪」

 懲りずに寝てる太陽の頭に、白いチョークが当たった。起きる気配ゼロだから、あきれた様子の先生が近寄って来る。

 とうとう太陽の肩に手を掛けると、先生は乱暴に太陽を揺さ振った。

「おい、起きなさい」

「ふぁい?」

 ようやく起きたらしい、太陽が不思議そうに先生を見上げる。

「あれ? オレ、完璧な男になった筈なんだけど」

「そんな夢を見るほど寝るな」

 先生は面倒くさそうに太陽に言うと、肩を掴んで言う。

「次の問題の答えは?」

「分かんねぇ」

 ヨダレを拭きながら、太陽はそう答えた。

 先生は嫌そうな顔をしながらも、黒板の前の方に帰っていく。教科書を見ながら、授業を続ける。

 眠そうにあくびをしながら、オレの顔をじっと見つめてきた。

「なんだよ?」

 オレは小さい声で太陽に尋ねた。

「いや、ちょっと羨ましくなっただけだ」

 太陽はそう言うと、ちょっとだけ寂しそうな顔をしてシャーペンを握った。ヨダレで濡れたノートを見ながら、真面目に板書の続きを書き始める。

 もう気にしない事にして、オレは前を向くと教科書を見下ろした。

 マジで夢でよかった。

 自分の裸をこいつに見られてたら、マジで恥ずかしすぎて死ぬところだった。上半身までならともかく、下半身とか絶対に見られたくねぇぞ。

 他の奴ならともかく、太陽の事だ。

 マジで夢の中と同じように、立ちしょんしたり、ターミネーターの真似とかし始めかねない。オレの恥ずかしい秘密とか、こいつに握られたくない。

 マジでからかわれまくって、そのうちクラス中に広めかねないからな。

 本当の本当に、夢でよかった。

 こいつが何を言い出しても、絶対階段を駆け上がるなんてアホな勝負しない。何が何でも勝ちを譲ってやる。

 オレはそう、心に誓った。


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スカイブルーのトレジャーハンター番外編 桜井もみじ☆ @taiyou705

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