第9話 【Side:アラン】どうしてもエリオを勧誘したい!

──僕、アラン・ウェルドは今年で17歳となる、二年目の魔導騎士だ。



伯爵家の長男であり、ゆくゆくは家督を継ぐことになる。

だがその前に、ウェルド家では代々、長男が騎士団に入る習わしがあった。

なにせ騎士団はこの王国最大の組織。

家長自身が騎士団と強いコネクションを持っていなくては一族の今後に差し障ってしまう。


ゆえに、王国に忠誠を誓う三つの騎士団のうち、原則として貴族のみが所属可能であり、危険な討伐任務には赴かず王都警備を主な仕事とする <金獅子きんじし騎士団>に所属するのが慣習なのである。

だけど、僕はそれに逆らった。


なにせ、確信があった。

『そんなおままごとをしている余裕は今の王国にはない』、と。


辺境都市での戦いはここ十年でまた激化してきている。

騎士の年間死亡者数も右肩上がりだ……僕たち貴族以外は。


それではいけない。

いつか必ず国家が破綻する。

だからこそ、僕は志願した。

辺境防衛・モンスター討伐に特化した <黒狼こくろう騎士団>へと。



……貴族は貴族としての義務を果たすべきなのだ。最前線で平民たちの盾となり、国家の平穏を守り抜くという義務を。



その覚悟を、僕は常に胸の奥にたぎらせて任務にあたっていたはずだったのだが──



「──未熟でした。まさか、最前線ですらない内地で命を落としかけるとは」



僕は今、王都に構えられている黒狼騎士団本部の建物へとやってきていた。

今回の任務の顛末てんまつについてを上層部へと報告するためだ。



「災難だったな、アラン・ウェルド。だが、不意遭遇した五等級モンスターが相手では仕方があるまい。とにかく生還して何よりだ」



その最上階の団長室で僕の提出した報告書を受け取り、僕の話を聞いてくれていたのは黒狼騎士団団長のワイルド・オスカだった。

今年で五十になる彼は、今だ現役で剣を振るう猛者である。

まるで激しい波風にも負けぬ岸壁のように逞しく厳めしく、その目つきはそれだけで気弱な人なら殺せそうなほどに鋭い。



「しかし、そのホーリーハントを独力で倒せる一般人、か。にわかには信じがたいが……」


「ですが事実です、オスカ団長」



オスカ団長はしげしげと、提出された報告書へと改めて目を通した。



「三十後半の一般男性が剣技と炎と思しき魔術で討伐……しかも、反転魔術を見ただけで習得するとはな。いったいどれだけの才能の持ち主だというのだ?」


「計り知れません。ですが、既視感がありました」


「既視感?」


「さも当然そうに反転魔術を使い始めるクラーク様は……以前一度だけお話させていた王剣様の異質な雰囲気と同じものを漂わせていたかと」


「王剣……アイツと同じか。それは、うーん、なんとも厄介そうだな……」



オスカ団長は、なぜかドッと疲れたかのようにこめかみを指で押さえた。

なぜだろう?

僕としては言外に、王剣様と同等の才能があるのでは? と伝えたかっただけなのに。



「ともかく、クラーク様の騎士としての才能は至上のものかと。ですので今回の件のお礼とともに、僕たち黒狼騎士団へのスカウトをしたいのですが……」


「だが、もうすでに誘いは断られたのだろう?」


「……はい」



肩を落とす。

あのときミゲルさんがスカウトの条件として提示したのは、破格のものだったと思う。

なにせ、騎士団では半分以上の騎士が八等級から六等級の間で昇級が止まって退任していくのだ。

五級騎士に任命されるところからスタートする人なんてなかなかいない。



……もちろん『騎士になりたくない』というなら無理強いすることはできないが、しかし、クラーク様はそうではないようだ。



「剣礼試験は受けに来ると言ってくれているのだろう? 合格後に、改めて処遇を考えればいいんじゃないか?」


「それはそうですが……」



だとしても、ゼロからのスタートだなんてもったいない。

クラーク様はすでに即戦力以上の騎士として活躍できるレベルにあるのだ。

新人と混じって十等級や九等級から始めるなんて、貴重な戦力の損失ですらあるだろう。

だというのに、



「さあ、この話は終わりだ。アランは寮に戻り休暇に入れ。今回の件で疲労も溜まっているはずだからな」



オスカ団長はどうにも、気乗りのしない様子だ。

それも僕が王剣様の話題を出してからは、特に。

違和感を覚えつつ、団長室を後にしようとして……。


その直前の出来事だった。

壊滅的な騒音を響かせて、団長室の壁の一部が粉々に吹き飛んだのは。



「え」



あぜんと棒立ちになっている僕の前、壁には人一人が余裕で通れるほどの大きな穴が空いていた。

その穴から顔を覗かせたのは一人の美男。



「やあ団長。突然の入室、お許しを」


「~~~!!! だからドアから入って来いとッ! 俺が言うのはこれでいったい何度目だッ!? ノアッ!!!」


「ゴメンゴメン」



椅子を蹴飛ばすようにして立ち上がり、激昂するオスカ団長。

熊さえ気絶させそうなその怒声に、しかしその美男・ノアは茶目っ気たらしく舌を出して答えた。



「だってここ地上八階じゃん? 急用のときにチンタラ階段なんて上っていられないんだもん。これに懲りたら団長室をさ、そろそろ一階に移そうよ」



飄々ひょうひょうと答えるその美男の名はノア・ローレン。

彼こそが、総勢二万人いる騎士たちの中でもたったの三人しかいない <王剣>。

一級騎士のさらに上の騎士であり、そして黒狼騎士団の誇る最高戦力である。


その歳は十代にも見える若々しさだが、もうすぐで三十になるらしい。

肩まで伸びた白銀の髪はまるで日に照らされた雪景色のように綺麗で、とても人目を引く。


だが、今注目すべきは彼のその風貌ではなかった。

彼がその手に持っているモノに、オスカ団長も僕も遅れて気づいてゾッとする。



「ノア、おまえが持ってるソレは……まさか <魔族>か……!?」


「ああ、うん。そう。コレが俺の急用ね」



ノアが片手に鷲掴みにしていたのは人の頭……いや、正しくは『人とほとんど変わらない見た目と頭脳を持つモンスター』である魔族の頭だ。

彼らが持つ身体能力と魔力は人間のソレを遥かに上回っており、独力で勝てる騎士はほとんどいない。

その等級は最低でも二等級以上。



「ロ、ローレン様が倒されたのですか……!?」


「ん? まあね。人手も足りなかったし、つい今しがたボコして連れてきたった」



ローレン様は何でもないように言って、お手玉のように魔族の頭をもてあそぶ。

すると、その頭から低いうめき声が上がった。

まだ生きているのだ。



「でさ、団長。コイツだったよ。内地にホーリーハントを始めとして、その他の六等級以上の強力な辺境のモンスターを誘導してたのは。コイツのせいで、団員が十人以上も犠牲になった」


「なに!? しかし、なぜそんなことを……」


「狙いはたぶん、内地の異変に俺たちの意識を向けることじゃないかな。近々、どこかの辺境都市を侵略してやろうってハラかもね」


「それは……あり得るな」



オスカ団長が、神妙な顔つきで魔族の頭を見やる。

その視線に応じるように、



「ククク……」



魔族の頭は笑った。



「何を考えようが無駄だ、人間ども……! 全て無駄な抵抗だ……!」


「無駄なことしてんのはおまえらだよ、魔族。いい加減に黒幕を吐いちまいな」


「くたばれ。呪ってやるから覚えておけよ、王剣……!」



そう言い捨てた直後。

魔族の頭はブチュンッ! と収縮するようにして潰れた。



「あ、クソッ! コイツ自害しやがった! まったく……」



ローレン様は重たいため息を吐いた。

そして団長室のソファへとドカッと腰をかける。



「ねぇねぇ団長、人手不足どうにかなんない? 具体的には今程度の魔族なら一人で圧倒できるくらいの強者がほしい。俺一人が駆けずり回ったってさ、どうしたって守れる範囲にも限度ってもんがあるんだよね……」


「無茶言うな。魔族が相手では一等級騎士の俺でも圧倒とまではいかんのだ。そんな人材がそこらに転がっているわけが……と、言いたいところではあるんだがな」


「えっ!? なに、その反応……まさかアテがあんのっ!?」



身を起こしたローレン様へと、オスカ団長は先ほど僕が出した報告書を手渡した。

彼はその内容を食い入るように読み込むと、



「……面白い。超面白いじゃんこの人。エリオ・クラーク……このオッサン、俺が編み出した反転魔術を一発で使えるようになったってのっ? それがマジならすげぇよっ!?」


「まあ落ち着け。今度の剣礼試験を受けるらしい。だからその時にでも──」


「いやいや、今すぐ確保するしかないでしょこんな即戦力人材! ちょっくら行ってくる!」


「いや、おいノアッ! ちょっと待──」


「問題ない! この王国最強の騎士にお任せあれさ!」



ローレン様は報告書を投げ出すや、バッと。

自分で空けた壁の大穴から飛び出してその姿を消した。

直後、何かしらの魔術を残していったらしく、壊れていた壁は元通り修復されていく。



「……ハァァァ」



オスカ団長は深いため息とともに壁にもたれかかる。



「す、凄まじい行動力でしたね、ローレン様は……」


「自由奔放すぎるんだ、アイツは」


「クラーク様を確保しに行くとか仰ってましたけど……」


「ああ、心配だ。また何か問題をしでかすんじゃないかとな。そしてその責任は後で俺に回って来るんだ……」



オスカ団長は疲れ切った表情で落ちた報告書を回収しつつ、



「これだから王剣というやつは扱いにくくてイヤなんだ……もしもノアみたいな個人主義の騎士が部下になったら、間違いなく胃に穴が空く」



どうやらローレン様はこれまでにもいろいろやらかしているらしい。

僕はただ、ローレン様とクラーク様の接触が何事もなく終わることを祈るしかなかった。





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ここまでお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第10話 王剣、酔っ払い貴族をとっちめる」です。


本作は2026年度のカクヨムコンテスト参加作品です。

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2026年1月12日 07:05 毎日 07:05

平民の子持ちオッサン、騎士の娘をさしおいて王剣キャリアを歩んでしまう 浅見朝志 @super-yasai-jin

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