第8話 なるほど、聖力はこうやって出すのですね

「──改めまして、助けていただきありがとうございます」



完全に自身のケガを治し切った青年騎士は居住まいを正すと、礼儀正しく頭を下げてくる。

彼の名前はアラン・ウェルドというらしい。

改めてよく観察すると、綺麗な青色の髪をした整った顔立ちの青年だ。

それとなく出自を聞いてみたのだが、こことは別の地方の出身なのだとか。

曖昧にされたが、その立ち振る舞いを見る限り、おそらくは貴族なのだろうということがうかがえた。



「ケガが治ったようで何よりでした。ウェルド殿」


「ですから、殿などと付けるのはおやめください。クラーク様は命の恩人なのです。どうか『アラン』と呼び捨てていただければと思います」



会話の中で訂正を入れられるのはこれで何度目だったか。

彼はずいぶんと腰が低かった。

良い意味で貴族らしさがない。



「……わかりました、アラン」



私がそう呼ぶと、アランの顔がにわかにパッと明るくなった。

大人と子どもの間の面持ちが垣間見える。



「あのホーリーハントを退けられた御方に名を呼んでもらえるのは、とても光栄なことでございます」


「いえ……それより、向こうの草陰で君の仲間と思しき騎士たちが瀕死でいるのですが、続けて回復は可能ですか?」


「! 本当ですかっ? みんな生きているのですか!?」



どうやら気づいてはいなかったらしい。

私の指さした方向へと、アランは一目散にかけていく。

そして、ぐったりとして大樹にもたれかかる騎士たちを聖力で照らし始めた。

騎士たちの傷が次第に治っていく一方で、しかしなぜか彼のその表情は苦しげだ。



「どうしました?」


「……ホーリーハントに吸われ過ぎたのか、魔力が足りません」


「魔力? 聖力ではなくて?」


「いえ、私は純粋な聖力を宿す聖法騎士ではないので <反転魔術>を使っているのです」



回復術に限界が来たのか、アランは大きく息を吐いてその場に座り込んだ。



「聖力とは魔力と対をなす力……自らの魔力に対して、それを反転させる魔術を行使すれば聖力が生み出せます」


「そんなことができるとは……知りませんでした」


「反転魔術はそれ自体を使える者が非常に少ない特殊技能なので仕方ないですね」


「難しいんですか? それとも特別な才能が必要とか?」


「ええ。それらの要因ももちろんありますが、どちらかといえば感覚センスの問題でもあります。魔力という、手で直接触れられない物体を裏返す感覚を掴む必要があるので……」



そう説明をしつつ、再び仲間のケガを治すためにアランが立ち上がった。

そして回復術を使い始めると、



「──ア、アラン……無事、だったんだな」



騎士の一人、先ほど私へと言伝を頼んだ中年の男が目を覚ました。



「ミゲルさん! よかった、目が覚めたんですね!?」


「応援、は……?」


「……いえ、それはまだ」


「そう、か……なら、俺たちは置いて、おまえだけでも……帰還しろ」


「なっ、できませんっ!」


「命令だ、ばかやろう……」



ミゲルという名前らしいその男は、依然として苦しそうな、荒い呼吸だった。



「わかるだろ……今のおまえじゃ、俺たち全員を動けるまで回復させるのは、無理だ……」


「……!」


「反転魔術は、魔力を多くロスするんだろ……? このままじゃ、おまえまで魔力不足で倒れるぞ」


「ですが──」



なおもアランは食い下がった。

それに対して重傷のミゲルがさらに説得を重ねる。

私はどうも、その二人の会話に口を挟むに挟めず……手の内側で魔力をこねくり回しておくことにした。



……反転魔術、か。



やり方は先ほどのアランのものを見てわかった。

あとは魔力を裏返す感覚センス、か。



……確かに実体のない魔力は手で触れられるものではない……だが。



私はすでに、その実体のない魔力を使い遠く離れたモノを掴む浮遊魔術を習得している。

そのときの感覚を応用すれば──



「──なるほど、こうやって生み出すんですね」



ボウッと。

火が灯るように、手の内側からオレンジ色の明るく輝き出していた。

ピタリと舌戦を辞めた二人が、呆然としてそれを見る。



「そ、それ、聖力じゃないですか……?!」


「ええ。反転魔術、教えていただいたものを試したら上手くできました」


「僕、教えてませんけどっ!?」


「ああ、厳密にはアランが使っているところを見れたので、それを再現しました。見て盗むというやつですね」


「な……そんなことが……!?」



信じられないといったような表情だが、できてしまったのだから仕方がない。

というわけで、できた聖力をさっそくミゲルへと流し込む。



「あっ、クラーク様、聖力は流し込むだけではダメで──」


「回復術式ですね。問題ありません」



それについては私も医学を少しかじったときについでの知識として習得済みだ。

もしもライラが大きなケガをしてしまった場合に備えて、妻ラシェルの妊娠がわかったときから三日間寝ずに、ありとあらゆる医療知識を頭に詰め込んでいたのが功を奏した。

ちなみにそのときは過労で倒れ、『医者の不養生ね。医者でもないのに』とラシェルに呆れられたのを今でも覚えている。



「お……おぉっ!?」



ケガがみるみるうちに治っていく様に、ミゲルは目を見開いていた。

私も私で驚きだ。

確かにこの回復術は消耗が激しい。

普通の魔術を使う際の二~三倍の速度で魔力が擦り減っていく。



……もう少し改良できるんじゃないか?



「では、続けて他の二人にもかけていきますね」



ミゲルの回復が終わったので、他の二人にも回復術をかける。

途中からいろいろな改良方法を試してみたが、どれも魔力消費量は同程度だった。

少し残念だ。

まあ、私ごとき門外漢ができる思い付きなど、この分野の偉大なる先人たちがすでに試していて当然なのだから仕方あるまい。


今度、時間をとってジックリ研究を深め、私の専門分野にしてしまおう。

それまで回復術の改良はお預けだ。



「さて、これで終わりですね」



もともと余力があった分、私が魔力切れになる前に三人の回復を終えることができた。

すでに全員意識を取り戻して、狐につままれたように目をパチクリとして、自分の体を眺めていた。



「た……大変感謝する……だがアンタいったい何者……なんですか?」



ミゲルがどう接したものかといったような、探り探りな言葉遣いで尋ねてくる。

何者……と言われても。



「学者です」



今はそうとしか答えようがない。

だがそう答えても、当然ではあるがアランと同様に納得はしてくれないだろう。

やはり、ミゲルたちもまたあぜんとしていた。

補足しよう。



「今年度の剣礼試験を受けて騎士になるつもりです。そのときはどうぞよろしくお願いいたします」


「剣礼試験って……いや、あなたもう、そんなレベルじゃないのでは」



ミゲルはすっかり体力も戻ったのか、いよいよ立ち上がる。

背は高く、体は筋骨隆々。

岩のようにゴツリとした手が差し出される。



「クラークさん、今から騎士団にきませんか。あなたは即戦力以上です。団内に一握りしかいない五級騎士の資格すら手に入れられるかと。今回のお礼の件と兼ねて上の者に事情を話しますので、ぜひ」


「恐縮ですが、それは謹んでお断りします」



即答した。

騎士になると決めたときには、すでに私には私のプランがあった。

貴族にやっかみを受ける平民騎士となる以上、最初から騎士団の庇護下にあるわけにはいかない。

剣礼試験には自力で合格する必要があるのだ。






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今回もお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第9話 【Side:黒狼騎士団】どうしてもエリオを勧誘したい!」です。

本日18:00ごろの更新を予定しています。


次のエピソードもなにとぞよろしくお願いいたします。

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