あぁ、無常!

風雅ありす

すべては世界平和のために

 その日、世界は、一つになろうとしていた。


『Web小説コンテスト~世界平和のために~』


 というタイトルの企画が、グローバルネットワーク上において開催されていた。


 世界中の名高い企業や著名人たちがスポンサーとなり、世界平和のため、Web上に投稿された小説の優劣を競って戦う、世界最大級の小説コンテストだ。


 一般ユーザからの投票数と、各国から選び抜かれた審査員たちによる総合結果から、大賞となる小説が決まる。


 参加者たちには、ギフトと呼ばれる投げ銭機能を使用することができ、ここから得られた収益は、すべて世界平和のために有効利用されることとなる。


 つまり、Web小説を使った世界規模のチャリティコンテストである。


 作家自身の収益にはならないものの、ここで何かしらの成果を上げることは、物書きとして最大の栄誉と名声を手に入れることと同義であった。


 そのため、この企画のために世界中の物書きたちが、こぞって自信作をWeb上の小説投稿サイトへ投稿していた。


 プロとして既に名を馳せている玄人作家から、書籍化していないもののWeb上で素晴らしい作品を書き続けているアマチュア作家、そして、小説を書いたことのない卵作家まで、実に幅広い物書きたちが勢ぞろいしている。


「ふふふ……今こそ、十年以上に渡ってプロットをあたためてきた、この俺の最高傑作を世に広める時! これまで俺のことを散々、いじめくさってきたヒエラルキー上位の輩どもめ! 俺の才能を前に、ひれ伏すがいい!!」


「うぅ……小説って、こんな感じでいいのかなぁ? はじめて書くから、うまく書けないや💦 でも、誰かに私が書いた作品を読んでもらえるって……少し恥ずかしいけど、なんか嬉しいなぁ」


「ふんっ、ミステリーの女王と言われたこの私の右に出る者なんて、いるわけがないわ! このトリックを見破れるものなら、見破ってごらんなさい!」


「えーっと、とりあえず、主人公を大型トラックで殺してー、異世界転生してー、ギフトでチートもらってー、ハーレムでも築けばいいんじゃね?」


「……ぐへへ、みんな殺してやる。ホラーだ。俺のホラーで世界を震撼させてやるんだ……ぐへへ……みんな、死ね!」


「うーん、やっぱり世界を平和にするなら、コメディだよな。うん。笑いは、全世界共通! お笑い界で鍛えたこのネタで、世界中を笑顔にするぞー!」


「世界を救うのは……愛よ! 真実の愛こそが、世界を平和にするの! 私は、書くわ。世界中が恋をしたくなるような……そんな最高の恋愛小説を!」


 ……と、実に様々なジャンルの猛者たちが、己の作家生命をかけて、この企画のために最高傑作を書いた。


 そして、今日は、その結果が発表される日――――世界一の作家が今、ここに選ばれることになる!


 発表の方法は、Web上にて、リアルタイムに動画配信されることになっている。


 世界中の人たちが、PCやTV、スマホ画面を前にして、発表の時を今か今かと固唾をのんで見守っていた。


 その日、この企画のために、戦争は休止し、正に世界平和が訪れようとしていた……!


「えーでは、時間になりましたので、『Web小説コンテスト~世界平和のために~』の結果を発表したいと思います」


 どきどき、どきどき……


 世界中の鼓動が聞こえてきそうな瞬間、司会者は、続けた。


「見事、大賞に選ばれましたのは……」 



 デーーーーーーン!!


 突然、直径20kmの巨大隕石が地球に降ってきて、世界は滅亡した!!




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