昨日の近況ノートへ、たくさんのお祝いメッセージをありがとうございました!
受賞させていただいた御礼に、以前サポ限で公開させていただいた、
『魔法使いと王女様』もう一つのエピローグを公開します。
楽しんでいただけたら幸いです(*ᴗˬᴗ)
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📖『魔法使いと王女様~もう一つのエピローグ~』
(※本編「#04. 最後の選択」のあと。)
「さぁ、早く飲んで! キルシュ!」
シュガー王女が、持っていた小瓶を、キルシュの指先に押し付けた。
その時、ばんっ、と勢いよく部屋の扉が開く。
部屋に入って来たのは、カラメル王女だった。後ろに、ブラン皇子もいる。
「お姉さま?!」
驚いた顔のシュガー王女とキルシュを、カラメル王女は一目見るなり、すぐに状況を飲み込んだ。二人の帰りが遅いので、様子を見に来たのだ。
「え~い、飲むならとっとと飲めぇい!」
苛立った声で、キルシュに向かって怒鳴りつける。
「なっ、なんでカラメル王女が……って、いや、そんなことよりも、俺は飲みません!」
キルシュの拒絶する声に、シュガー王女が傷ついた顔で振り返る。
「どうして? そこまで私のことが嫌いなの?」
「ちがうっ!!」
キルシュが腕を振って否定するものの、シュガー王女は、覚悟を決めた顔で、持っていた小瓶を開け、口をつけた。
「待てっ! 飲むなっ!」
キルシュが手を伸ばして止めようとしたが、間に合わない。
シュガー王女は、小瓶の中身を全て飲み干してしまっていた。
「くそっ……!」
キルシュは、ちらっと横目でブラン皇子の位置を確認し、彼から隠すように、シュガー王女の身体を、自身の胸に抱いた。
驚いたシュガー王女が、キルシュから離れようともがく。
「ちょっと、離してっ!」
「ダメだ!」
キルシュは、シュガー王女の頭を、ぎゅっと強く抑え込んだまま、ローブを翻すと、次の瞬間――――二人の姿は、忽然と部屋から消えていた。
部屋に残されたカラメル王女とブラン皇子は、慌てて周囲を見回してみたが、扉は閉まったままで、窓も開いてはいない。
「なっ! 一体、どこへ……」
狼狽えた声をあげるブラン皇子とは対照的に、カラメル王女は、やれやれ、という風に首をふる。
「どこでもいいさ。それよりも…………やっと二人きりになれたんだ」
ねぇ、とカラメル王女が、艶めいた声音で、ブラン皇子に近寄る。
「フラン皇女」
本名を呼ばれて、ブラン皇子の白磁の頬に、さっと朱が差した。その、ほんのり赤くなった耳に、カラメル王女の指先が触れる。
「私に会いに、来てくれたんだろう? フラン」
甘い声で呼ばれて、フラン皇女の瞳がうるむ。
小さく頷くフラン皇女とカラメル王女の熱い視線が、宙で深く交わった。
♡ ♡ ♡
一方、姿を消したキルシュとシュガー王女は、尖塔の天辺にいた。頭上には、満天の星が輝き、足元には、城の窓から蝋燭の灯りが漏れている。
キルシュは、胸にシュガー王女を抱いたまま。彼の黒いローブが風にたなびき、夜に溶けていた。
視界を覆われているシュガー王女には見えないが、ここがさっきまでいた自室ではないことだけは分かった。
キルシュが、禁則を破って魔法を使ったことも……。
「…………お城で魔法は使えないんじゃなかったの」
「俺を誰だと思っている。この国一の魔法使いだぞ」
「離して」とシュガー王女が言えば、キルシュが「離さない」と答える。
シュガー王女は、諦めたように力を抜いた。
「どうして……あのままブラン皇子を見れば……好きになれた」
シュガー王女の声に、涙がにじむ。本当は、そんなことなど望んでいない。それでも、キルシュに受け入れてもらえないのなら、他に方法はないと思ったのだ。
「そんなのものは、まやかしだ。魔法で一時的に心拍数と体温を上げているだけで、恋と錯覚する――幻だ」
「キルシュを、忘れることができた」
「忘れなくていい。……忘れないでくれっ」
キルシュが、痛みをこらえるような声で吐き捨てる。
その声が、あまりに切実で、シュガー王女の胸に、わずかな希望の灯をともす。
「どうして? だってわたしのこと、何とも思っていないんでしょう?」
「そんなことは言っていない」
「言った! ……ってないかも」
二人の間に、沈黙が降りる。
反論するように、だって、とシュガー王女が続けた。
「わたしがつくったクッキー、食べてくれなかったもの」
「毒入りだろう」
「惚れ薬よ! ……あ」
思わず自分の罪を告白してしまったシュガー王女を、キルシュは、責めなかった。
むしろ、より強く、シュガー王女の肩を抱く手に力をこめる。
互いの体温が、鼓動が、一つに重なっていく。
「そんなものなくたって……いいんだ」
シュガー王女のすぐ耳元で、キルシュの低い声がやさしく囁く。
「どういう意味? はっきり言って!」
「そんなものがなくたって、俺の心は決まっている……いや。ある意味、惚れ薬のお陰で気付けたというべきか……」
シュガー王女は、キルシュの顔を見て話そうと、上を向いた。
しかし、それをキルシュが押さえつけて阻む。
「見るな!」
「どうして?」
キルシュの脳裏に、先ほど、シュガー王女が、惚れ薬を飲み干した姿が思い浮かぶ。迷う素振りすらなかった。その潔さが、キルシュには、眩しくて、胸が痛い。
「…………今、お前に顔を見られたくないんだ。薬の効果が切れるまでは、誰の顔も見せやしない」
シュガー王女が、きゅっと胸が締めつけられる。自分の心臓の音が、いつもより速いのは、惚れ薬を飲んでしまった所為なのかしら、と考えた。
「それって……ぷっ、キルシュ。それじゃあ、どうするの? 薬の効果が切れるまで、ずっとこうしているっていうの?」
「そうだな…………それもいいかもな」
夜風に乗って、楽団の奏でるメロディが聞こえてくる。
その時、ようやくシュガー王女は、さきほどから聞こえる鼓動の音が、自分のものではないことに気付いた。触れあっている部分から伝わる、キルシュの鼓動が速い。彼は、惚れ薬なんか飲んでいない筈だ。
シュガー王女には、それこそが、自分の求めていた答えのように感じた。
「ねぇ、言って」
「何を」
「わたしのことが好きだって」
「…………」
二人は、何度も同じやりとりを繰り返した。
ようやくキルシュが降参した頃には、すっかり朝日が昇っていたという。
完
▼本編は、こちら♡
📖『魔法使いと王女様』
⇒
https://kakuyomu.jp/works/822139838837390887※追伸※
ママン~!
このAIイラスト気に入ってないので、ママンのFA楽しみにしてまぁ~す♪
キャー(⁎˃ ꇴ ˂⁎)ッ💕