第3話 アドレスの主
アドレスとは住所、番地、宛名を意味する英単語である。
災いは自身に降りかからなければ、その火の粉は対岸の火事ですらない。
携帯電話のアドレス帳から、別の携帯電話のアドレス帳に移動する幽霊アドレスなんて、うちの大学のオカルト研究会が流した噂だと、
その噂によると、日曜日の深夜0時にメールが受信されるが、内容は空メールで、自動的にその送信先のアドレスが、自分のアドレス帳に登録されてしまう。
削除はできず、試しにこちらから送信しても、返信は返ってこない気味の悪いメールアドレス……。
放置すること24時間、つまり月曜日の0時になると、そのアドレスからメールが送られてくる。
その内容が更に気持ち悪い。
それは日曜日に、自分の身の回りに起こったことを分単位で記してある内容だった。
それが月曜日から土曜日まで、計6回続けられる。
送られた本人は、携帯電話の電源を切る。解約するなど、あらゆる対処法を試みるが、深夜0時には必ず携帯電話が身近に置いてあるという。
やがて、幻聴、幻覚、妄想といった症状が現れ、6日後には放心状態となる。
そして、土曜日の23時59分のメール内容には、自分の現在の状況が
これまでの体験で、自分はこうしてきた、と擦り込まれた本人は、今度はこうしなければ、という意識を持ち、メールの指示に従ってしまう。
それが例え、自ら死を選ぶ行為であっても……。
この噂を思い出したのは、敬子の親友である
月曜日には
金曜日に5回目のメールが届いた。
久栄は恐怖というより、無気力から携帯電話に手を伸ばしたが、すぐあとに敬子から着信があった。
通話内容は重要な話があるから、これから部屋に行くというものだった。
敬子が噂の発祥であるオカルト会員から聞き出した話では、幽霊アドレスが送られた人間で唯一生きている人がいるという。
彼は入院中で、その容姿は半死半生の放心状態だった。
何を話しかけても無反応だったが、久栄の携帯電話を取り出した瞬間だけ、彼の目の奥に反応が見られたような気がした。
だが、その後は何時間経過しても、彼が言葉を発することはなく、残された貴重な1日が過ぎてしまった。
6回目のメールが届いた土曜日も2人は彼の元を訪れた。
今日、彼から助かった方法を聞き出せなければ、23時59分に久栄が死ぬかもしれない。
しかし、彼は病室から抜け出し、行方不明となっていた。
敬子は久栄の携帯から6回目のメール内容を確認すると、気になる一文を見つけた。
『このアドレスを遂に見つけた』
敬子は行方不明の彼に不信感を抱き、彼がメールを送信して殺人まで犯している元凶ではないかと疑念を抱く。
久栄を彼から助けるため、今夜は周囲が見渡せる広場にいようと提案した。
彼が現れたら、敬子が相手を殴り殺してでも取り押さえるという計画を立て、
23時59分にメールが届いた。久栄には、金槌によって殴打されるという文面が見え、携帯を投げ捨てた。
次の瞬間、敬子が久栄に飛びかかってきた。
久栄は背後にも気配を感じるが、振り下ろされた金槌を見て気を失ってしまった。
翌朝、久栄が目を覚ますと、視界に入った敬子にあの場で何が起こったのか質問した。
背後にいたのは、病院にいた彼であり、敬子から金槌を奪い取ると、久栄の投げ捨てた携帯電話を彼が金槌で叩き壊したという。
その直後に彼も倒れ、同じ病院に運ばれた。
ここからは科学では説明のつかない話だが、半死半生の彼は身体だけ病院にあり、意識は別の場所にあった。
それが噂の幽霊アドレスであり、取り憑いた携帯電話だった。
早くこの状態から抜け出したい彼の意識は、メールを通して携帯の持ち主に自分の居場所を提示していた。
しかし、誰もが怯えるばかりで携帯電話の破壊に至らない。
久栄が携帯電話を持って病室を訪れた時、彼の身体に僅かに残った意識が、ようやく自分の意識が内在する携帯電話を見つけたと反応し、最後の気力と体力で自らの意識を破壊しに来たのだろう。
結局、彼の意識は肉体に戻ることはなく、携帯電話と共に破壊されたようで、彼の遺体は身内に引き渡された。
彼の名前は
彼も意識を永遠に留める実験に生涯を懸けて臨んでしまった一人だった。
アドレスの主 完
主(ぬし) シバカズ @shibakazu63
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