第2話 ゴーストの主

 ゴースト(幽霊)とは、死者が成仏できず、この世に現れる霊魂や怨念の姿である。

 では、逆に生者が成仏し、あの世に行くことは可能だろうか。

 これに近い思想に生霊いきりょうという言葉がある。生きている人が無意識に思念を形成し、生み出される魂や怨念。

 本来は特定の恨みや妬みを抱いた者の前に現れるらしいが、それが無差別に、『無人街ムジンガイ』というゲームをしているプレイヤーの前にだけ現れるらしい。

 中学生の桐生乗馬キリュウジョウマ柳生良名ヤギュウヨシナは、噂の真偽を確かめるべく、夜中の校舎に侵入していた。

 どういう理由か知らないが、ゲームは学内のコンピュータからしか参加できず、時間も深夜0時から明け方までの数時間と決まっているらしい。

 2人はコンピュータを立ち上げ、その時を待った。

 日付が変わった瞬間、デスクトップが真っ暗になったと思ったら、2人は画面の消えたコンピュータの前に座っていた。

 再起動を試みても再び電源が点くことはなかった。

 諦めた2人は、それぞれの自宅に引き返すことにしたが、街の様子がおかしいことに気付いた。灯りが全て消えている。

 それだけではない、繁華街だというのに人っ子ひとりいない。

 乗馬と良名だけが存在するゴーストタウン。ゲーム名が『無人街』だったことを思い出した。

 ゲームのエンディングに辿り着くには、この街でプレイヤー以外の人を探し出すことだった。それが例え姿なきゴーストでも……。

 姿なき者といえば、この街で去年、行方不明になった少女がいた。未だ家には帰って来ず、遺体も見つかっていないという。

 乗馬は腕時計を確認すると午前0時41分だ。

 明け方5時くらいがタイムリミットと仮定し、捜索しなければいけない。

 乗馬と良名は去年行方不明になった少女を見つけ出すことに懸けて、小学校へと向かった。

 しかし、少女が下校途中のどこで消息を絶ったのか不明である。

 街中を駆けずり回っているうちに空が白んできた。

 それが視界を覆うほど広がり、気付くと2人は起動画面の点灯したコンピュータの前に座っていた。場所は中学のコンピュータルーム。

 彼らはゲームオーバーを迎えたことを実感した。

 議論した挙句、翌週土曜日に乗馬と良名は再度、『無人街』での少女探しに挑戦した。

 今度は小学校内部で、少女に繋がる手掛かりを探索した。

 ——少女の名前は、毛利永久子モウリトワコで、行方不明当時は乗馬と良名より1学年下の小学5年生。

 それから何度か現実と仮想の街を行き来している内に、乗馬と良名の判断力は鈍っていった。

 少女捜索から2ヶ月近く経過した頃、良名は捜索当初と比べて変化しているものがあることに気付いていた。

 タイムリミットが30分以上早まっていることだった。これを良名は全て記録していた。

 現在は4時30分でタイムオーバーを迎える。これが何を意味しているのかは見当はついている。

 日の出と共に『無人街』は消滅するようだ。

 しかし、なぜ0時から日の出までが制限時間なのかは、2人にも分からなかった。

 そして、この『無人街』への出入りも回数制限なり設けられているのかもしれない。

 その時を乗馬と良名は直に体験する。

 6月9日、午前4時27分に日の出を迎えた。

 約2ヶ月のプレイで遂に2人は毛利永久子の発見に至らなかった。

 また現実世界へ逆戻り、と考えていた2人の考えは甘かった。

 早朝の路上で、男子中学生2名の遺体が発見された。言わずもがな桐生乗馬と柳生良名である。

 大学の研究室のコンピュータの前で、1人の学生は溜め息を吐いた。

 なんてことだ……。また2人分の意識が送られてきた。いや、取り込んだのか。

 学生は『永久』と名付けたファイルに新たな記憶データが上書きされるのを覗き込んだ。

 なんてことだ……、と学生は再び口にした。

 近づいている。遺体のある場所に、と学生はおののいた。

 それは去年のことだった。不老不死の実験が佳境に入った彼は、意識の一部を移せるサンプルを探していた。

 自我が強く保てる人間を欲した彼は、故意に迷惑行為をして、怒りを全面に出す子供を選んだ。

 それが悲運にも小学5年生の毛利永久子だったのだが、彼女は自尊心が強過ぎた。

 眠らせた永久子の脳とコンピュータを接続し、意識のインストールに移ったが、彼女の意識は脳内に固執していた。

 深夜0時から実験を行うこと4時間27分、既に空は白んできていた。

 そして、学生の前には意識を完全に無くした毛利永久子の遺体が横たわっていた。

 彼は永久子の遺体を学内に埋めた。

 しかし、永久子の意識は、この幼稚部から大学部まである一貫校全てのコンピュータにインストールされた。

 さらに永久子の意識は自分の肉体を求め、あるソフトを立ち上げた。

 『無人街』という名で広まったそれは、実際に少女が住んでいた街を具現化している。

 そこで永久子はログインしたプレイヤーを取り込み、自分の遺体探しを手伝わせていた。

 今回取り込んだ2人は少女に近しい人間らしく、下校途中を中心に探索している。

 これを現実世界の学内敷地に向けられたら、いずれ少女の遺体は発見される。

 学生は昨年オカルト研究会を脱会していたが、不死の研究は続けていた。

 彼は次が最後の実験かもしれないと呟くとコンピュータの電源を落としたが、タイムリミットの無くなった無人街で乗馬と良名を含む、何人かの子供たちは今も永久子の肉体を探している。

             

             ゴーストの主 完


第3話 アドレスの主へ続く……

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