第五章 三大弁天と白蛇信仰

■日本三大弁財天


 日本における弁財天信仰の中心地として、「日本三大弁財天」が挙げられる。

 竹生島(滋賀県・琵琶湖)——琵琶湖に浮かぶ島で、宝厳寺と都久夫須麻神社が鎮座する。宝厳寺の本尊は弁才天で、宇賀弁財天信仰の発祥地とされる。

 江の島(神奈川県・相模湾)——先述の江島神社が鎮座する。裸形の八臂弁才天像が安置され、鎌倉時代以来の信仰の中心である。

 厳島(広島県・瀬戸内海)——厳島神社と大願寺が鎮座する。世界遺産としても知られ、海上の大鳥居は日本を代表する景観である。

 この三社に共通するのは、いずれも水辺——湖または海——に浮かぶ島だということである。弁財天(サラスヴァティー)の原型が河川の女神であったことを考えれば、水辺に祀られるのは自然なことだ。

 また、島という立地は「此岸と彼岸の境界」「聖なる空間」を意味する。海から来る神、異界から福をもたらす神——弁財天は、そうした境界的存在として島に祀られたのだろう。



■白蛇信仰


 弁財天信仰と密接に結びついているのが、白蛇信仰である。

 白蛇は、弁財天の使い(神使・眷属)とされる。蛇が弁財天と結びついたのは宇賀神との習合によるが、なかでも白い蛇は特別な存在として崇められた。

 白は、清浄・神聖を象徴する色である。白蛇は、通常の蛇よりもさらに霊験あらたかな存在とされた。白蛇を見ると幸運が訪れる、白蛇の脱皮した皮を財布に入れておくとお金が貯まる——こうした俗信が広く信じられている。

 山口県岩国市は、天然記念物の「岩国のシロヘビ」で知られる。この白蛇は、錦帯橋周辺に生息するアオダイショウの白化個体で、江戸時代から神聖視されてきた。岩国の白蛇神社では、弁財天(厳島神社から勧請)が祀られている。

 東京品川区の蛇窪神社(上神明天祖神社)も、白蛇と弁財天を祀る神社として知られる。巳の日(十二支で蛇に当たる日)には、岩国の白蛇の脱皮した皮を入れたお札が授与され、多くの参拝者で賑わう。

 このように、弁財天信仰は白蛇信仰と融合し、現在まで続いている。



■銭洗弁財天——財福信仰の極致


 弁財天の財福神としての性格が最も端的に表れているのが、鎌倉の銭洗弁財天宇賀福神社である。

 源頼朝が夢告を受けて創建したと伝えられるこの神社は、境内の洞窟に湧く霊水でお金を洗うと何倍にもなって返ってくるという信仰で知られる。

 洞窟の中の泉で硬貨や紙幣を洗う参拝者の姿は、弁財天信仰の現在形を示している。もはや音楽・芸術の神でも、戦闘神でもない。純粋に「お金を増やしてくれる神」として、弁財天は信仰されているのだ。

 「弁才天」から「弁財天」への表記の変化、ラクシュミーとの混同、宇賀神との習合——長い歴史の中で重ねられた変容の帰結が、銭洗弁財天である。


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