殺人ステップ その2.5 機動隊虐殺録(三人称)

「はっは、許してくれませんかね。機動隊の皆々様方?」

「許すわけないだろう! この殺人鬼風情が!」


機動隊に囲まれながらも、少女は快活に笑いながらペン回し…ならぬナイフ回しをしている。

たくさんの人間を殺し、全国的に指名手配されている彼女は、いまや機動隊すら出動するほどの大物殺人鬼だ。彼女を追った警察は全員切り刻まれた遺体だけが見つかり、物見遊山で彼女に迫った人間は、原型が無くなるほどぐちゃぐちゃのミンチにされていたらしい。

そんな狂気のみを凝縮した殺人鬼は、今絶体絶命の状況であった。


「ねえってば。機動隊さあん。僕なんかに構ってる暇があったらさ、新しい地形とかの探索に行けよ。そっちの方が大事なんじゃないの?」

「喋るな!」

「ええ…話通じないじゃん…」


少女の言葉を、機動隊の隊長がバッサリと切り捨てる。

そりゃあ、殺人鬼の言うことなんかに耳を傾けて貰えるわけがない。

少女は顔をぶすっとした表情に変え、ナイフを腰に取り付けられているホルスターにしまいこんだ。


「最後に聞くぞ。殺人鬼。今すぐ投降しろ。そうすれば、楽に殺してやる」

「何だよそれ。異世界の魔王気取りかよ」


少女が、はっは、と鼻で笑いながら言うと、隊長はこれ以上ないほど顔を真っ赤にさせた。額にはふつふつと青筋が浮かんでいる。少女は嫌そうな顔で、ぅげっ、と言いながら一歩後ずさった。

と思いきや、少女はいきなり唾液を口の端から垂らし、頬を紅潮させ、この世の者とは思えない様な表情でその顔を彩った。

今話では描写なしだが、前話ではこの時、今隊長の頭にナイフ突き刺したら血がピューピュー出てきそう。なんてことを少女は考えていたりする。

それを見た機動隊は、先程の少女の様に全体的に一歩後退り、人外者を見る様な目で少女を見始めた。まあ元々そんな表情だったからあまり変わってはいないが、先ほどよりもあからさまに怯えている。


「な、なんだあの顔は…ば、バケモノだ…!」

「あいつは…あ、アレは…人間じゃないのか…?!」


少女の耳にその言葉が入ったらしく、少女は額に十字の血管を浮かべ、頬をぴくぴくと痙攣させながら腰のホルスターに手を置いた。

ナイフの柄に手をかけ、目にも止まらぬ速度で抜くと、ほんの僅かに手首をスナップさせ、さながら弾丸の様にナイフを撃ち出した。


突然ではあるが、これは少女の能力の一つだった。

その能力とは、投擲。という能力。

狙った場所に、寸分の余地もなく着弾させることができる。まあざっくり言えば、投げたものが全て思い通りの場所に当たる。というものだ。

これ以降も、少女が能力を開示する機会があればその都度紹介しようと思う。


少女が射出したナイフは、先程彼女の悪口を言った隊員の眉間に、柄の半分くらいまで陥没するくらいには深々と突き刺さる。

男の目が一瞬で色を失い、そのまま膝をついて崩れ落ち、地面にうつ伏せにひれ伏した。


「あーあ。油断してるから。バカだなあ」


少女が相変わらずケラケラと笑いながら言うと、機動隊の人間達の表情が一斉に引き締まり、少女に銃を向けた。

隊長が、あからさまに怒りを滲ませながら言う。


「貴様…! よくも!」


そのセリフに対し、少女は目を点にして、あっけらかんと返した。


「いやだなあ。油断してるところを突くのは当然じゃないですかあ。殺人鬼相手に人道を語らないでくださいよ」


少女がさもありなんとそう言うと、隊長は俯いてプルプルと震え出した…かと思うと、いきなり顔をあげ、真っ赤になった顔で少女を指差しながら言った。


「総員! 撃て撃て撃てええええ!」


少女が、面倒。と言わんばかりに顔を歪ませ。太ももについていたホルスターからナイフをもう一本抜き取った。

眼前に迫る銃弾を見ながらも、少女は毅然として言った。


「面倒だなあ…僕はラブアンドピースで生きたいんだよ…壊す側だけどね」


少女の小さな体躯を銃弾が貫くかと思われたその瞬間、少女を撃ち抜こうとしていた弾丸が少女の足元にポトリと落下した。

見れば、弾丸は真っ二つに切り裂かれている。

少女は、まるで鳥が空を舞う様に。魚が水中を泳ぐ様に。流れる様に空中にナイフを滑らせる。

よくバトル漫画などにありがちな、刀で弾丸をカンカン言わせて、火花を出しながら全て弾く。なんて言う男の子のロマンを詰め込んだ様なものでは微塵もない。

ただただ、銃弾を凄まじい速度で切り捨てて行く。


先程の説明からあまり行数は稼げなかったが、これも少女の能力である。

投擲と同じ様に単純明快な能力で名前を、見切り、と言う。

その名の通りだ。他に説明すべきことなんて、恐らくないだろう。


その行為は、どれくらい続いただろうか。

機動隊の銃から、カチッ、カチッ、という空撃ちの音が響く頃には、少女もナイフを下ろしていた。


「なっ…?!」


隊長…いや、機動隊全員が驚愕を隠しきれず、口をかっ開いて放心していると、不意の少女はしゃがみ込んだ。

かと思えば、その場から姿を一瞬で消して、機動隊の間合いに立ち入ると、近くにいた隊員の首を刈き切った。


凄まじいほど行数稼ぎができなかったが、まあいいだろう。

これも能力だ。溜め込み。という。

自身が行おうと考えている行動をするのに必要な予備動作を“溜め”ることで、通常の何倍もの力でその行動を実行できる。というもの。

今回は、“走る”を行動として、“予備動作”としてしゃがみ込むことで“走る”エネルギーを“溜め”、通常の倍もの速度で移動したのだ。


少女に首を刈られた隊員がドサっと倒れるのを皮切りに、少女は隊員に一切の行動を許さず、その命をこの世から摘み取って行く。

近場にいた隊員の腹を一突きした後にしゃがんで、足に仕込まれた小さなホルスターからこれまた小さなナイフを抜いて別の隊員の眉間にクリティカルヒットさせる。

すぐさま立ち上がり、近くに居た隊員に飛びかかり、足を肩に乗せ、隊員の目をナイフで突き潰す。

隊員の目からすぐさまナイフを抜いて、隊員の肩を蹴り付けながら空中で一回転して着地しながら、少女は言う。


「っは、真正面から殺るのは向いてないんだよなあ。ホンット。せめて夜だったらよかったのに」


どの口で言ってんだよこの大馬鹿野郎。…女だから野郎ではないが。

少女は、そうぼやきながらも突然片目を失って地面を転げ回る隊員の頭にナイフを投げて絶命させる。

よく見れば、機動隊が幼女に銃を向け、しっかりと盾を構えながら、ジリジリと少しずつ後退していた。

少女は、倒れた機動隊員の頭からナイフを抜きながら言う。


「ちょうどさっき、今度話そうとか言ってたけど丁度いいや」


ごめん。それ多分前話読んでない人は分からんないセリフだよ。

少女はこの数秒であっと言う間に血に濡れ、いっと言う間に刀身を赤くさせたナイフを下げながら機動隊に声をかけた。


「ねえ。機動隊さん達。なんで僕がここまで桁外れのバケモノなのか、分かったりする?」


ちょうど、画面の前の皆様方も疑問に思っているだろうからね。ここらで自己紹介とでも行こうか。

…うん。この子はこんなこと前話で言ってたけど、今話だけ読んでる人がいたらマジで意味分かんないセリフだよね。あとメタいよね。このセリフ。めちゃくちゃ。

少女は、悪魔でも見るような顔で自分を見ている機動隊にそう聞いた。


「返答なし…分からないってことでいいね」


機動隊からの返事がなかったのをいいことに、少女はニヤニヤしながら言う。


「僕は、この世界と異世界との融合の瞬間ピッタリに生まれた突然変異の人間らしくてね。向こうの世界の人間の能力が8割くらい混ざってるらしいんだ。本当なら差別とかされるんだろうけど、人殺しに使えるんだから本当にいい能力だよ」


少女は、そう言ってから機動隊達を見る。

どうやら戦意喪失したらしく、バナナを奪われた猿の様な目で少女を見ている。

まあ、分からないこともない。

突然5人くらいの仲間が殺されたかと思えば、自分たちでは到底敵わないという現実を見せつけられたのだから。

例えるなら、レベル1の主人公が、突然レベルカンストのラスボスを出会った時の様な…そんな顔をしている。


そんな情けない大人達の姿を、まだ機動隊員達の年齢の半分にも達していないであろう少女が猟奇的な目で見ていた。





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