第4話 北口ロータリー、落とし物係

吉祥寺駅北口ロータリーは、昼になると妙に整って見える。

バスは時刻通りに来て、人はそれなりに並び、

誰もが「ちゃんとしている自分」を装っている。


高峰修二は、交番の少し手前、花壇の縁に腰を下ろしていた。

ポケットには名刺が一枚だけ。

配る予定は、特にない。


「すみません」


声をかけてきたのは、制服姿の女子高生だった。

不安そうに、両手を胸の前で組んでいる。


「探偵さん、ですよね?」


最近、この聞かれ方が増えた気がする。

修二は曖昧にうなずいた。


「落とし物、ですか」


「……人です」


そう言って、彼女は目を伏せた。



いなくなったのは、同じ高校の友人だった。

名前は 三枝 里緒(さえぐさ りお)。

成績も普通、交友関係も狭い。


「昨日の放課後、

 “吉祥寺で話したいことがある”ってメッセージが来て……」


待ち合わせは、北口ロータリー。

だが、里緒は現れなかった。


「既読もつかないし、

 でも、失踪するような子じゃないんです」


修二は、ロータリーを一周見渡した。

落とし物は、人より先に、気配を落とす。



答えは、交番の掲示板にあった。


〈落とし物預かり中

 スマートフォン(学生証入り)〉


修二は警官に声をかけ、学生証の名前を確認する。


「三枝……里緒」


保護されたのは、昨日の夕方。

ロータリーの植え込みの中。


「本人は?」


「すぐ後に来ましたよ。

 泣きながら。

 迎えも呼ばずに帰りました」


修二は、女子高生の方を見た。


「友達は、見つかっています」


「……え?」



二人は、駅から少し離れたカフェで向かい合った。

里緒は、紙ナプキンを指で丸めながら言った。


「話したかったのは……進路のこと」


親にも、先生にも言えなかった。

逃げるつもりも、消えるつもりもなかった。


「ただ……

 ここに来たら、ちゃんと話せる気がして」


でも、勇気が出ず、

スマホを落とし、

怖くなって、帰った。


「それだけです」


修二は、静かに言った。


「十分ですよ」



夕方、北口ロータリー。

バスが一台、出ていく。


女子高生は、ほっとした顔で言った。


「探偵って、もっと大事件を扱う人かと思ってました」


修二は立ち上がり、花壇の土を払った。


「落とし物は、

 見つかるべき人のところに戻ればいい」


彼女は深く頭を下げ、駅へ戻っていった。



修二は一人、ロータリーに残る。

人生の分かれ道は、

たいてい派手な看板のない場所にある。


吉祥寺駅北口。

今日もまた、記録が一つ増えた。

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Detective recordー吉祥寺探偵録ー @nobuasahi7

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