異世界キャンセル界隈──世界を救うとかムリなので現世帰還代行をお願いしたら、やって来たのは隣と後ろの席に座る美少女だった件【短編】

風波野ナオ

第1話:想像以上にヤバいので、異世界キャンセルを実際に頼んでみた件


「異世界転移をキャンセルできるサービスを検索して──今すぐ繋いで!」


 震える声でスマホに叫んだ。


 異世界へ行ってしまった時、現世に返してくれるサービスがあるという都市伝説。

 本当にあるか不明だが、今は、どうでもいい。

 わらどころか糸一本にだってすがらないと、僕は生きて帰れない。


 スマホのAIはどこかに通話を繋げた。

 だが、起動した通話アプリの向こうは無言。


「助けてください。気がついたら異世界にいて──」


 必死に訴えると、電話の向こうから声が聞こえた。


「わかりました~」


 ノリがやけに軽い。


「すぐに到着しますので、それまで自力で生存してくださいね~♡」


 通話が切れた。


 ま、こんな状態からなんとかしてくれというのも無理な話だけど。



 ■ □ ■ □



「ヒャッハー、新鮮な異世界転移者だぁ」

「こいつをギルドに売りつければ、俺ら大金持ちだぜ」


 そう、僕は異世界で世紀末めいた悪党連中に捕まっていた。


 買い物帰りに足をすべらせて用水路に落ち、気がつくと見知らぬ場所。

 助けを求めて歩いていた結果が、これだった。


「そうだな、世界が滅ぶまで遊べる金が入るぞ」


 鎧を付けた悪党のカシラらしき人物が、後ろでニヤつきながら答える。


「大漁だァー! 祝いだァー!」


 一同が歓声を上げる。

 ……売られたらどうなるんだ?


「知りたいか小僧。他の世界から来た奴は特別な能力を持っている。錬金術ギルドでは能力を取り出して、武器や防具に取り付けている。大金になるのさ」


 カシラは、腰の短剣を抜いた。

 その刀身には黒く輝く宝石がはめこまれている。


「これが、そうだ」


 短剣を一振すると、刀身から黒い斬撃が飛んでいく。

 斬撃はゆるやかに大木へ当たると……当たった部分が、スパッと切断された。


 ドスーンと、木は倒れ、付近の鳥があわてて飛び立つ。


「この短剣は、何でも切る能力を使える」


「と、取り出されたらどうなる……」


「知らん。が、取り出された奴は二度と見かけない。噂では……」


 カシラは、僕の腹からまるで腸を引っ張り出すような仕草をした。


「内蔵を引っこ抜いて煮詰めるって話だぜ!」


 引っこ抜いて煮詰める!?


「ぼ、僕には何の能力もないぞ!」


「ああ、そういう奴もたまにいる。だとしても、転生転移者なら王族に高く売れるんだ。救国の勇者という触れ込みでね」


「戦うなんて無理なんだけど」


「どっちでもいい。俺達は金がほしい」


 僕は理解した。

 ここは、救済なんてない。

 祝福なんてない、呪われた場所だ。


「モツ煮になんかなりたくない!」


 悪党が、グッヘッヘといやらしく笑う。


「悪く思うな、小僧。全ては『木の異世界』が悪い。あそこが俺達の世界に繋がって、いくらでも『木』の怪物がやって来るせいで……この世界はいずれ滅ぶ」


 木? 異世界が……他の異世界に繋がる?


「お陰で、俺達は明日をしれない流浪の身だ。かつては貴族だったが、今では人さらいをしないと生きていけない」


 訳ありのようだった。

 だからといって人さらいは良くない。


「なあカシラ、俺が捕まえたんだ。ちょっと楽しんでいいか」


 僕を押さえつけている男が、舌なめずりをして言った。


「……殺すなよ?」


 許しを得た男(モヒカン)は、腰の短刀を抜いた。

 鋭い刃が、首筋に当てられる……


「ヒッヒッヒ、どうするかな。まずは手足をもいでそれから……」


 それから? そう思った瞬間──


 ──バタッ


 モヒカンは僕の横へいきなり倒れ込んだ。


 その頭を、太い矢が貫通していた。

 中身が少し飛び出し、血がドクドクと流れ出ている。




風早かざはや君、なんだかとっても大変なことになっていますわね」




 少し遠くから女の子の声がした。僕の名前を知っている?

 一体、誰だ?



 つづく

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2025年12月31日 19:05
2026年1月1日 19:05
2026年1月2日 19:05

異世界キャンセル界隈──世界を救うとかムリなので現世帰還代行をお願いしたら、やって来たのは隣と後ろの席に座る美少女だった件【短編】 風波野ナオ @nao-kazahano

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