第10話 ダンジョン講座① 幼馴染の弱点を克服せよ



 放課後。

 顔が隠れるヘルメットやコート類の装備品で変装した詩織と一緒に、俺は地元のダンジョンの五階を訪れていた。


「ふぅ、蓮斗のくれた装備のおかげでバレずにこれたね」


 詩織はコートを広げて、くるりと一回転。

 世界中のセレブ達と会食をしても、詩織はいつも通りだった。


 偉そうなそぶりは微塵も無い。

 クラスの連中とは偉い違いだ。


「毎日ガチャで色々出るからな。じゃ、ここで詩織の弱点を克服するぞ」

「じゃ、弱点?」


 表情を硬くして言い淀む。

 および腰の彼女に、俺は探偵のように鋭い顔で指摘した。


「そうだよ詩織君。ずばり、君の弱点は動物系のモンスターを殺せないことだ」

「ぎくっ」


 花瓶を割ったのを僕じゃないと否定する子供のように顔を背ける。

 どうやら図星らしい。

 なんて解りやす可愛い子だろう。


「な、なんでそう思ったの?」

「そりゃ、無機物系は剣で、動物系は魔法で倒していればな」


 生き物を切り殺す感触が、怖かったのだろう。


「まぁ頭がトリガーハッピーになっている俺たち男子たちがおかしいんだよ」


 腰に手を当てて、俺は優しく、自嘲気味に息を吐いた。


「いじめっ子の乳歯をへし折るのはしょっちゅうでも、生き物を殺すのは別格だしな」

「そ、そんなしょっちゅうは折ってないもん。季節ごとぐらいだもん」


 謎の恥じらいを見せて否定してくる。

 顔とセリフが合っていない。


「まず毎クールごとに同級生の乳歯をへし折るのがおかしいんだよ。深夜アニメかよ」


 への字口で腕を組んだ。


「ていうか田中坂くんなんてあれだぞ、お前に乳歯を折られ過ぎて最後はわざと顔で受け止めていたらしいぞ」

「そうなの!?」


 がびーん、と詩織は目を丸く固めた。


「中学に上がる頃にはMに目覚めて、色々と危ない道に進んでいるともっぱらの噂だ。一人の青少年の人生を狂わせた自覚を持て」

「シ、シキシマのせいであの田中坂くんがそんな……」


 シキシマンは青ざめ、黒い十字架を背負うように腰を折った。


「まぁ田中坂にいじめられる奴もいなくなったし、本人も回りも、そして俺も幸せになっているからいいんだけどな。徳を積んだな。来世も人間おめでとう」

「何その罪深い徳の積み方、背徳的過ぎるよ」


 詩織は酷く複雑な顔をした。

 俺はぐっとサムズアップした親指を下ろして、


「まあ冗談に見せかけた実話はこれぐらいにして」

「そこは冗談であってほしかったなぁ……」

「実は男子でも動物、特に人間に近い奴は苦手って奴はいるんだよ。ゴブリンとか、オーガとか」

「そういう人はどうしているの?」


 ちょっと前のめりに聞いてくる。

 彼女なりに、弱点の克服には積極的らしい。


「そりゃ当然、人間から遠い奴から順に慣らしていくんだよ。言っておくけど、そもそもモンスターを殺すことは悪いことじゃない。向こうは俺らを全力で殺しにかかってきているんだし、そんなこと言い出したら家畜や害獣駆除だって悪になる。詩織は唐揚げやトンカツ、食べないのか?」


「それは……」


 黒曜石のような瞳が、気まずそうに伏せる。


「もちろん気持ちはわかるぞ。可哀そうだよな。でもダンジョン時代の現代商品はそのほとんどがダンジョンの素材を使用している。現代文明の利器の恩恵を預かっておきながら、モンスターが可哀そうなんて矛盾していると思わないか?」


「う、うん……」


 不承不承、詩織は首を数ミリだけ、上下させた。


「それにな、俺の人生の師匠が言っていたんだ」


『でもおじさん、そんなに可愛がってもその牛、食べちゃうんですよね?』

『経済動物ですから』キリッ


「それ修学旅行先の酪農家のおじさんだよね!?」


「あの人の言葉は素晴らしい。俺は一日も早くあの人の境地に辿り着きたい一心で、愛情を敬意を以って毎日ダンジョンでモンスターを狩ることにしたんだ。おかげで、今ではドッペルゲンガーが父さんの姿に化けても脊髄反射で脳天を撃ち抜けるようになったんだ!」ぐっ


「ガッツポーズ!? おじさんが可哀そうだよ!」

「父さんはドッペルゲンガーが母さんに化けても殺しているぞ!」


「蓮斗の家庭は大丈夫なの!?」

「家に帰ってから本物の母さんにシバかれているからバランスは取れているぞ」


「蓮斗の家庭は本当に大丈夫なの!?」

「超人化しても対妻戦闘力5のゴミ。それが俺の愛すべき父さんなのさ」

「シキシマは今日、鳴神家の闇を見たよ……」


 青ざめた顔に深い影を落としながら、詩織はげんなりと肩を落とした。


「というわけで本題だけど、虫、平気だよな? ゴキブリスレイヤーのシキシマン・ゴキブリスレイヤースタイル?」


「また懐かしい話を……うん、平気だよ。今でもわたしがゴキブリ駆除係だし、小学校の自由研究は昆虫採集だったし……あ、もしかして」


 詩織はぽんと手を合わせた。


「そうだ。この五階層は虫型のモンスターが多く出るんだ。ここで虫退治に慣れたら今度は魚類型モンスターが多く出る階層、両生類型、爬虫類型、鳥類型、哺乳類型って人に近づけていくからな。大丈夫そうか?」

「うん、それなら。でもわたし、まだ3レベルなんだけどここの敵と戦えるかな?」


「魔法戦士ジョブならイケるだろ? 虫は基本炎に弱いから、剣に炎をまとわせると有利に戦えるぞ。あと、他のモンスターは俺が代わりに戦うから」

「ありがとう。蓮斗、頼りになるね♪」


 詩織はにっこりと微笑んだ。

 それだけでお釣りがくる報酬だ。


「あ、ゴブリン……」


 彼女の視線を追うと、一階層よりもちょっといい武器を持ったゴブリンたちが通路の奥を通り過ぎようとしていた。

 向こうもこちらに気付くと、小走りにかけてくる。


「剣で切るのは抵抗あるけど……っ、魔法で戦う練習くらいは……」

「いや」


 意気込む詩織の機先を制するように腕を横に伸ばしてから、俺は前に進み出た。

 そして、ストレージから取り出したソレを手に大きく振りかぶり、


「飴を喰らえ!」


 全力で投げつけた。

 レーザービームのように鋭い軌跡を描いて硬い飴玉がゴブリンの口を直撃。

 咳き込みながら、ゴブリンたちは口内の異物感に首を傾げた。


「それを喰ったらとっとと失せろ!」

「「「■■■■■■■■■■」」」


 濁点の二乗みたいな濁った悲鳴を上げながら、ゴブリンたちは逃げて行った。


「わ、すごい」

「普通モンスターは人間に殺意マックスだけどな。レベル差がありすぎると威嚇で追い返すこともできるぞ」

「へぇ、でもなんで飴を投げたの?」


 こくん、とお人形さんのように首を傾げる詩織。

 俺はちょっと悲しい顔をした。


「まっ、身内の不始末をな……」


 詩織はますます疑問符を背景に浮かべた。



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男しか冒険者になれない世界で、俺だけが女子にジョブを与えられる件 鏡銀鉢 @kagamiginpachi

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