第9話 世界的スターになった幼馴染と、放課後ダンジョンに行くことになった件


「やっぱ悪いことしたかなぁ~」


 昔の詩織ならいざしらず、思春期乙女の詩織は奥ゆかしい控えめ女子だ。

 教室での消耗ぶりを考えても、注目を浴びるのが得意とは思えない。

 それに、だ。


「……凄い人気だな」


 芸能界だけでなく、人気の冒険者ランキングでは、既にベスト14位。国内に13人しかいないAランク冒険者に次ぐ人気である。


 ――俺、もう会わないほうがいいかもなぁ。


 俺らの意思とは関係なく、男の俺が傍にいれば悪い噂が流れる。

 俺のせいで詩織が傷つくことだけは、耐えられなかった。


   ◆


 それから一週間。

 詩織は学校に来なかった。


 LINEによると、冒険者業界、財界、はては政界のお偉いさんたちとの食事会や会合、さらに海外のVIPからも会いたいというラブコールが山のように来ているらしい。


 どうやって断ったらいいかという相談だったけど、俺は行くことを提案した。

 もしも向こうがSNSで『ミス詩織に会いたかったけど断られたよ』などと言おうものなら、ファンからのヘイトの餌食になってしまう。


 詩織には辛いだろうけど、それが最善だと思う。

 俺のせいでごめんとたくさん謝らせてもらった。

 ちなみに教室はと言うと……。


「ねぇ、敷島さん昨日もテレビに出ていたよね?」

「昨日は世界的ロックスター、その前は大統領、なんかもうVIPだよね」

「世界に影響力のある100人の人間に選ばれるって聞いたわよ」


 あくまで噂である。


「あぁ、あたしもジョブに目覚めたらスターかなぁ?」

「目覚めるなら早くしないとね。レアリティがないわ」

「敷島詩織のダンジョンTV、毎日見返しているわ。同じ女子がダンジョンでモンスターを倒しているのがもう痛快!」


 勢いづく女子たちに、また、男子達はなんとなく居心地が悪そうだ。

 その様子にもまた、女子たちは機嫌を良くする。


「はん、敷島は例外だろ」


 誰かがそう呟くと、耳年増な女子が鼻で笑った。


「情弱ね。女子はモンスターを倒してから数年後にジョブに目覚めるのよ。世界中の有名ダンジョン考察主が共通の見解を示しているの知らないの?」


 ジョブカードです。


「女子はステータスの更新が遅いだけ。かくいうあたしも敷島さんと同じで中学時代にゴブリン80匹以上倒しているし、そろそろ覚醒するんじゃないかしら?」


 ジョブカードです。あとゴブリンへの殺意が凄いな。


「私もゴブリン100匹倒したし昨日さらに20匹倒したわよ♪」


 お前らゴブリンに何の恨みあるんだよ。今度会ったら俺は見逃してやるよ! なんなら飴ちゃんあげるわ!


 ――でも困ったな。


 右手でペン回しをしながら、椅子をぎしぎし言わせる。

 このまま、嘘の情報が広がり続けるのはよくない気がする。


 ネットでは、女子でもジョブに覚醒するマル秘テクというインチキ商材の広告を見ない日はない。


 悪人に限って仕事が早い。その労働意欲をもちっと別のところに向けられないもんかね。


 謝罪は早いほどいいように、嘘もバレるのは早いほうがいい。


 けれど、真実が明るみなった時の処遇を考えると背筋が震えた。

 詩織には悪いけど、もうちょっとだけ頑張ってもらおうかな。


 我が身可愛さに幼馴染を人身御供に送るとは、警察のお世話になっても弁護の余地がない軽犯罪性しか感じない。


 今のうちから閻魔様への賄賂を考えておこう。

 という冗談はさておき、これは本格的に詩織とは会わないほうがいいかもしれない。


 保身のためじゃない。

 いまは向こうは世界をまたにかけるスーパーアイドル。


 俺とは住む世界が違う。

 詩織は優しいけど、俺より素敵な友人ならこの先いくらでもできるだろうさ。

 ちょっと以上に寂しいけど、男女の友情なんて所詮は思春期が賞味期限。

 むしろ今までよく持ったほうだ。


 さよなら詩織、達者で暮らせよ。

 俺はこの教室という草葉の陰からお前の活躍を見守っているよ。


 内ポケットのスマホが震えたのは、俺が窓の外、青い空に詩織の笑顔を浮かべた時だった。


 ――おや、噂をすれば詩織からLINEが……。



【お願い蓮斗。今日の放課後、一緒にダンジョンに潜って! なんか勝手に一流冒険者扱いされちゃって。ダンジョンのコーチしてほしいの。こんなこと蓮斗にしか頼めないし助けて!】



 ほほーぉ。

 上履きの中で、指をぐーぱーぐーぱー。

 新作ゲームの発売日なんて目じゃないくらい胸がウキウキしてくる。


 ――いやぁ、しょうがないですなぁ詩織ちゃんは。


 まぁ本人が頼むって言うなら仕方ないよな。

 ここは鳴神蓮斗のダンジョン講座初級編、始めるとしますか。


 今日一日、授業は右から左、頭の中は詩織へのコーチングカリキュラムでいっぱいだった。


 おかげで一時限目から四時限目までの先生からは叱られ、五時限目の先生からは心配され、六時限目の先生からは早退を薦められた。


 何か俺のよくない噂が立っている気がした。



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