第8話 ヒーローは見世物になる
――それにしても、やっぱり軽率だったかなぁ。
詩織の苦労が自分のせいだと思うと、なんだか申し訳ない。
なんで俺って奴はこう、いつも選択をミスるのだろうか。
先生が来る前にスマホを操作して、詩織にごめんねスタンプを連投しておいた。
◆
その日の夜。
テレビでは緊急特番として、詩織の密着ダンジョンリポートが放送されていた。
カメラの前で、軍隊のような戦闘用ジャケット姿の詩織は緊張した面持ちで、赤い顔に汗をいっぱいかいていた。
『では本日は今をときめく世界唯一の女性冒険者! 敷島詩織さんに、その実力を披露してもらおうと思います!』
『が、がんばりまひゅ……ぁぅ』
――いきなりデジタルタトゥーを刻みやがった。
明日、今のシーンがおもしろMAD動画の素材にされていることだろう。
フォローの言葉をチャットAI100個考えてもらわねば。
あと録画した映像で今の部分だけリピート再生して楽しもう。
個人的使用にとどめるなら許されるよな?
「でもだいじょうぶか? 詩織はレベル1だぞ?」
前回、三バカに勝ったのは向こうが油断していたから、そして、女子相手だと思ってレベルを下げていたからだろう。
『なお、安全を考慮してプロ冒険者の方にもついてきてもらっております』
詩織の背後で、大人の男性冒険者たちが笑顔で武器を掲げた。
流石は令和。
コンプラ配慮に余念がない。
俺はソファの背もたれに体重を預けながら麦茶を飲んだ。
『ではまず、一階層の敵から倒し、何階層まで潜れるのかチャレンジしてもらいましょう。目指すは二階層への上り階段です!』
『ここでダンジョン用語解説。ダンジョンは地上数十階の巨大構造物で上の階層ほど強いモンスターが出てきます。ですがダンジョンでは危険度が増すことから上層のほうを深い、深部、潜るなどと表現します』
初心者向けの用語解説を忘れない親切設計の番組は順調に進んだ。
いざとなったら助けがあるとわかっているからだろう。
思いのほか、詩織の戦闘は順調に進んだ。
スケルトンを剣で払い、ゴブリンをファイアボールで焼き、動く土人形のソイルゴーレムを蹴り砕く。
問題なく二階層への階段を上る。
二階層ではトレント相手に流麗な剣筋で枝葉を落とし、トドメの一閃で縦に断ち割ってみせた。
レベル1なのに凄い威力だ。
詩織自身が生まれ持った運動神経もあるんだろうけど、どうやら魔法戦士はかなり強力なジョブらしい。
――ネットの評価でも上級職扱いだしなぁ……。
後悔はしていないけど、ちょっと羨ましい。
続けて、ブラックハウンドという黒い狼相手に、詩織は水流魔法でまずは相手を怯ませた。
それから氷結魔法で氷漬けにして、その横を素通りする。
「うん?」
ソイルゴーレム、トレント、スライム、スケルトンを剣と格闘で蹴散らし、ゴブリンやブラックハウンド、ホーンラビットなどは魔法で倒していく。
そのスタイルに、俺は一抹の疑念を感じた。
「もしかして詩織の奴……」
詩織の硬い表情、強く剣を握りしめる手を凝視する。
最後に、二階層のボス部屋の前で、詩織たちは立ち止まった。
『ここでダンジョン豆知識! ダンジョンはボスを倒さなくても登り階段を見つければ上層へ行けます! た、だ、し、ボスを倒して階層を攻略すると、転移陣で攻略済みの階層へ一瞬で移動できます。毎回一階から順に登らなくていいというわけですね!』
『あ、あの、いくらなんでもボスは無理だと思うんですけど……』
うつむきがちな詩織に、司会の男性は軽薄な笑顔で手を振った。
『大丈夫大丈夫♪ 危なくなったらプロの方々助けてくれるから。もちろん倒しちゃってもいいよ?』
『は、はぁ……』
恐々承諾する詩織をなかば置き去りにして、勝手にボス部屋の門が左右に開かれた。
重低音の摩擦音と共に、ボス部屋の全容がカメラの前でつまびらかになる。
俺も行ったことのあるそこは、レンガ造りの小さな闘技場だった。
広さは学校の多目的室程度。
二階部分の客席は、1000人も入ればいっぱいになるだろう。
ボスはコボルド。
軽装鎧とショートソード、それにラウンドシールドで武装した狼獣人だ。
――ダンジョンボスのレベルは階層プラス10。二階層のボスならレベルは12。詩織が勝てる相手じゃないな。
ちなみに、雑魚モンスターのレベルは階層の前後2レベルなので、10階から14階にはこのコボルドがそこら中をうろうろしている。
『え、ええい!』
詩織は気合を込めて、剣で切りかかった。
剣術一辺倒のコボルドと違って、魔法を併用する詩織は最初、互角に戦っているように見える。
けれど、実際には防御戦に集中することで、どうにか倒されないようにしているだけだ。
通常、レベル差が10も開けば一部の例外を除いて勝ち目はない。
それに、詩織にはコボルドに勝てない致命的な理由があった。
『■■■■■!』
鋭利な牙を剥き出しにして、コボルドが人外の咆哮を轟かせた。
『わひゃっ!?』
詩織が悲鳴を漏らして硬直した。
刹那、画面の外から弓矢が飛来して、コボルドの首筋を貫いた。
カメラが向けられた先で、プロ冒険者の男性が視聴者に向けてウィンクを飛ばした。
司会者の男性が猫なで声で詩織にすりよる。
『はいここでドクターストップ~。残念だったね詩織ちゃん』
離れろ。
セクハラで通報するぞ。
詩織が怖がっているじゃないか。
『あ、いや、ありがとうございます』
馴れ馴れしく近づいてくる司会者に腰を引きながら、詩織はひたすら恐縮していた。
詩織に触ったら許さないぞ。
と、俺はストレージの中にある呪いのカードを意識した。
それはそれとして、スマホを開くと、早くもネット上は大盛り上がりだった。
半信半疑だった連中へのざまぁコメント。
女子でも冒険者になれるというバンザイコメント。
そしてもちろん、詩織への賞賛コメント。
抜群の容姿もあり、もはやファンクラブまで出来そうな勢いだ。
非公式の芸能界総合人気ランキングサイトでは、すでに人気アイドルたちに並んでランキング100位以内にランクインしている。
おいおい、詩織は芸能人じゃないぞ。いや、どうなんだ?
政治家やスポーツ選手、作家など、芸能人ではなくても一般人ではない人もいる。
冒険者業界はまだ7年目だけど、トップ冒険者はテレビに出ることが日常だし活躍はニュースにもなる。
なら妥当なのか?
腕を組んで、体をひねってしまう。
「やっぱ悪いことしたかなぁ~」
昔の詩織ならいざしらず、思春期乙女の詩織は奥ゆかしい控えめ女子だ。
教室での消耗ぶりを考えても、注目を浴びるのが得意とは思えない。
それに、だ。
「……凄い人気だな」
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