第7話 史上初の女性冒険者

 助けた女性たちが投稿した動画のせいで、詩織のことは瞬く間に世界中に広がった。


 史上初の女性冒険者誕生!?

 の見出しに、世界が騒然。


 ネットは侃侃諤諤の大論争。

 手前勝手な論調や考察を披露した動画やコラム、ニュースがネットの世界を飛び回り、収拾がつかなくなっているようだった。


 なりすましのSNSの数は300から先は数えていない。

 詩織を守るためにいくつかの記事や動画に目を通すがすぐにやめた。


 やれディープフェイクだAIによる生成動画だ、さらには詩織の正体が女装男子なのではないかとまで書きたて、腹が立つだけだった。


 詩織の豊胸手術疑惑の記事を書いた奴は見つけ次第、雌オークの巣にぶち込むとして、問題は各種メディアだろう。


「どどど、どうしよう!」


 と慌てふためく詩織に、俺は大手全国テレビ限定で出演するようアドバイスした。

 隠すと根も葉もない噂が流れるかもしれない。


 各テレビ局に平等に顔を出せば、どこか一か所が捏造報道をすることも防げるという、シンプルな考えだ。


 おかげで詩織は連日各テレビ局に引っ張りだこだった。

 もちろん、学校でも……。


「みんな! 敷島さんが来たわよ!」


 女子の一人が声高に叫ぶと、みんな教室のドアに集まった。

 ドアの前にうんざり顔の詩織が姿を現すと、すでに雲霞の如く女子たちを引き連れていた。まるで大名行列である。


「はいはい外野はここまでだよー!」

「ここから先は同じ一年二組限定でーす!」

「なによそれズルイ!」

「敷島さんを独占しないでよ!」

「あたしたちはクラスメイトだからいいのよ!」

「悔しかったら二組に転入するのね!」


 ドア枠を境界線に、クラスの女子たちと他のクラスの女子たちが言い合う中。当の詩織はふらふらと自分の席へ辿り着いた。


 ニュースでは、詩織の家もメディアに包囲されていた。

 ここまで来るのに、どれほどの質問攻めにあったのだろう。


 けれど、彼女の安住の地は存在しない。

 ここからは、セカンドステージの到来である。


「いやぁ、大変だったね敷島さん!」

「ほんと、有名になると知らない親戚と友達が増えるよね!」

「ああいう図々しい人たちって嫌だよね!」


 と、顔と名前の一致しない女子たちがほざいていた。

 いつも詩織と一緒にいる女子三人は、今もドア枠越しに他クラスの女子相手にラップバトルばりの舌戦を繰り広げている。


 というか、本当に韻を踏み始めた。しかもちょっとうまい。

 廊下側で謎のフリースタイルバトルが行われている間に、無関係の他人が詩織に群がる。


「ねぇねぇどうやってジョブゲットしたの!? どこのダンジョン!?」

「あたしたちにも教えてよ!」


 テレビスタジオを含めて100万回以上されているであろう質問に、詩織は半分ノイローゼ顔だ。


 こころなしか、呼吸も弱々しい。


「いやぁ、だからぁ……そのぉ……本当にわたしは何もしていなくてぇ、なんか急に使えるようになって、ね」


「そんなのテレビで見たよ! で、本当のところは?」

「企業秘密なのはわかるけどさ、私たちにくらい教えてくれてもいいじゃない?」

「同じクラスの仲間でしょ?」


 学校側が決めたくくりで仲間なら神の采配で同じ地球に生まれた人類は皆兄弟である。


 そして本物の仲間はスマホで熱いビートを刻みながらリリックを転がしていた。


「いや、だから本当にわたしもわからないんだってばぁ~。ダンジョンなら中学の時に何度も行ってスライムとかスケルトン倒したけど全然だめだったし……」


 げんなりと机に突っ伏す詩織とは対照的に、ギャラリーは盛り上がる。


「それって何月何時何分どこのダンジョン!?」

「スライムとスケルトンを倒した数と順番は!?」

「きっとそこに女子でもジョブを手に入れるカギがあるのだわ!」


 謎の深読みご苦労。

 だが真実はたった一つのシンプルな答えだ。


 俺のガチャである。

 ちなみの今日のログボガチャは【★1しっとりもちもち食パン】だ。


「そんなこと言って、独り占めする気じゃないでしょうね?」

「秘密にしていれば世界で唯一の女子冒険者だもんね」

「アイドルのショウヤ君と共演した気分はどうよ?」


 揺さぶり方を変えて来られて、詩織は本格的にまいってしまう。

 ちなみに、ジョブカードのことは混乱を避けるためにも秘密にする約束だ。


 けれど、そのせいで詩織をスケープゴートにしたようで心苦しい。

 本当なら、この責め苦は俺が受けるべきものだ。


「独り占めなんて考えてないよ~、それにわたし、アイドルとか興味ないし~」

「じゃあ教えてよ。どうやってジョブを手にしたのか?」

「あたしら同中でしょ?」

「四年の付き合いがあって隠し事は水臭いわよ?」


 小学生時代から付き合いがある親友三人は、汗を拭いながら他クラスの女子たちと熱い握手を交わしている。友情が芽生えたらしい。


 お前らも少しは見習え。


「でも敷島がジョブに目覚めてくれてほんと嬉しいわ。だってこれで男子じゃないと冒険者になれないって話は崩れたわけでしょ?」


 一人の女子が肩越しに、男子たちへ棘のある流し目を送る。


「今まで散々偉そうにしていたけど、これからはそうはいかないんじゃない?」


 男子たちは気まずそうに黙り込む。

一部の男子が悔しそうに顔をしかめる。


「けっ、偉そうに。まだ敷島一人だろ?」

「敷島が冒険者になったら自分も冒険者気取りか?」

「そういうことは冒険者になってから言えよな」


 振り返えり、その女子は男子たちと一触即発の雰囲気で睨み合った。


「言葉には気を付けたほうがいいわよ! これで世界中の女子も冒険者になったら今まで調子こいていた分たっぷり返してもらうんだから!」

「んだと!?」


 二人を中心に、他の男子と女子たちも険悪なムードで向かい合う。

 男子と女子で、教室は真っ二つだった。


 ――いや、俺のジョブカードだから、他の女子が覚醒することはないんだよなぁ……。


 詩織を助けたかっただけなのに、何故こんなことに。

 言い知れぬ罪悪感に、息が苦しくて仕方ない。


 この場からこっそりと消えて世捨て人となる道を真剣に考え始めたところで、予鈴に救われた。


 予鈴が故障していたなら、危うくスマホでインド行きの航空チケットをポチる所だった。


 ――それにしても、やっぱり軽率だったかなぁ。


 詩織の苦労が自分のせいだと思うと、なんだか申し訳ない。

 なんで俺って奴はこう、いつも選択をミスるのだろうか。

 先生が来る前にスマホを操作して、詩織にごめんねスタンプを連投しておいた。



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