第6話 なりたいかどうかだ


 ――お前はいつまで経っても、正義の味方シキシマンだよ。


 自然と持ち上がるまぶたと一緒に、俺は覚悟を決めた。


「あれもやだ、これもやだ。女がわがまま言ってんじゃねぇよ!」


 男子達はサイドポーチ型の異次元収納ボックスから剣や槍、弓矢を取り出した。


「こんなのはどうだ?」


 うしろの男子が、引いた弓から手を離した。

 放たれた弓矢は旋風をまとい、周囲に台風のような強風を巻き起こした。


「きゃあっ!」


 矢は詩織の真横をかすめた。

 ワンサイドアップの房が真上に暴れて、見えない車にでも跳ね飛ばされたような勢いで俺のほうに吹き飛ばされた。


 すぐさま筋力と敏捷性を最大レベルまで上げて、俺は詩織を抱き留めた。


「うぅ、れん、とぉ……」


 腕の中で、詩織は必死に涙をこらえていた。

 細い、そして軽い、こんな小さな体で、男子たちに立ち向かう勇気と優しさに、俺は最大限の尊敬を禁じ得なかった。

 戦闘職ライフも、巨万の富も、彼女の志に比べればゴミ同然だ。


「おい、男がいるぞ」

「あいつ朝のクラスの鳴神じゃねぇか。やっぱ男連れかよ」


 男子たちを無視して、俺は真摯な眼差しで詩織に語りかけた。


「詩織、お前、冒険者になりたいか?」

「え? 何を言っているの蓮斗……女の子は冒険者になれないんだよ? それに今はそんなこと言っている場合じゃないよ」

「なれるかどうかじゃない。なりたいかどうかを聞いているんだ」


 念を押すように声に力を込めた。

 すると、詩織はぐっと握り拳を作った。


「なりたい……なりたいよ冒険者に……」


 初めて口にした本音を呼び水に、彼女の口は止まらなかった。


「ダンジョンが出来て、男の子たちはどんどん強くなって悔しかった。女の子ってだけで見下されていじめられて、凄く辛かったっ。わたしも冒険者になれたら、スキルが、レベルが、ジョブがあったらあんな人たちに負けないのにって毎日思っているよ!」


 熱い言葉を吐露しながら、


「でもダメなのっ!」


 と、詩織は自らを否定した。

 目にかかる涙の幕を光らせながら、詩織は感情をぶつけてくれた。


「一人の時に、何度もダンジョンに行ったの! 一階層のスライムやスケルトンを何十体も倒して、だけどやっぱりわたしのレベルは0のままで……やっぱり女の子には無理なんだって痛感したの!」


 小さな拳を俺の胸板に押し付けながら、濡れた睫毛に縁どられた眼差しで尋ねてくる。


「ねぇ蓮斗! なんで? なんで神様は、あんな人たちには全部くれるのに……わたしには何もくれないの?」


 目にするだけで息が止まるほどに痛ましい姿に、俺は迷いなく答えた。


「それはな」


 ストレージから取り出したジョブカードを彼女の前に差し出して、


「俺が助けるためだよ」

笑顔を一つ。

「アクティベーション、ジョブカード魔法戦士」

「え?」


「おい鳴神聞いたぞ! テメェガチャマスターとかいう雑魚ジョブらしいな! 朝は偉そうな口聞きやがって!」


 バカの遠吠えをかき消すように、まばゆい光が詩織を包み込んだ。

 男子や女子たちの悲鳴と、綺羅星のような光の中で、詩織が転身するのがわかる。

 彼女の内側から今までにない熱を、確かな力を感じた。

 光が収まると、詩織が自身の脚で力強く大地に立っていた。


「どうしちゃったのわたし……これ? え? 魔法戦士って……」


 ジョブを得ると、冒険者はあらゆる能力の使い方を感覚で理解する。

 今も、詩織の脳内には覚えのない魔法と剣術の使い方がインストールされ続けていることだろう。

 自身の両手を見下ろそうとして、詩織は目をぎょっとさせた。


「け、剣!? わたし、いつのまにこんなの!?」


 そこで、呆気に取られていた男子たちが強がる。


「は、はん! 男から武器だけもらってもレベル0じゃ意味ねえだろ!」

「ほらよ!」


 男子の一人が、剣目掛けて矢を放った。射撃で、詩織の手から剣を叩き落とすつもりだろう。

 だが。


「わぁっ!」


 詩織は僅かに剣を傾けながら、その刃に烈風を纏った。

 矢と剣、互いの風が干渉し合い、相殺ながら衝突。

 矢は剣身に軌道を逸らされて明後日の方向へ飛んでいく。


「「なっ!?」」


 男子と詩織、互いの口から驚愕の声が漏れた。

 最初にジョブを得た人が通る道だ。

 もっとも、俺はガチャを回すだけだから知らない感覚だけどな。


「テメッ!」


 槍を持った男子が、大きく槍を振り上げた。

 同時に、詩織は前屈みに倒れながら弾丸のように加速した。

 戦士系ジョブにありふれた、加速スキルの類だろう。


「うぉっ!?」


 驚愕が一瞬の硬直を生み、槍が振り下ろされる前に詩織が懐へ潜りこむ。

 目測を誤った男子は、槍の柄を、詩織の斬撃に叩きつけることになった。

 無慈悲な硬音とともに、槍は柄の半ばからへし折れた。


「俺の槍がっ!?」


 加速スキルなら、あいつも持っているだろう。

 けれど、女子である詩織が加速するという予想外の出来事に冷静さを失ったツケだ。


「やっ!」


 詩織の右手が閃き、左手から水流が放たれた。

 剣の腹は弓矢男子の顎をしたたかに払い、脳震盪を起こして気絶させる。

 水流は槍男子の顔面から呼吸を奪い、溺れさせてショック状態を起こさせた。


「おいお前ら何やってんだよ!? 相手は女子だぞ!? 遊んでんじゃねぇ!」

「それは貴方もでしょ!」


 詩織がミドルキックの体勢に入った。

 小柄男子は舌打ちをしながら重心を下げて、バックステップで距離を取ろうとする。

 だが、背中は岩壁にぶつけて、行く手を阻まれた。


「なっ!?」


 そびえる巌は、地面系魔法でたったいま、詩織が生成したものだ。


「えいっ!」


 空手家ばりの鋭いミドルキックが、小柄男子の腹に放たれた。

 背後の岩に挟まれ、全運動エネルギーが内臓が炸裂した男子は地獄の苦しみだろう。


「ッッッ~~~~~!」


 悶絶しながら白目を剥いて昏倒。

 小柄男子はべしゃりと縦に潰れて動かなくなった。

 気が付けば、公園にはヨダレを垂らして痙攣する男子が三人。

 前代未聞の光景だった。


「やったな詩織、最高の初陣だったぜ!」


 軽く拍手しながら歩み寄ると、詩織は夢から覚めるようにハッとした。


「あれ? わたし……そ、そうだよ蓮斗! これどういうこと!? なんでシキシマ、冒険者になっているの!? なんで魔法戦士にジョブなんて持っているの!? シキシマ男の子になっちゃったの!? あ、違うみたい」


 自分の胸元を見下ろして、詩織は謎の安堵を得た。

 その姿がおかしくて、可愛くて、俺は笑いをこらえられなかった。


「そんなの決まっているだろ? 何せ詩織は、正義のヒーローシキシマンだからな!」


 俺が親指を立てる。

 詩織は唖然とすると。

 助けられた女子たちは、ぽかんとしたままスマホを構えていた。


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