第4話 電話の向こうで、幼馴染が可愛すぎた
短いやりとりの後に、詩織からの着信音。
赤いボタンをタップすると、詩織のためらいがちな声が聞こえて来た。
『あ、蓮斗? あの、詩織です……』
「電話してくれてありがとうな詩織。あと朝はごめんな、余計なことして」
彼女のほうから作ってくれた機会にすぐ謝った。
「ううん! 謝らないで! シキシマが悪いの!」
舌を噛みそうな勢いでまくしたててくる。
電話の向こうで、彼女の必死ぶりが簡単に想像できて頬を緩んだ。
「蓮斗はわたしのために口を挟んでくれたのに、せっかく助けてくれたのにありがとうも言わなくて、本当にごめん! お願いだからシキシマのこと嫌いにならないで!」
――ッッ。
『嫌いにならないで』女の子からそんなことを言われると、幼馴染でもよろしくない気分になってしまう。
謝ってくれている彼女の純粋を汚してしまうようなうしろめたさに、頬が硬くなる。
「いや、俺が浅はかだったよ。詩織の気持ちも考えないで。ごめんな」
『お願いだから謝らないで! ごめんはシキシマのほうだし、ごめんよりもありがとうだし! あれ? どっち?』
えーっとぉ、とスマホの向こうで懊悩とする詩織の姿が鮮明に見えるようだった。
寄せられた眉根、潤む大粒の瞳、ぱくぱくとせわしない口元、録画しておきたいくらい可愛い。
――いや、テレビ電話になってるじゃねえか。これ、気づいているのか?
指摘すべきか否か、それが問題だ。
そんなのシェイクスピアでもわからないだろう。
『それでね蓮斗、仲直りに遊びに行こ!』
思いがけないお誘いに、俺はシェイクスピアに退場願った。
「全然いいぞ。ていうか俺から言い出したことだしな」
イキり男子を追っ払ったあと、俺のほうから遊びに誘っている。
だから、俺としては願っても無かった。
『ほんと!? じゃあ今から駅前でいい?』
画面いっぱいに、ハレーションを起こしそうな笑顔が広がった。
本当に素直で、可愛い子だ。
詩織の笑顔を引き出せたことに万感の達成感を得ると、
『じゃあまた後でね♪』
画面が引いて、彼女の全身が映った。
制服を脱いだワイシャツはボタンが四つほど外れていて、着衣が乱れている。
あまりに衝撃的な映像に、喉の奥から変な声が飛び出してしまう。
『うわ、どうしたの蓮斗!?』
本気で心配してくれる音階に、最大限の罪悪感を味わいながら、スマホをベッドに伏せた。
「えっと、だな、詩織、今俺はスマホをベッドに伏せているから何も見えていない。まずはそのことを信じて欲しい」
『うん、うん? ……あー、テレビ電話なってるね。でもなんでベッドに……』
きょとん声の詩織はたっぷり数秒の間を置いてから、
『ふゃっ!? ちちち、違うの蓮斗! これはさっき着替えようと思ってそれで! 普段からこんな格好しているわけじゃなくてね! ていうか普段はもっと可愛いブラしているの!』
「じゃあ着替えて30分後に駅前で。楽しみにしているぞ!」
『待って蓮斗!』
ぶつん。
と一方的に通話を切った。
「ふぅ、あやうくまた顔を合わせられなくなるところだった」
手遅れな気がするのは気のせいさ。
楽しみにしていると念も押したし、今から30分間、通話とメールとLINEをブロックすれば詩織は来ざるを得ない。
ふふふ、完璧な作戦だ。
シキシマン、貴様も命運もこれまでだな。
世界征服を企む極悪秘密結社の総帥のような顔で笑い、顎をなでた。
「ん?」
『普段はもっと可愛いブラしているの!』
『じゃあ着替えて30分後に駅前で。楽しみにしているぞ!』
これ、俺が詩織の下着を楽しみにしているみたいじゃないか?
自身の命運が尽きたことを察して、一人絶望的にうなだれた。
◆
30分後。
心に致命的なダメージを抱えた俺が駅前で待っていると、可愛い気配が接近してきた。
「蓮斗」
名前を呼ばれて見上げると、歩道橋の上から詩織が下りてくる。
手すりにを手をそえて、一段ごとにワンサイドアップの房を上下に揺らしながら、近づいてくる幼馴染に絶大な安心感を覚える。
――よかった。来てくれた。
胸を撫で下ろしながら、安堵の息を吐いた。
「よっす。悪いな勝手に30分後にして」
「気にしないでいいよ。休日じゃないし、あまりおめかしに時間かけても遊ぶ時間なくなっちゃうし」
ふと、詩織も安心したように小さく笑ってくれた。
どうやら、さっきのハプニングはなかったことにしてくれたらしい。
おかげで背中が軽い。それに……。
――ふむ。
今日も、詩織はふわっとしたガーリーファッションだった。
制服で隠しきれないボディラインも秘められていて安心感がある。
これなら、俺もさっきのセンシティブな映像を思い出すことはないだろう。
「でもひどいよ蓮斗。シキシマのことブロックするなんて」
ちゅっと唇をとがらせてくる。
すねる姿も、詩織がすると可愛さしか感じない。
仕草があざといのではない、これが素なのだ。
「えー、そーなのかー、あー、ほんとーだー、なぜかブロックになってるぞー、ふしぎだなー」
「蓮斗のばかっ」
親指を握り込んだふんわりグーパンが、俺の腹に触れた。
なんだかお腹があったかい。
幼い頃のカッコイイ詩織は俺の光だったけど、今の詩織は俺のホッカイロだ。
「じゃあどこ行きたい? 俺が全部奢るぞ」
「いつもごめん、いや、ありがとうね」
両手を後ろに回し、俺に気遣わせまいと言い直す。いじらしい心配りが憎いね。
「ガチャのおかげで何気に経費がかからないからな。ポーションとか買ったことないぞ」
「う~ん、経済的なジョブだね」
「そうだぞ。役立たずだって仲間外れにされて、友情と引き換えのソロ活動で手に入れた金で今日は、あれ、なんでだろう、涙が出てくるぞ?」
腕で目元を隠し、泣くまねをすると、詩織が頭をなでてくれた。
「わわ、シキシマはずっと側にいるよ」
「ありがとうシキシマン、やっぱりお前は俺のヒーローだよ」
「だからシキシマンじゃないもん!」
「お互い30歳でも独り身だったらルームシェアしようぜ」
「そこは普通ケッ……」
不意に喉を詰まらせたように、詩織はくちごもった。
「ん?」
腕を下ろすと、詩織は両手の指をスカートの前で絡めながら顔を伏せていた。
「どうしたんだ? おーい」
「な、なんでもみゃい」
噛んだ。録音したかった。
「いこ」
指先で俺の袖口をひかえめにつまんで、詩織は歩き出した。
栗色のつむじを見下ろしながら、俺は自然と微笑んだ。
不謹慎だけど、こんなにしおらしい詩織も悪くない。
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