第3話 女子に使ったら、どうなる?



 イキり系男子を追っ払った俺は、呆れ口調で振り返った。


「たく、朝から嫌な気分になっちまったな……じゃあ詩織、放課後どこ行きたいか、あとでLINEくれよな」


 彼女を元気づけたくて、つとめて明るく振舞う。

 一方で、詩織は顔を伏せて、前髪の影に表情が隠れた。


「……いいね、男の子は……冒険者になれて……」


 濡れた声に、胸の奥がそっと曇る。

 自分のしでかした軽率な行動を悔やむも、過去は変えられない。


 弁明をしようとするも、俺のつたない脳みそでは気の利いた言葉なんて出てこない。


 まごついている間に、詩織は静かに立ち上がると、俺に背中を向けた。


 ――待ってくれ詩織! 俺は、その……。


 急速に頭を回転させるも空回り。

 恋愛漫画の主人公なら無策にとにかく追いかけるのだろう。でも、俺にはそんな勇気もなかった。


 近づけば余計に傷つけてしまいそうで……怖かった。


 ――なんだよ俺……詩織より自分が大切かよ……。

 自分の本音に、酷くがっかりした。


   ◆


 わたしって最低だ。

 放課後、家に帰ったわたしは、制服を最後まで脱ぐ気力もなく部屋のベッドに倒れ込んだ。


 そのまま、自己嫌悪で枕を抱いたまま動けなかった。

 頭の奥が、ジィンとしびれるように感じる。

 蓮斗は、シキシマのために口を挟んでくれたのに。


 自分よりもずっと大きな男子に恫喝されて、体が動かなかった。


 脚の感覚が無くなって、堅くなった喉がうまく声を出せないあの感覚は、今でも忘れない。


 この場でちゃんと断らないと。

そう思えば思う程、断ったあとを想像してしまう。


 目先の恐怖から逃げるために、無抵抗でいようとしてしまう。

 なんて情けないんだろう。

 自分で自分にがっかりする。

 枕に顔を押し当てる力も抜けていく。


 蓮斗が助けてくれた。

 蓮斗が手を差し伸べてくれなかったら、今頃あの男子とどこで何をさせられていたかわからない。


 大好きな男の子が助けてくれる。

 それは女の子なら誰だって一度は憧れるシチュエーションのはずだ。

 だけど、夢みたいな状況にわたしが感じたのは喜びでも愛しさでもなかった。


 見損なわれた。

 詩織じゃどうしようもない。

 俺が助けてやらないと。


 蓮斗にそう思われたのか情けなくて、悔しくて、恥ずかしくて、あの場から消えちゃいたかった。


 ベッドの中に身体だけ沈み込んで、意識だけの存在になるような錯覚の中で痛感する。


 わがままだ。

 そんなのわたしの傲慢だ。


 蓮斗はただ、目の前で困っている人を助けただけ。


 だって蓮斗は、誰よりも優しいから。

 幼い頃、蓮斗のいじめる男子を飛び蹴りで追っ払ったことがある。

 でも蓮斗の第一声は、「だいじょうぶ?」だった。


 カッコをつけて高いところから跳んだせいで、着地に失敗して膝をすりむいていた。


 あの時、わたしは蓮斗のことが好きになった。

 ずっと、彼にカッコイイって思われる存在でいたかった。


 なのに現実のわたしはだめだめで……こんな姿見られたくない。いっそ、蓮斗の前から……。

 涙腺が刺激されて、枕を濡らす前に顔を上げた。


「やだ……」


 ベッドのシーツを両手で握り締めて、頭によぎった想像を心の中に押し込んだ。


 逃げたくない。


 自分から逃げても、蓮斗からは逃げたくない。

 どんなにカッコ悪くても、蓮斗の側にはいたい。

 それだけは譲れない。


 奥歯を噛みしめてから起き上がる。

 袖口で涙を拭うと、全身の勇気を総動員してスマホを手に取った。


   ◆


 放課後。

 結局、詩織からのLINEは来なかった。

 なんとなくダンジョンに潜る気になれなかった俺は、自室のベッドに寝転がっていた。

 ぼんやりと天井を眺めながら考えるのは、詩織のことだ。


「なんで男しか冒険者になれないんだろうなぁ……」


 ダンジョンに生息するモンスターは強い。

 完全武装した米兵だって、低層の雑魚の相手がせいぜいだ。

 中堅以上のモンスターに勝つには、雑魚を倒してEXPを得る必要がある。


 そうすることでジョブを手に入れて戦闘能力を向上させたり、


 レベルを上げて身体能力を向上させたり、

 ジョブに付随する技や魔法、スキルを発現させて戦いを優位に進められる。


 だけど、何故か女子はいくら雑魚モンスターを倒してもEXPを得られない。

 ステータス画面のジョブはなし、レベルは0のままだ。


「……」


 ストレージから一枚のカードを取り出した。

 ジョブカード、魔法戦士レベル1。


 右手に燃え盛る剣を構え、左手には雷球を携えた戦士のイラストをまんじりと見つめる。


「中学の頃にこれがあったら、もっと活躍できたのかな?」


 クラスの男子たちに誘われてダンジョンデビューした日を思い出す。

 ガチャマスターという聞きなれないジョブに、俺もみんなも最初は盛り上がった。

だけど俺のガチャで出てくるのはハズレ品ばかり。


 みんなと協力してモンスターを狩りまくって、大量のガチャ券を集めた。

 それでも、100回連続★1しか出なかったあたりで見切りを付けられた。

 あの時、こいつを引いていたら魔法戦士として活躍して、みんなと楽しく……。


「したいのか……本当に……」


 眉間にしわを寄せて、自問した。

 インフルエンサーやトップ冒険者になりたいわけじゃない。

 注目されずに安全圏でひっそりと楽しみたいタイプだ。


 なら、男子たちと一緒に楽しく冒険者ライフをエンジョイしたかったか?

 朝、詩織に絡んだ男子を思い出して、こめかみがピクリと動いた。


 ――あんな奴らと一緒に? 冗談じゃない。


 あんな奴らばかりじゃない。

 けど、今どき男子は多かれ少なかれ、調子に乗っている感はある。

 一見おとなしそうな奴も、言葉の端々、ふとした時に、不遜な態度を覗かせる。


 俺を捨てた連中もそうだ。

 今ではそれなりの冒険者チームとして、地元の学生の間という狭すぎる界隈ではあるものの、一目置かれる存在だ。


 でも品性は伴っていない。


 ――違うよな。


 三年前のあの日、もしもこいつが出ていても、俺は詩織に使うべきだ。

 そして、二人で冒険者ライフを楽しむべきだろう。

 ただ、一つだけ気になることがある。

 上半身を起こして、カードを睨みつける。


「これ、女子に使ったら――」


 続きの言葉を遮るように、胸ポケットでスマホが振動した。

 画面を開くと、詩織からLINEが届いていた。



【いま、でんわしていい?】

【いいぞ】



 短いやりとりの後に、詩織からの着信音。

 赤いボタンをタップすると、詩織のためらいがちな声が聞こえて来た。



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