第2話 コラボ配信
カトラリーや食器の音が主音の小さなカフェには、士郎の声がよく通った。
長年士郎と入り浸ってきた大切な場所で、オーナーの老夫婦とも仲が良かったが、さすがに今回ばかりは会話がうるさくて微妙な顔をされてしまった。
士郎の愚痴やらが収まってから叔母さんが出てきて、「ぶいちゅーばーって何かしら?」なんて話しかけられた。士郎は叔母さんにも分かるように嚙み砕いて説明しながら、自分の使っているガワの話も始めた。このカフェのSNS運用をしている叔母さんに何を話しているんだ。一旦はコーヒーを飲んで聞き流していたが、カフェを出る前に叔母さんへ先ほどの話のフォローを入れて、釘を刺しておいた。
「で、いつコラボすんの?」
「んー来週のどこか。一旦中身は置いといて、あんな可愛いユラちゃんと同じ画面にいられるのはステータスだろ!」
「ふぅん。でも大丈夫なの?お前の配信見たことないけど喋れんの」
「たぶん?1人で喋んのは慣れてないけどコラボならもうちょっと上手くやれそうだし」
「立ち回り上手くないと多分叩かれるぞ、お前」
「うっ、確かに……。そこは気をつけないとだな」
友人としてとてつもない不安があるが、お気楽そうにユラちゃんユラちゃんと連呼する様子を見ていると心配する気も起きない。またコラボする日が決まったら教えてくれると言って信号前で別れた。
『じゃあ、ソラくんの自己紹介をお願いします』
『はい。初めまして夜見ソラです、ど新人のVtuberやらせてもらってます。
今宵は夜空がより綺麗に見えるかもですね』
『それ挨拶?すごくいいね』
『あっ、いや。いつものにちょっと付け足してて。ユラちゃ……えっと、ユラさんの月が隣にいるので夜空として完成するなぁと思っただけです』
『なるほど、詩的でいいね。そんなわけで今日は2人でコーナーを挟みながら雑談配信を行いたいと思います』
中身を知った上で友人の配信を見るというのは何とも奇妙な感覚だった。
普段見ない友人の姿への薄ら寒さと、文学科の語彙力の感銘とで感情が絶え間なく反復横跳びをしていた。配信の空気としては悪くはなさそうで、ユラリス――ユラちゃんのファンの極一部によるソラへの嫉妬やら冷笑のような書き込みはあるものの、応援する声の方が多かった。最近の相談内容は女性からのものが多く届いていて、月乃ユラの女性リスナーが増加していることが一因だろう。配信やコラボへの配慮が足りない部分は、教養を感じる語彙によってぎりぎりプラマイゼロを保っているといったところだろうか。ゼロでは意味がないけれど。
『え、ソラくん呼び?変かな』
作業をしながら聞いていた俺は、急に焦った声色のユラちゃんに遅れて意味を理解した。俺も事情を知っているから何も感じなかったけれど、言われてみればそうかもしれない。下手にくん呼びするよりかは呼び捨てや敬称の方が配信向きだったと思う。一つのコメントが波紋して、彼氏かと憶測が飛ぶ事態にまで発展した。2Dのそわそわしたソラが余計な口出しをしないかと画面から目を離せずにいると、のんびりした低い声が耳を撫でた。
『ちがうよ、私彼氏はいないから。ソラくんは本当に最近知り合っただけだから、あまり彼の迷惑になるようなことは言わないでほしいかな』
ユラちゃんがそう言うと、コメントの動きが少しゆっくりになった。代わりに、『彼女はいるの?!』と話題が別方向に向かった。コメント欄の変化に笑うユラちゃんに、ソラも乗っかっていた。
『じゃあ僕が女の子だったら恋愛対象だった?』
『えぇーどうだろう笑 あんまタイプじゃないかも……』
男2人で何やってんだ、というツッコミは胸の内にしまっておく。
炎上リスクは上手く回避できたようで良かった。それから緩やかに話題が変わり、好きな星座の話に移行した。タブレットにペンを走らせていると、自分のパソコンの通知が鳴った。内容を確認して、これは一仕事だと大きなため息をついた。
Vtuberの正体と 高守 帆風 @uni_hkzKlight
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