Vtuberの正体と
高守 帆風
第1話 Vtuberのリアル
今日は初めて月乃ユラの中の人と話せる貴重な日だ。
貯めてきたお金とローンを組んで始めたVtuber活動から約2か月が経った。個人勢とはいえ連絡をしても返事が返ってくるかは分からない状態で思い切ってDMを送ると、快い返事が返ってきた。相手が異性であるというのにお話をしてくれるという事実に震えながら来る当日を心待ちにしていた。ユラちゃんは6年も活動を続けているから配信者としてのレベルはそれなりに高かった。リスナーとの距離感も絶妙で、その良い塩梅の中で掛けられる甘い台詞に、俺は夢中になっていた。
画面の前で30分前待機をしていた俺は、ユラちゃん――いや、中の人のアイコンが光った瞬間緊張がカンストした。
『はじめまして。ええと、夜見ソラくん、だったっけ』
「あっ、はい。そうです。今日はよろしくお願いします」
話を続けること15分。少しずつ緊張がほどけつつあった俺は相手の声の魔法も解けていることに気がついた。配信時の声よりも芯と深みがあって、普段聞く声よりも低く感じた。これくらいの声なら大学の男友達にも居そうなくらいに低い。風邪でも引いているのだろうか。それとも元の声がハスキー寄りだったりするのだろうか。
『ソラくん?聞こえてる?』
「えっ、あ、すみません!……あの、普段は声低いんすね」
『うん。あー、もしかして俺の配信たくさん聞いてた?じゃあちょっと夢壊しちゃったかもね』
「あー、いえ!全然!少しびっくりしたけど、女性でその声ってかっこいいっすね」
『……あー。俺男だよ?』
『あれ、聞こえてる?俺、実は男なんだ。ごめんね』
「な、な……嘘、ですよね」
『残念ながら、女性ではないよ。俺の好きなイラストレーターさんにふざけて発注お願いしたら、めっちゃいい感じの来たから採用にしたんだ』
愉快そうに笑う中の人の声を聞きながら、俺は割れてしまったツノをかき集めて、それから昔なじみの友人に電話を掛けた。
小学校からの腐れ縁の安達士郎から緊急の連絡があって、仕方なくパソコンの画面を落とす。この前まで騒いでいた例のVtuberの話らしい。電話口では怒気を孕んでいて何を話しているのかよく分からなかった。白鳥友樹は暇なので、指定されたカフェへ行く支度をした。
「前どこまで話したっけ?あのVtuberの子に会いたくて、俺もV体手に入れて活動始めたんだけどさあ」
「やめとけよ……。そんで、その子の名前は?」
「月乃ユラちゃんって言うんだ。知ってる?」
「…………知らんな」
カフェで落ち合ってすぐに本題に入った士郎は、今度は勿体ぶらずに教えてくれた。持っていたコーヒーがわずかに揺れて、指をひっかけ直す。平静を装って聞き専の姿勢でいると、士郎は突然大きな声を出した。
「でもさあ、ユラちゃ……月乃ユラって男なんだってよ!キモくねえ!?俺の純情返せよっつーの!!」
「声でけぇって。そういうのってあんま言わない方が良いんじゃないの」
「いうて登録者40万行ってねえんだからこんなちっせえカフェで言ったって問題ねえだろ」
「つか、本人にDMしたの?さすがの行動力すぎるって」
「そー、駆け出しなんで手取り足取り教えてくださいって。通話してたらいつもより声低いなーって思って、聞いたら」
話しながら怒りが再度点火したのか、また愚痴が始まった。ユラちゃんは、少し青みがかった黒髪に細い瞳で清楚な雰囲気をまとった乳のでかいキャラクターらしい。浪漫の詰まったビジュアルは中身を知るとより残念なことになってしまうことだろう。声はボイチェンではなく、少し声を作って出せるという、いわゆる両声類と呼ばれる類の人だったこともあって余計にわかりづらかったらしい。
少し離れた数人の視線が痛くなってきたところで、士郎の愚痴に静止をかけた。
「まあいい経験だったんじゃない?Vtuberの裏側覗くなんてご法度だしさ」
「それはそうだけど!ボイチェン使ってる感じもなかったし中身が男なんて誰が思うかよ。つーか!話聞いてたら彼女持ちだと。まじきめぇぇぇぇ!リアルも充実してんじゃねえか!」
「だからそんなもんだよ。諦めて地下アイドルでも推しなよ」
「いや!でも今度コラボするってことになったんだ」
「……は?」
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