フーカ

 突然始まった■■との闘い。フーカに施されていた魔法を鈴凛が片手間に解いていたお陰で、■■の虚を突くことができ、勝利した。

 話は後に、とまずはウレンサ王国に帰った。


「で、フー?今回のあれはなんだったのさ?」

「ちょっと待ってね、どこから話せばいいかわかんないから!」


 帰って早々、休む暇もなく、フーカは尋問を食らった。


「フーちゃんは、あれが、何か……知ってた?」


 フーカの頭の中の整理が終わらなさそうだったので、質問式にすることになった。


「ええ。あれは紛れもない、よ。そうね、順番に本当のあたしの過去を話しましょうか。」


 ■■が何なのか、その説明のために今まで偽ってきた過去を3人に打ち明けた。


 今までは、

「何の不自由もなく幸せに生きてきて、独り立ちするためにウレンサ王国に来た。」

「両親は故郷で幸せに暮らしている。」

……そう話していた。


 実際は全くもって違った。


「あたし、ママの不倫相手との子なの。それは、ママも望まなかった。それでパパが怒っちゃって。家出しちゃって。不倫相手はどこかに逃げちゃった。」

「そういえば、聞き取れなかった■■っていうのはぁ……?」

「不倫相手がつけた名前よ。全く良い意味じゃないわ。___汚物サースタ。それが生まれたときのあたしの名前。」


 思い出すだけでも泣きそうだった。誰にも望まれなかった命の誕生。誰も喜ばなかった。誰も祝福しなかった。


「ママはあたしを無かったことにして、パパを探したの。」

「なかったことに?」

「まあ、居ない風に扱ったのよ。ママはあたしを無視した。」


 ご飯が欲しいと言っても、外に出たいと言っても、母親はまるで存在を認識できないかのようにフーカを扱った。


「13歳ぐらいの時かしら?とうとう捨てられちゃった。あの森にね。」


 捨てられた時の心情は今でもはっきり覚えていた。そこに悲しみなんて一切なかった。


「1年くらいそこで過ごしたわ。それで、なんとな~く村に戻ってみたの。ママとパパが幸せに暮らしている様子を一目見たくて。そしたら誰もいなかった。」


 もしかしたら、もっと良い町に引っ越したのかもしれないとも思った。しかし、その時、胸がざわついたのを覚えて、近くの村人たちに尋ねた。「この家の人間はどうなった」と。

 そうしたら全員が答えた。「想い人が帰ってこず、あの森の奥で首吊り自殺をしたのだ。」と。あそこは元々、村のなかで自殺スポットとして有名だったらしい。


 そのとき、フーカは深い憎悪と悲哀に溺れた。

 父親が戻ってこないのなら、諦めて自分を愛してくれてもよかったじゃないか。

 母親の幸せを願って愛されることを諦めたのに。誰も幸せにならなかったじゃないか。

 自分の覚悟を無駄にするのか。


 フーカはすぐにその森へ向かった。大量の死体の中に母親を見つけた。痩せ細っていて、かなりのストレスに苛まれていたようだ。


「ママを見て思った。もう、絵本みたいなハッピーエンドは有り得ないんだって。そこで何かが抜け落ちた感覚がしたの。多分それが……。」

「今回のアレか。」


 いつか読んだハッピーエンドの物語。そんな結末を望んで、絵本の主人公みたいに自分の願望を捨てたのに、残されたのは行き場のない人生だけだった。そこに、誰のハッピーエンドもなかった。

 絶望の果て抜け落ちた汚物サースタ。余程のショックでその場から逃げ出し、記憶は封印された。


「……フーちゃんが逃げたことで、残された憎悪のカタマリは許せなかった。……から、フーちゃんを呼んだ。」

「それで合ってると思うわ。」

「じゃ、取敢えず報告書を書こうか。フー、お前が書いてね。」


 セイが、依頼人に提出する報告書をフーカに渡す。

 見ると、フーカは明らか面倒だという顔をして嘆く。


「ええ!?あたし結構疲れたんだけど!?」

「こちとらお前に巻き込まれてんの!それにお前が調査したんでしょ!」

「そうだけど!……コルマク?手伝ってくれるわよね?」


 少し考えて、何も考えず手伝ってくれそうなコルマクに頼んでみる圧をかけてみる


「……。」


 残念ながら、コルマクはいつも通りボーっとしていて話など全く聞いていなかった。


「フー?」

「ひぇ、おっかないわね。……もう、ちゃんとやるったら。」


 筆を執り、報告書をまとめようとするが、その前に言わなければいけないことを思い出したようで、動いたばかりの筆が止まる。


「どした?」

「その、ごめんなさい。今まで嘘吐いて、こんなことに巻き込んで。本当にあたしったら……。サースタって名前、合ってたのかもね。」


 仲間を大事だと言っておきながら、汚い自分を偽って威風堂々と、星の神の愛娘セイ凛と鳴く鈴鈴凛純粋な白い花コルマクの上に立った。


「そんなこと、ない。フーちゃん、綺麗。」

「見た目はそうかもね。だって、あたし可愛いもの!」

「ちがう、くて、えっと……うぅ……。」


 自身を貶したことが許せず、咄嗟に言うが、結局纏まらず黙ってしまう。


「まあ、コマの言う通り。君の仲間思いは本物じゃんか。全く汚物なんかじゃないよ。」

「……ホントに?」

「うん。うちも、同意見だよぉ。それに、汚物なんか言っちゃ悲しくなっちゃう。多分コルマクちゃんもそう言いたかったんじゃないかなぁ?」


 段々と、フーカの目に涙が溜まる。そのまま報告書を投げだして、フーカは3人に抱き着いた。


_____________フーカ編 終_____________

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