第6話(最終話) 貧乏貴族は神獣様と帰る

「して、神獣様。我らにいかような罰をお与えするのでしょうか?」



 陛下の問いに、キュアはしばし沈黙した後、静かに答えた。



『人間の王よ。先程も言ったが、此度の件は人間だけでなく、我らドラゴン側にも非がある』


 そう前置きすると、キュアはゆっくりと私へ視線を向ける。



『ゆえに――ここは、聖女に判断を委ねてはどうだろうか』

「……へ?」



 一瞬、思考が止まった。


 聖女?

 それって、つまり――。



『ねぇ、リリアナ。どうする? 国を滅ぼす? それとも王族全員、皆殺しにする?』

「ちょ、ちょっと待って! 発想が物騒すぎるって!」



 慌てて両手を振る。



「そんなことしたら、お父様とお母様が悲しむでしょう!? それに、領民のみんなだって……!」

『あはは。冗談だよ』



 そう言いながらも、キュアはさらりと恐ろしいことを口にする。



『一応言っておくけど、僕は神獣だからね。攻撃力はなくても、ドラゴン達を統率する力がある。本気を出せば、国一つ滅ぼすことくらいは出来るよ』

「……うん。分かった。でも、絶対に滅ぼさないから」



 貧しいけれど、温かくて、大好きな故郷。

 それを私の一存で失わせるなんて、出来るわけがない。

 それに――今回の惨事の原因は、どう考えても一人ではない。


 静かに立ち上がった私は、キュアの隣に立った。



「陛下。臣下として、ひとつ進言してもよろしいでしょうか」

「あぁ、聞こう」

「此度の騒動の発端は、フレッド殿下による婚約破棄と、その後の対応にあります。ですので、この場にいない当事者三名――フレッド殿下、シャルロッテ様、そしてカレン様に、相応の処罰を与えてください。特に、王太子であるフレッド殿下には、重い責任を」



 講堂が静まり返る中、少しだけ考え込んだ陛下は深く頷く。



「分かった。公爵、男爵と話し合った上で必ず処断しよう」

「ありがとうございます」



 そのやり取りを聞いていたキュアが口を挟む。



『では、ドラゴン側の処遇は我に任せてもらおう』

「はい。お願いします」

『安心しろ。二度と人を害する真似が出来ぬよう、きっちり“躾”をする』

「……躾、ですか」



 灰色で気弱だった頃のキュアからは想像もつかない、堂々とした物言いに内心驚く……というより引いた。


 次の瞬間、キュアは私の首元をそっと咥え、そのまま背へと乗せた。



「き、キュア!?」

『話は終わりでしょ? それなら、リリアナの故郷に帰ろう』



 その言葉に、胸が熱くなる。

 それは、旧校舎に逃げ込んだ時の誓い。


 『卒業したら、キュアと一緒に故郷へ帰る』と。



「覚えててくれたのね」

『もちろん。君の願いは、僕の願いだから』


 

 満足げに頷いたキュアは大きく翼を広げると、陛下へ最後の忠告を放つ。



『人間の王よ。盟約に従い、我と聖女の存在を隠せ……はさすがに無理だから、これを機に我と聖女に関わるな。特に、貴様の息子達には厳重に言い聞かせろ。あれは強欲だ。何をしでかすか分からない。さもなくば――次はない』

「もちろんでございます、神獣様」



 深々と頭を下げる陛下を背に、キュアは空へ舞い上がった。



『行こう、リリアナ』

「うん……って、私の故郷、分かるの?」

『分かるさ。君を呼ぶ声が、あちらから聞こえる』



 示された先は、間違いなく伯爵領の方角だった。


 私は笑って、キュアの首にしがみつく。



「行こう、キュア」



 澄み渡る青空の下、私は最強の相棒と共に故郷へ帰った。


 その後、騎士団に捕らえられた3人は、それ相応の重い罰が課せられた。


 そして、学園で大暴れする私に一目惚れしていた王太子の双子の弟である第二王子が、わざわざ伯爵領まで求婚しに来るなど、まだ知る由もなかったのだけれど。

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卵から孵った気弱ドラゴンは、実は伝説の神獣でした 温故知新 @wenold-wisdomnew

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